講評

2024年3月 8日 (金)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表 感想メモ(2024.03.08)

いずれも見ごたえがあった。この学年はコロナ禍の始まった2020年入学である。教育現場の混乱が悪影響を与えたのではないかと恐れていたが、それは杞憂であった。例年にも増して力のある作品ばかりだった。

不思議なことにレベル差をあまり感じさせない。それはお互いの作品をよく見ているからだと思う。全員が一定以上の実力を持っているのは、困難な環境のなかで助け合ったからだろう。卒業してもぜひお互いに助け合って苦難を乗り越えてほしい。卒業おめでとう。

< 全体として >
設計は調査から始めるのが常道だが、プレゼンにおいてどこまで調査結果を説明するのかは悩ましい問題である。すべてを語ればくどいし、無ければ設計根拠が希薄に見える。それを上手に説明するのはなかなかむつかしいのだ。しかし、今回の作品群はいずれもその塩梅がちょうどよかった。事実関係を端的にまとめる力が身についているのだと思う。それは自分自身の視点や考えがしっかりしていることの証左でもあろう。調査した内容を鵜呑みにせず、自分自身の言葉で語ってみせる。その迫力が今回の卆計展には確かにあった。


< 個別に >


( 建築・環境デザイン研究室 )

・~地域コミュニティが機能し持続させるアソシエーション組織の発生に関する施設~
和歌山新宮に紀伊半島豪雨などに即応できる支援拠点をつくる計画。斜面地に合わせた木造低層の複合的な造形がひとつの集落のような柔らかい風景を作り出している。確かな設計力を感じさせる作品だ。支援プログラムに参加するボランティア学生たちがここに住まい、拠点運営にかかわる。運営方式にまで踏み込んだ丁寧さもとてもよい。

・小さな住まいから広げる暮らし方 ‐コアハウス型住宅‐
高知市内の斜面地を利用した津波復興住宅の試み。3メートル角のコンクリートユニットと2.7メートル角の木造ユニットを組み合わせたユニットシステムを考えた。日常はカフェやテナント、イベントスペースなどの公共スペースとして利用し、避難時にはシステムに従って増築して被災者の住居となる。平時になれば、減築して再び公共スペースに戻す。斜面に展開するユニット群が集落のような美しい風景となる。規模を拡大すれば、集落計画としても機能するシステムだと感じた。集落風景をシステムとして提示する小気味よさがある。

・子どもが感じる「わくわく」の要素
大阪市内の天満駅前の雑多な飲食街に展開するこどものためのスペースづくり。まちの隙間や空き地を利用した4つのサイトが路地でつながる。駄菓子屋、ターザンロープ、落書き黒板、ジャングルジムなどを張りめぐらせる。秘密基地のような楽しさがある。夜になれば大人が使う場所に変身したりビールケースを利用したストリートファニチャーなどの工夫もおもしろい。外国人の増え続ける大阪ではさまざまなコミュニティ計画が必要となる。アートや音楽、食文化など言語にたよらないコミュニティづくりのテーマのなかで「こども」は大きなジャンルだ。それを先取りした作品だと思う。

・地域「らしさ」の構造に関する研究 ~記憶の強度と思い出の強度に着目して~
大阪市内のガモヨンと呼ばれる蒲生4丁目を舞台として、地域特性を活かしたコミュニティづくりを提案した。こどもたちが主役となるガモヨンこども祭りをさらにパワーアップさせるための施設を古民家エリアと商店街エリアに分散配置して計画している。展示スペースや簡易店舗など祭りと日常それぞれの使い方を用意するなど入念な調査とそれに基づく秀逸なアイデアが見て取れる。ガモヨンカレーなど既存の名物を取り扱うなど、ディテールが楽しい。

・河川の夜間景観について【円満字賞】
このクラスでもっともスケールの大きな計画。ライトアップによって水の都を復活させる試み。大阪城北の寝屋川とや第二寝屋川周辺を計画敷地とした。地域性や季節を反映させた色の違いを考慮するなどライトアップによるランドスケープの正統な手法をよく理解している。照明を組み込んだストリートファニチャーの試案など散策者が都市景に参加できる仕組みもとてもよい。

・これからの都市の住まい方を地方のお裾分けから提案
大阪府堺市内の津久野駅前を敷地とした。石津川の付け替えにより使われなくなった万年橋がモニュメントとして残されている。昭和7年竣工のRC造の吊り橋が珍しい。布のようなやわらかい大屋根の施設が万年橋に寄り添う。漬物を交換し合うことでコミュニティの熟成を計るという発想がおもしろい。施設で作られ保存される漬物をお互いに交換し合う。漬物だけではなく酒造りや藍染めなどの発酵製品全般を対象としたのもよく考えられている。藍染めの河内木綿が万年橋に翻る風景が目に浮かぶようですばらしい。


( インテリア・建築デザイン史研究室 )

