武田的ディテール

2025年3月25日 (火)

銀橋(7)階段塔は方眼紙とコンパスで描かれている

こうやって何度も写真を見直していてようやく分かった。この階段塔は方眼紙で描かれている。武田は方眼紙を使ってデザインしたことで知られる。そうしたアイデアスケッチも残っている。さらにコンパスが大好きで、方眼紙上にさまざまな円を描きながらデザインを整えた。この階段塔もそうやって描かれたものだろう。武田の方眼紙を写真のうえに再現してみた。ぴったりではないか。

左右には6つのマスが並ぶ。上下には9つ並ぶ。屋根のてっぺんが9つ目の正方形の上端に届いていないのは、屋根のてっぺんが後ろに下がっているからだ。立面図に起こせばちょうど9つ目のマスに届く(立面図スケッチ参照)。この仮想方眼だと、アーチの中心がうまく方眼に当てはまる。武田がこの階段塔を方眼紙で描いたことの傍証となろう。

武田らしいのは立面の比率が2:3になっていること。武田は立面にしろ平面にしろ、とりあえず2:3の比率にしておけという。2:3の比率は黄金比の1:16に近いからだ。

さらに、各部が3分割でデザインされている。全体のうち、上部の3分の1が屋根だ。屋根部分は上下に3分割されている。下から埋め込み照明の部分、急勾配の屋根、緩い勾配の屋根の順だ。急勾配の屋根と緩い勾配の屋根もそれぞれ3分割されている。なにゆえ武田がこれほど3にこだわるのか分からないが、いかにも武田らしいデザインといえよう。

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2025.03.18、大阪市北区

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2025年3月24日 (月)

銀橋(6)照明器具はだれがデザインしたか

階段塔上部の角に照明が仕込んであるのがおもしろい。埋め込み型の照明は武田らが提唱して始まったものだ。ちなみに照明学会も武田たちがつくったものだ。埋め込み型照明や間接照明など現代的な照明方法を武田は模索していた。この埋め込み型照明もそうした作例のひとつである。

橋上には鉄骨に取り付けられたランタンが並ぶ。船の照明器具をイメージしているのだろう。なかなかかわいい。これも武田自身のデザインだろう。なぜなら銀橋にとりつけられた照明器具のすべてに「横3本の線」が入っているからだ。

このランタンも階段塔の埋め込み照明とアーチ上の照明器具もすべてに横3本の線が入っている。「すべて」に入るのは偶然とは思えない。3は武田が好んだ数字だ。照明器具については武田自身がデザインしたように私には見える。

ここまで書いてきて、このユーモラスな階段塔そのものが武田自身のデザインに思えてきた。いままでは橋梁設計者が描いた図面に朱をいれて校正したのだろうくらいに思っていた。そうではなく最初から武田が描いているのではないか。その分析は次回に。

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2025.03.18、大阪市北区

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2025年3月23日 (日)

銀橋(5)じつは銀橋は伸縮自在だった

鉄橋は両岸をヒンジで固定するものが多い。ヒンジとは丁番のことだ。岸側に取り付けた受金物にアーチの先端を差し込んでピンでとめている。

鉄橋は熱で膨張して伸びる。橋の長さが伸びたときにアーチの両端が固定されていると、そこが突っ張って壊れてしまう。そこで両端のヒンジにするとどうなるか。アーチは伸びた分だけ曲がり方が大きくなる。アーチの背は少し高くなり、両端の付け根の角度も大きくなる。両端がヒンジなので角度が変わっても大丈夫なのだ。これが2ヒンジ型アーチだ。

ところが銀橋はアーチのてっぺんにもうひとつヒンジが入っている。3ヒンジ型は珍しい。これは両岸の地盤沈下を見込んで設けられたという。銀橋の架けられた昭和5年には、工業用水の汲み上げによる地盤沈下が大阪で始まっていた。昭和30年代には大阪湾岸で年間沈下量20㎝を超えたという。10年で2メートルだ。

地盤沈下量は橋の両端で異なる。最大2メートルもの差がつけば鉄橋はどうなるか。アーチは引き延ばされて背が低くなる。アーチは高くなるより低くなるほうが弱い。たとえば、まっすぐな棒とアーチ型の棒に重りを載せればまっすぐなほうが先に折れるだろう。アーチが低くなるということはまっすぐな棒に近づくということなのだ。

もし、2ヒンジ型でアーチの引き延ばしが起こるとアーチが折れるおそれがある。そこで登場するのが3ヒンジなのだ。これなら中央のヒンジが働いてアーチがきれいに伸びる。ほんとかよ、と驚くような構造に銀橋はなっているのだ。