・三重県熊野市移住促進のための拠点の提案
旧波田小学校の木造校舎を改造した施設を中心として移住者支援施設を計画した。宿泊施設のほかカフェなどの複合施設となっており、地域との連携を視野に入れた設計となっている。斜面地に小学校と同じ赤い屋根の建築が並び、新しい集落風景を作りだしているのがとてもよい。造形力を感じさせる見ごたえのある作品だ。

・タタズム
大阪市内芝田町に散財する4つのアートスペースの計画。それぞれ李禹煥(リ・ウファン)のガラスや鋼を使ったアート作品に着想を得たポケットパークを設計した。下町を舞台としたインスタレーションの一種と考えてもよいだろう。モデルとした作品それぞれの「出会う」「聴こえる」「ぶつかる」「ひろがる」などのメッセージを忠実に再現しようとする気迫が感じられるおもしろい作品だ。

・移住者住宅×思い出がしまえる避難空間の提案
  ~姉妹都市すさみ町にて~
和歌山県すさみ町に津波被災時の救援施設を兼ねた移住者25世帯の集合住宅を計画した。地域住民のセカンドハウス20戸を併設するのがおもしろい。施設の中心は住民の思い出をしまう金庫室なのがとてもよい。地域が災害を乗り越えるためには地域共有の記憶の力が必要となることをよく理解している。違い棚のようなずれたグリットの上で壁を動かすことで、平時と被災時の使い分けを実現させた設計力を評価したい。配給所を移住者らが運営するという設定もなかなかよいと思う。

・見上げる建築 ‐星空×駅-
  兵庫県河辺郡猪名川町地域課題解決のための提案
兵庫県猪名川町のニュータウンに天体観測をテーマとした新駅を計画した。天体観測をテーマとしてニュータウンのバラバラになっている住宅地をひとつにまとめようとする試みである。プラットホームとバスロータリーは丘の地下にある。徒歩で帰宅する場合は、駅上の丘にある天体観測エリアから遊歩道をたどる。丘を貫通するいくつかの筒がある。筒を通して地下駅から見える星座が季節と時間によって入れ替わる工夫がおもしろい。宮沢賢治の天気輪の丘を思わせる楽しい計画である。

・心と建築 ‐ストレスコーピングによる空間の提案‐
ストレスコーピングとはストレスを軽減させるヒーリングの手法をいう。大阪市内の業務地域のまんなかにある中之島にコーピングのための公園施設を設ける計画。施設は水上へも広がり、風や水音、見通しなどを感じることができる。造園と建築の双方を視野に納めて、新しい都市景を作り出そうとする意欲にあふれた作品である。

・鎮まる建築 ‐香川の遍路巡礼と思索空間‐
香川県高松市内の斜面地に設けられた新しい巡礼聖地。宿所と瞑想のためのスペースを計画。小規模な矩形を雁行させて丁寧に配置して、斜面にひろがる低層都市のような美しい風景を作りだした。フランク・ロイド・ライトに似た、内外の相互貫入が心地よい。このクラスでもっとも設計力のあるうちのひとりだろう。

・学生+商店街≒キャンパス街
寝屋川駅前に学生の住む街を作る計画。駅前商店街に接して学生寮、小体育館、カフェ、ギャラリーなどを設けて学生街とする。また既存駅前広場に農産物販売やキッチンスペースを有した道の駅を併設し、学生街と地域との連携を計画した。既存商店街のとりとめのない風景のなかに学生街を創出させて新しい風景を作り出そうとする発想がおもしろい。


( 地域共生デザイン研究室 )

・稲作の副産物を用いたRBB(Rice Byproduct Bale)シェルターの新デザイン提案
ベールとは牧草などをワイヤーやビニルなどで包んだもの。ここではワラなどで構成した避難シェルターをベールと呼んでいる。2本柱の高床構造。荒縄を編みこんだ外壁にモミ殻の断熱材をタタミ表で包んだ。ガラス塗料を塗った板材で屋根をつくる。稲作地帯の身近な素材を中心に、被災者自身が容易に作ることを前提としている。それが茅葺き屋根の古民家集落の風景と通じるものがあるのがおもしろい。

・在日ミックスルーツ(MR)コリアンと日本人の豊かな共生にむけて 
  ~文化背景の異なる人同士の結婚儀式・場のデザイン提案~
大阪市内のコリアタウンを流れる平野川の水面に共生をテーマとした結婚式場を設ける計画。世界の結婚式を調べたうえで新しい儀礼を考えている。朝鮮半島の伝統工芸であるポシャギの天幕で覆われた水上の道を新郎新婦が歩く。ポシャギは一種のパッチワークだそうだ。ふたりの婚儀を祝うものたちが布を持ち寄り、それを大きな天幕にともに縫い上げる。縫うという行為に祝福の意義を見出したのは卓見だ。ほかに記念植樹の儀式など象徴的な儀礼を考えていておもしろい。川を敷地に選んだのは境界性を意識させるためかもしれない。川は横から見れば地域を分断するが、縦に見れば地域をつなぐ水路となる。いかようにでも深読みできるおもしろい作品である。

・サルとの共生デザイン提案 
  ~サル山からこれからのヒトとその他の動物との関わり方を考える~
大阪府箕面市の野生ニホンザル保護区の整備計画。杉やヒノキの人造林を干ばつして広葉樹との混交林をつくる。そこへサルの道であるサルパスを丸太とワイヤーで作り、サルの遊動域を確保する。そのとき、丸太が動くようにテンセグリティ構造(吊り橋のような構造)を採用する。そのほうがサルたちの平衡感覚を養うのによいらしい。ニホンザルの習性に基づいた生息域を見事に復元しているのがすごい。動植物も含めた環境研究として秀逸である。

・タコの知能を利用した新蛸壺デザインの基礎的研究【円満字賞】
発想・調査・設計とバランスのとれた作品。実際にタコを飼育しながら作品を仕上げた過程がすばらしい。必然から生まれた造形も美しい。明石タコの減少を克服するために天敵であるハモから身を守るための蛸壺である。タコを採るための蛸壺ではなくタコを育てる漁礁としての蛸壺だ。タコが自分でフタをしめるシーンは感動的でさえある。蛸壺に開けられた隙間からタコが外界を伺うようすもおもしろい。これほど楽しい卆計をわたしは見たことがない。


( 建築意匠・設計研究室 )

・酒と道の歴史
滋賀県湖南市の東海道沿いにワークショップスペースを併設した観光拠点を計画した。沿道の造り酒屋が運営する。タル作りや竹細工の体験ができるほか、東海道の歴史と酒造りについて学ぶ資料室や飲食スペースがある。街道から少し離れた酒蔵までは竹で作られた回廊が伸びている。街道沿いの酒蔵のある風景と体験的観光とを組み合わせた発想が評価できる。

・アリ塚【円満字賞】
まっとうなパッシブデザイン。3ヶ月に1度のメンテナンスワークショップによって技術を伝承する仕組みを仕込んだところがよくできている。アフリカサハラの住居のような形を日本の伝統的な技法で再現したのも楽しい。井戸水や煙突効果による熱サイフォン流の応用などよく考えられている。太い竹の骨組みに細竹を編みこんだカゴのような竹塚と土壁にワラの覆いをかけた土塚の2棟のドーム建築がある。土や竹の匂いを感じられる魅力的な建築となっており、ぜひ中へ入りたいと思った。

・まちのゆくえ
堺市内の町家の残る旧市街地に地域と観光のための拠点を分散配置した計画。鉄砲鍛冶師の既存町家の庭園を眺めるカフェ、地域の伝統産業である打ち刃物、線香、匂い玉などのワークショップスタジオ、それらをつなぐ天井が格子状になったトンネル路地。集会施設は祭りの拠点としても機能する。今もなお古い風景のおもかげの点在する地域を小規模な木造施設でつないで再生する計画は魅力的だ。

・つながって暮らす
大阪市阿倍野区に小規模住宅の密集する住宅地を計画した。住宅地は細路地によって分割され光と風の通り道となる。路地、ピロティ、テラスなど内部と外部が貫入し合い、全体としてひとつの集合住宅のように設計されているのがおもしろい。そうした隙間は、温熱環境を整えるだけではなくコミュニティのためのコモンスペースとして機能することを想定している。隣家どうしの視線を完全に遮断しない扱いはコーポラティブハウスの手法でもある。この計画は、良質なコーポラティブハウスとして評価したい。

・街に開くコミュニティセンター
寝屋川市内のコミュニティセンターの計画。用水路沿いに通り抜けられる設計がよくできている。内部と外部のつながりを回遊性や温熱環境などの要因ごとにパターン化し、それを設計に取り入れる手法が分析的でおもしろい。建築や地域を分析的に観察する力は設計力を裏打ちする。具体的な設計力を感じさせる作品である。

・街に開く福祉施設
大阪市内の障碍者施設と高齢者デイサービスセンターの複合施設を計画した。ふたつの性格の異なる施設を「会館」という第3のスペースがつなぐ。そこは図書室やフリースペースなど地域の一般人が使う場所となっている。そこへ向けて障碍者施設のショップや高齢者施設の縁側を開く手法が興味深い。変形敷地をうまく使って3つのエリアを自然につなぐ手法もよくできている。障碍者の就業先として会館を位置付けているのもよい。門切り型になりがちな複合施設を手堅くまとめた手腕は見事だ。設計力を感じる作品に仕上がっている。

・環境をまなぶ植物園図書館
大阪府の服部緑地の湖畔を敷地として、植物をテーマとした図書館を計画した。その外壁には3種類の日射コントロールの手法が使われている。蔦を使った外部ユニット、ノウゼンカツラやザクロを使った西日避けの植栽、小さなオフセット壁を並べて日射を防ぐと同時に通風を確保する開口部などさまざまな手法を部分ごとに定期王させながら全体を破綻なくまとめた秀作である。植栽のザクロを使ったザクロ染めワークショップを開くスペースを用意するなど施設の設定もよく考えられている。企画力と設計力の両方を備えた作品である。