実際には、桜ノ宮で2メートルもの地盤沈下は起きなかった。それでも、岸から銀橋を眺めると橋の中央が少し下がっているのが見える。3ヒンジが働いて橋が伸びたのだ。わざわざ3ヒンジにしたことが役だっているのである。

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2025.03.18、大阪市北区

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2025年3月22日 (土)

銀橋(4)これが武田の機能美だ

まるで白鳥が飛んでいるようだ。斜めの補強材の取り付け部分がなめらかな曲線なのが特徴である。それがゆえに全体の統一感が増し鳥がはばたくような軽やかさを手に入れた。

武田は橋梁技術者を集めた会合でこれからの橋梁美について語ったことがある。今までのように装飾で構造を隠すのではなく、構造の持つ美しさを技術者自身が引き出す工夫をすべきと言った。よくぞ言ったものである。その事例として紹介されたのがこの銀橋だった。構造美の典型がここにある。

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2025.03.1、大阪市北区

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2025年3月21日 (金)

銀橋(3)花見の階段塔

銀橋には河川敷の公園へ降りる階段塔がある。これがあることによって両岸を周遊することができる。武田は両岸公園の一体化を考えて、この愛らしい階段塔を設けたのだろう。

とくに花見の時期に催される「造幣局通り抜け」では重宝する。京阪天満駅から天満橋を渡って天満宮へお参りする。そこから東へ向かえばほどなく大川端の造幣局表門に至る。通り抜けは表門から北へ向かうのがコースだ。造幣局の桜を愛でながら進めば裏門へ至る。裏門横の天満橋を渡りさらに左岸をさかのぼればJR桜ノ宮駅に至る。まるで花見のために用意された階段塔なのだ。

おもしろいのは建物の角を丸くしていることだ。角ばっていると影がはっきりして輪郭がシャープになる。角が丸井のはその逆でエッジが出ないのでふんわりとやわらかい印象を与える。それは和やかな公園風景に馴染むことを意識したディテールなのだろう。

階段塔は外形は四角いのに内側は八角形になっている。ラセン階段を入れるために八角形にしたのだ。それなら外形も八角形にすればよかったのではないか。このところは謎である。

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2025.03.18、大阪市北区

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2025年3月20日 (木)

銀橋(2)ラセン階段の見下げ

ラセン階段は見下げもよい。ステンレスパイプの手すりは戦後のものだが、さすが大阪の金属加工技術はすごいと思う。この手すりのおかげでラセン階段の魅力が倍増している。

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2025.03.19、大阪市北区

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2025年3月19日 (水)

銀橋(1)ラセン階段の見上げ

久しぶりに行ったので見上げてきた。らせん階段は見上げがよい。なかなかよい景色である。武田五一成分を満喫して和む。

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2025.03.19、大阪市北区

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2025年1月29日 (水)

五龍閣のディテール(9)バルコニーのずれた中心

写真を見直していて気づいた。屋根の中心(一番高いところ)とバルコニー出入口のドアの中心とがずれている。ドアが少し右側に寄っているのがお分かりだろうか。今までまったく気づかなかった。

わたしなら、設計するときにそこは合わすだろう。でも少しぐらいずれてもほとんど気にならないのだ。これは武田の設計がうまいからだろう。

武田は設計の際に外観よりも室内の使いやすさや快適さ優先する。なにごとも合理性を大切にする建築家なのだ。そのうえで外観を調えていく手腕が見事である。だから、こうやって中心をずらした合理的な理由が室内側にあるに違いない。今度行ったら理由を探してみよう

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2024.12.02、京都市東山区

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2025年1月28日 (火)

五龍閣のディテール(8)照明器具の吊元の左官仕事

照明器具の吊元の左官仕事が見事だ。武田らしいシンプルな幾何学模様がおもしろい。それを立体的に作り上げた京左官の仕事ぶりが頼もしい。これをどうやって作っているのかよく分からない。石膏の部分と板に漆喰塗りの部分とコテ絵とが混じりあっている、のかも知れない。

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2024.12.02、京都市東山区

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2025年1月27日 (月)

五龍閣のディテール(7)ベンチシート

1階にあるベンチシート。ビリヤード室だったのではないかと思っているが、それらしいのはこのベンチだけだ。ベンチの中央に飾り台をしつらえた端正な造りだ。側壁にスイッチがある。呼び出しベルだと思うがよく分からない。こういうものがあっても決して押してはならない。スイッチが壊れる可能性がある。

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2024.12.02、京都市東山区

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