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2023年5月 2日 (火)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表 感想メモ(2023.05.02)

今年は講評を出すタイミングを失してしまった。3月に講評は書いたのだが、すでに卒業式が終わっていたのでそのままアップさせずにいた。ごめんなさい。

今年も展覧会ができてよかった。高校の先生が教え子の作品を見にきてくださっていた。卒業生のひとりひとりにさまざまな方の思いが重なっていることを感じた展覧会だった。卒業生そして関係者のみなさま、卒業おめでとうございます。

< 全体として >
何人かは展示をみただけでは理解ができなかった。そうした作品のなかにおもしろいものが潜んでいることが多い。たまたま作者が居合わせて話を聞いてようやく全貌が明らかになったものもある。ただし常に作者が立ち会えるわけでもないので、パネルを読めば全体像が把握できるようにしたほうがよかろう。わたしとしては一般図程度の図面があればうれしい。

プレゼンは図面と模型とドローイングの3種類しかないと考えている。図面はきっちり書けば模型やドローイング以上のすごみが出る。プレゼン手法のひとつとしてそろそろ図面をとらえ直す時期ではなかろうか。

< 個別に >

(稲地ゼミ)

・つなぐ、はなす、たのしむ【円満字賞】
徳島県の駅前と中山間部とをつなぐ移動販売車の4つ拠点を計画した。それぞれ共同農園、古着古本の修理工房、学生による共同キッチン付きギャラリー、保育園前のフリースペースなどの機能を与えた。共同農園の収穫物をキッチンで弁当に加工して各拠点で販売する。販売車で回収された絵本を工房で修理して保育園へ届ける。など拠点を行き来する楽しいアイデアに満ちている。コミュニティ菜園やリサイクルそして中山間部の過疎などの課題を販売車を巡らせることで再生させる提案である。新しい生活像を浮かび上がらせた構想力に脱帽した。

・子育ての輪 ~住まいと共にある子育て支援施設~【円満字賞】
兵庫県伊丹市内の既存の公務員合同宿舎に子育て支援施設を加えて団地再生をはかる計画。既存の団地4棟のうちの1棟は減築し残り3棟を改造した。駐車場、子育て支援施設、小規模な屋外本棚6ヵ所、貸し農園などを新たに設けた。団地棟は大きく改造することなく、1階南側に木造デッキの共有スペースを設けることで既存部と新設部とをひとつにまとめた設計手腕を評価したい。団地は高度成長期に核家族のイメージを作り上げた。それはそれまでの地域コミュニティを阻害する一面もあったが、この計画案は核家族という現実の上に新しいタイプの地域コミュニティが育ち始めていることを感じさせてくれた。

・創作によって人同士の交流が生まれる空間づくり
吉田鉄郎設計の京都中央電話局上分局(1923)をメディアセンターとして再生させた計画。神戸の旧生糸検査所を再生したKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸、2012)をよく研究している。これまで近代建築の外側は残すが内部は改造する再生が続いてきたが、それでは建築の歴史的価値を遺したとは言い難い。今後はKIITOのような新しい機能に転用しながらも歴史的価値を損なわない設計が再生の主流となるだろう。そのことをよく理解した作品である。

・重要文化的景観 高島市針江の魅力に触れる【円満字賞】
滋賀県高島市の古い集落である針江に体験型ツーリズムのための3つの施設をつくる計画。針江は張り巡らされた水路から清流を家へ引き込み生活用水として利用する「川端」が多く残る。3つの施設は針江の家並みを楽しむ高床式の展望フリースペース、川端を楽しむための立体噴泉を備えた宿泊研究棟、フナずし、アユ、ワカサギ佃煮など針江の食文化を学ぶキッチンダイニングなどの楽しい用途を配した。不定形な敷地に地域の既存風景によくなじむ木造建築がよくできている。設計力を感じる作品。

・住宅街の建築空間における居心地の良さに影響する要素の研究【松本賞】
   -社会科学,建築学,デザイン学,情報処理学での居心地の要素の比較から-
戦後開発の住宅地を流れるの農業用水路を活かしたウオーターフロントの設計。水路の4か所に小規模な親水公園を設けた。吊り床、植木棚、日除け、グリーンカーテン、橋などのモチーフを自由に組み合わせてワクワクするポケットパークをデザインした。ひとつひとつは珍しくないデザインモチーフだが、それらを組み合わせて物語を感じさせる場所を出現させる設計力を評価したい。

・箱が生み出す「匿名の都市」【円満字賞】
箱と呼ぶストリートファニチャーが呼び起こす行為の収集と研究。人ひとり入るくらいの箱の枠だけのものから面を取り付けたものまで8種類の試験体を用意し、それを飲み屋の並ぶ路地に設置して、どのような行為を引き寄せるかを観察した。行為は喫煙、駐輪、携帯の通話、飲酒、座り込みなど多岐にわたっている。箱という簡単な構造物がこれほど多くの行為を呼び寄せるとは驚きである。収集された行為の分類と考察を通して、箱は都市の匿名性と深く結びついていることを発見したところもおもしろい。今和次郎の考現学的手法を通して阿部公房の箱男のような超現実主義世界をかいま見せてくれるという都市論的作品である。

・避難所機能と教育機能が両立する小中一貫校について 
   -教室・特別教室への避難を想定して-
大阪府八尾市に避難所を兼ねた小中学校を計画した。災害時には1階が避難所として利用されるが、2階以上は学校として機能するよう工夫したことが特徴。危機管理は応急3週間、復旧3か月、復興3年と段階を踏んで行われるのがセオリーだが、近年は地域経済の復興を急ぐあまり災害直後から復興事業が始まり被災者が混乱することも多い。この計画は復旧の3か月をテーマとしたものだが、場合によっては長引く復旧期間にも柔軟に対応できる点が心強い。被災地の現状を踏まえた計画だと思う。

(川上ゼミ)
・未来の科学者を生み出す理科美術館【円満字賞】 
   -素材の新たな可能性で新たな光の現象を作り出す空間-
大阪府豊中市の羽鷹池公園にこどものための理科美術館を作る計画。こどもたちが何度でも訪れたくなるための工夫がふたつ。ひとつは隠れる、もぐる、のぼる、ぶら下がる、すべる、飛ぶなどこども特有の行動原理に合わせた仕掛けを順路を仕込んだ。平面計画を細胞膜のようなボノロイ図を使っているところもおもしろい。ふたつめは展示室やカフェに光の屈折や分散などを応用したこと。光を透過させたり分散させたりするさまざまな素材を使って光と色彩のあふれる魅力的な場を設計した。タウトのグラスハウスもかくやと思わせる優秀作品である。

・公民館×公園@梅田 
   -人の行動心理に基づいた集まり場所の提案 つどう・まなぶ・むすぶ-
こどもの行動原理の研究から導きだしたこどものための居場所を公民館として設計した。覗く座る隠れるなどこども特有の行動原理に基づいて、波型の壁に覗き窓とベンチを配したり、かまくら状の狭い場所を設けるなど楽し気な設計である。平日と土日とで使いかたを変えたり、季節ごとに日差しを取り入れたり遮ったりするような装置も組み込んで使い手の意思に従って環境をコントロールできる建築となった。自在に変形しながら時間を感じ取ることのできることを評価したい。

・世界の<外>に通じる都市の余白[開口部・裂け目]に関する研究
大阪市の遊休計画道路敷に一続きの回廊を計画した。交差点で区分けされた5ブロックに次第に高くなる建築を用意した。最初のブロックは屋台を置いた広場、第2ブロック以降は平屋から多層階へ高さを増していく回廊として設計されている。建物は中心線に沿ってスリットがあり陽光を取り入れる。スリットは道路敷が都市の裂け目であることを象徴的に示す。スリット(裂け目)からこぼれ落ちる陽光が季節と時間を感じさせる詩的な作品。

・霧と建築 -釧路駅周辺再生計画-
釧路炭田の生産縮小と林業不振による地域経済の急激な縮小に悩む釧路をタウンツーリズムによって再生させる計画。機関車車庫跡と引き込み線跡を使い、駅から港湾部までに回遊性の高いツーリズム拠点を作る。駅前の古い商店街は建て替えて観光客向けに再生し、港湾部には港旅館を設けた。釧路平原の霧にかすむ山並みをモチーフとした屋根の重なるランドスケープがおもしろい。

・時間と建築 ‐京都伏見の陰影が導く時間の建築化‐【 賞】
京都市伏見区の公営墓地に新たな祈りの場を設ける計画。敷地特性から導き出した特有点の日影を屋根のかたちに採用した。そうすることで斜面地に三角テントの集合体のような建築が展開する。多層階の吹き抜けに落ちる影が時々刻々と姿を変えるのが美しい。

・庄内の魅力[音楽×市場]の融合 二つの地域が交わる場
大阪府豊中市庄内駅を2階デッキ式に改造することにより東西に分断された地域を結びつける計画。東側の豊南市場を建て替えて2階デッキへのアプローチとし、西側の音楽大学にちなんだ屋外音楽スペースをデッキ上に設ける。2階デッキ式はこれまでの卆計で例があったが、東西の地域特性を設計のベースとしたところにこの計画案の特徴がある。地域への確かなまなざしを感じる作品である。

・新たな淀川舟運、枚方船着場にて【円満字賞】
かつての淀川舟運の拠点だった枚方宿を復活させる計画。現在は淀川と枚方宿とのあいだは高い土手と広い河川敷が遮っている。計画では淀川運航の船着き場を河川敷に設け、そこまでの長いアプローチを3つのブロックに分けて開発する。土手上にはリサイクルをテーマとしたワークショップとフリーマーケットのためのスペース。そこから淀川の風景を楽しむ遊歩道と生態系を学ぶ観察池のエリアがあり、船着き場には交流館を併設した。波紋と船形をデザインモチーフに選び、のびのびとした自由な設計となっている。河川沿いの景観に配慮して背の高いものを作らないのもセンスが良い。船から見たときにふたつの弓型スロープが重なる風景がとても魅力的だ。この学年でもっとも設計力を感じた作品である。

(白鳥セミ)
・ウクライナ侵攻における戦後の共生を目指したデザイン提案【松本賞】
戦地の川沿いに平和と鎮魂のための祭礼場を計画した。両岸に生命の木をイメージした拠点広場を設ける。訪れたものが写経のように祈りの言葉を布に書きつけ、それを天幕に作り直す。その作業そのものが祈りの一部であり、その天幕を使って年に一度、橋上の鎮魂の炎の前で儀典を行う。施設の計画だけではなく、そこで行われるであろう祭礼そのものを構想したのが特徴。祈りを布に置き換え、それが建築となるというスケールの大きな作品である。

・在日朝鮮人の差別解消に向けたデザイン提案 ~崇仁地区を題材に~
鎮魂をテーマとした公園を鴨川のほとりに計画した。魂を送る灯籠流し祭礼の拠点として公園は計画されている。公園には鴨川をミニチュア化したビオトープと灯籠を作る工房を設けた。思えば灯籠はもっとも小さな建築なのかもしれない。そこに入るものは人ではなく魂だ。建築のオリジナリティに触れる作品だと思う。

・曲木技術に針葉樹を活用する【円満字賞】
   ~曲木ヒノキ家具の開発研究~
ヒノキは曲木に使わないそうだ。通常、曲木には広葉樹を使う。ヒノキは曲げたときのシワとスプリングバックと呼ばれる元の形に戻る現象が難点だそうだ。この研究では濡れた布を使ってシワを少なくした。スプリングバックも技術的な工夫によって改善させている。実験を繰り返し最終的に家具に仕上げた根気強さは卒業計画のレベルを超えている。ぜひ実用化をめざしてほしい。

・ISRU(現地資源活用)「月面居住用建築デザイン」開発に向けた基礎的研究【円満字賞】
資材を現地(月面)で調達する建築の計画。レゴリス(表土)を分解して酸素そのほかの物質を抽出するプラントをまず設置する。そこで生成された物質を材料として3Dプリンターでシェルターのような建物を構築する。半割の土管のような形状がアナゴの巣のようでおもしろい。SFによくあるドーム型の宇宙コロニーよりも現実感がある。この研究は資材の輸送困難な僻地などの現地調達建築のシミュレーションとしても意義があろう。

(久富ゼミ)
・share × farm【田中賞】
共同農園を核とするシェアハウスに地域の伝統芸能の拠点を併設する計画。敷地は大阪府吹田市山田で山田権六踊りや太鼓神輿などの地域芸能が残るという。シェアハウスは3名から6名の住戸が7棟の28名定員。収穫した農産物の青空市や料理教室の開けるスペースがある。農園を地域交流のための拠点とし、さらに伝統芸能の継承にも役立てる。地域芸能は農事祭礼と結びつくことが多いので農園と祭礼の組み合わせはあながち異質なものどうしではない。農事と祭礼を通して地域コミュニティの再生を図ろうとする野心作。

・池の上の暮らし方【田所賞】
農地縮小により荒れた溜池の再生のために水上住居を設ける計画。敷地は大阪府泉佐野市。生態系保全のために埋め立てを行わず高床式とする。鋼管杭の上にデッキプレートを敷いて水上デッキを作り、その上に木造で小屋を建てる。デッキは隙間を開けた正方形の格子状プランで、水際の敷地形状に合わせて計画することができる。一定の間隔で塔状の散水ユニットを設け、炎天下に散水することで居住地の気温をコントロールする。池上という利点を活かしたパッシブデザインを考慮した作品だ。伊根町の舟屋に似た水上集落の風景もおもしろい。

・縁側のある図書館
吹き抜けを中心とした2層にまとめ、各階に縁側を巡らせた計画。各階に和室を設け自習室そのほかの用途に使われる。円窓や障子など和風モチーフが和室と縁側とをデザイン的に仲介させる工夫をしている。縁側は自由な読書の場として構想されており、どこでも好きな場所で読書ができるという魅力的な図書館となっている。3階に月見台を設けたのもおもしろい。

・狭小集合住宅
大阪市心斎橋のアメリカ村に小規模5階建てビルを計画した。1階は店舗8戸、2~5階に住宅10戸が入る。アメリカ村はほぼ全域が商業地区で容積率は500%あるが、前面道路の幅がほぼ5メートル程度のために300%しか建たない。もとから大規模なものが建つ地域ではなかった。それゆえに都心部でありながら比較的地価が安い。ゆえに賃料の安い新規事業者が集まる大阪のソーホー的地域として独特の風景を獲得してきた。その地域特性を活かすためには最小限住宅的なアプローチが有効であろう。そのことに真正面から取り組んだ努力作である。

・こども公園 -こどものためのピロティと建築-
大阪市天王寺区に子育て支援施設とコミュニティセンターの複合施設を設計した。斜面地の上下に2階建てと3階建ての2棟を建て、最上階をデッキでつないだ。デッキは広場を囲むように配され、その下のピロティをこどもたちの遊び場として開放した。雨や風を感じながら外で遊べるスペースは貴重だ。寒さや湿気を肌で感じて過ごすことはとても楽しい体験となるだろう。そうした楽しみにあふれた設計となっている。

・新しい都市住居のかたち -入れ子の形態操作を用いて-【円満字賞】
阪急三国駅近くの町工場と住宅地の雑居する下町に30戸ほどの住宅地を造る計画。全体を6つのブロックに分割する。区画のあいだは道路となる。各ブロックのなかを4~6戸の住戸に分割する。住戸のあいだは路地となりアプローチであると同時に風や光の通り道ともなる。一戸は立方体のような箱となっており、そのなかに2階建てのフレームを組み諸室を小さな箱として挿しこむ。小さな箱と大きな箱とのあいだは、階段廊下などの共用部分となるほか、光や風の通り道となる。かくして各住戸に新鮮な空気とふんだんな採光が供給されるという仕組みができあがる。住宅の外部にも内部にもすきまが存在し、それが暮らしを豊かにするというコンセプトは秀逸だ。すきまコンセプトによる住宅地はさらに拡大させることも、既存市街地のなかに分散させることもできるよう。今期の作品のなかでわたしがもっとも感銘を受けた作品である。

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2022年9月 7日 (水)

課題「学校増築」中間発表(京都建築専門学校二部)

 夏休み前に課題の中間発表をしたのでメモしておく。本校横の敷地に教室を増築する計画。

20221
03 L型増築部と既存部とのコの字型プラン、イベントホールを外部に開く、安藤忠雄風のフレームと屋上庭園
10 ロの字型プラン、中央に吹き抜けのチムニー効果と屋上緑化により温熱環境を管理する
11 外部との交流の場を1階にまとめる、聖アグネス教会のようなクラシックデザイン
12 コの字型の増築部と既存部とのロの字型プラン、地域交流の場としての中庭の茶室を毎年更新

20222
13 1/4円の湾曲校舎、ローマのコロセウム風のアーチ構造を試みる
21 複数の四角形平面を不規則に散財させ、空中廊下で接続する
01 堀川通り側は町並みに合わせたRC町家とする。コの字型プランのなかに茶室と路地を埋め込んで密集感を出す

20223
02 1/4円の湾曲校舎、扇をイメージしたデザイン
14 南側に新校舎をまとめ、北側に設けた竹林のなかに茶室を設置する
19 完全埋没校舎、露天掘り鉱山のようなひな壇に教室を並べる
06 半地下ピロティが駐車場兼木工教室
15 北西側に象徴的なホールを設置し、その裏側の校舎からホールが眺められる

20224
17 空を大きく残し景観に配慮、グリットに床と壁を組み合わせたユニットを仕込む
16 街路側を植栽し、その外側に壁を立てる、1階は抜けていて植栽がかいま見える
22 路地を設けて各教室へアプローチする
23 水面に囲まれたホールとカフェを設ける
24 南側に校舎をまとめ、北側の庭園に茶室とカフェを設ける
2022
09 北西側の湾曲校舎と南側校舎と既存部とでサンクンガーデンを取り囲む
04 校舎を南北2棟に分け、そのあいだを庭園とする
05 コンパクトにまとめた校舎から木工場を眺める
26 コの字型の増築部と既存部が中庭を囲む
18 北西側に湾曲回廊を設け、回廊ごしにイベント広場が見える、教室は開放的なロフト風デザイン

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2022年6月19日 (日)

課題「憩いの場」発表会(京都建築専門学校二部)

京都のタイムズビルの敷地に公園を設計する課題。発表があったので講評した。楽しいプランが集まったのでメモしておく。
2022012
03.(未完成)2段の人工地盤のあいだを行き来する、現況タイムズビルへのリスペクトあり
02.高瀬舟船着き場を計画。歴史的なアプローチが出色
04.複数のc型壁ブース、ブース群を囲む壁、水辺、階段の円を使った処理がおもしろい
08.キャンプファイヤーをイメージしたストーブとステンドグラステント、火を使うアイデアがよい。
10.人生を模した高い橋、飛び石、平坦の3コース、それぞれの対比がよくできている
11.砦のような展望台、シンプルゆえの力強さあり
06.個別ブースが大量に並ぶ、視線を制御する細かい高低差を設定する設計力あり
12.大きな倒木が水面を渡る、圧倒的なドローイングの力【グランプリ】
2022022
13.ハスの葉のかたちの水上回転遊具に乗って喫煙所まで行く、機械をつかった発想力が独特
19.水流をともなった大階段を中心としたプラン、スロープによるアプローチを多用し多様な来園者に配慮
24.樹木に囲まれた水面にカラフルな飛び石が散らばる。幸せのハート型飛び石を置いてイベントを誘う発想がおもしろい
14.可動式積み木システムの提案、組み方によって使いかたが変わる。システムを提案できる構想力が出色【高橋賞】
01.柔らかい地形に格子屋根がかかる、15㎝ほどの感覚ですべてがスライスされており川の水が浸入する、独特のイメージがよい
17.狭いアプローチをくぐり抜けて空と水面しか見えない世界へ出る。壁の下を開けて水面だけが見える工夫がよい
21.カラフルな円筒や幾何学図形を組み上げた立体迷路、楽しくて美しい
22.アリ地獄状の円形劇場、外からは見えない隠されたステージという発想が楽しい
2022033
09.荒波に削られたような岩の崖をつくる、力強いイメージに魅力あり【円満字賞】
23.敷地を堀と土塁で囲み、その中に橋のかかった池を計画、こどものための囲い地を構想する楽しい作品
25.3コースのシンプルな計画、展望、ショートカット、水辺と性格を作り分ける設計力あり
15.三条通り側を町家をイメージしたフレーム、龍馬通り側を高知の海をイメージした作庭。町中に海をイメージする意欲作
16.(未完成)タイムズを改造した公園を計画中

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2022年2月24日 (木)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表 感想メモ(2022.02.24)

今年は展覧会が開かれたので良かった。昨年は短いビデオだけだったので講評が難しかったが、今年は例年通りパネル展示を見ることができてうれしい。

講評会でも申し上げたが、卆計はやり残した部分が必ずある。やり遂げたことよりもやり残したことのほうが私は大切だと思う。やり残したことはこれから一生を通じて取り組むライフワークとなるだろう。

コロナ禍の下での困難な卆計であったろうが、学生間の助け合いがあったのだろう。全員が卆計を完成させることができて良かった。学生時代の友人は一生ものの宝ものだ。大切にしてほしい。そして、卒業おめでとう。

< 全体として >
わたしの評価は昨年とおり、発想(テーマ、設定)・知識・プレゼンの3項目である。とくに発想を重視している。今年は設計系の非常勤講師の講評会参加が少なかったことから賞が足りなかった。とりあえず円満字賞を追加しておいたが、それ以外にも他の先生がいれば受賞していたものもあったと思う。そのことはわたしの講評を読めばお分かりいただけるだろう。

さて今年特に思ったのは先入観や思い込みが作品の深化を阻害していることだ。たとえば地域コミュニティは活性化すべし、またはシャッター商店街は再生すべし。これらは前提条件なしに「なすべき」こととなっているきらいがある。はたしてそうであろうか。なにをもって地域コミュニティの崩壊と見るのか、なぜシャッター商店街は生まれたのか、そうした議論がもっと必要だ。これはテーマに関わる事項である。まずそこを固めることから出発したい。

< 個別に >

-稲地研-

・自発ネットワーク型の地域コンミュニティ 
- オープンガーデンの事例を踏まえて -
大阪市東部の放出にコミュニティ広場を計画した。既存の四角い児童公園の外周沿いに回廊をめぐらせている。回廊のフレームに可動式の壁を取り付けることで多様な用途に対応させる仕組みを考えた。地域の商店街の福引会場、デイザービスのお年寄りのカラオケ大会、フリーマーケットやこどものための地蔵盆など実際の使いかたの提示があれば作品の意図がよく伝わると思う。ストリートファニチャーの提案として意義がある。

・暮らすように過ごす宿泊施設 [円満字賞(追加)]
~ サブスクリプション型の宿泊施設から商店街の活性化を図る ~
滞在型宿泊施設を設けることでシャッター商店街を再生する計画。既存の商店や銭湯とタイアップすることで商店街振興に寄与することができる。敷地は京阪電車千林大宮駅前の商店街。現地調査がしっかりしているために説得力のある計画となっている。新設部を既存街区に溶け込ませる設計センスもよい。具体的な使い方の例示もあり、いきいきとした風景を作り出すことに成功している。調査力と構想力、設計力ともに秀でた作品である。

・高架下が繋ぐ地域の居場所 [松隈賞]
~ 住民が自らつくる ~
京阪電車高架化の工事に合わせて住民自らが自分たちのスペースを作るシステムの提案。DIYによって木造のキュウーブを作る。使いかたは住民の自由であり、勉強やお昼寝などさまざまな用途の例示が楽しい。なによりおもしろいのは、高架工事の着工前、工事中、着工後の3パターンの計画が用意されていること。工事の進捗に合わせて、材木置き場、加工場、設置場所が変化する。進捗に応じて使用できる敷地が広がることに対応しているわけだ。工程そのものをシステムとして設計したとてつもない構想力に感服する。

・人が溜まる場所 [円満字賞(追加)]
~ 都心部に位置するcommonスペースがあるオフィスビルの計画 ~
街路の延長として立体公園を作る計画。敷地は大阪市内の淀屋橋あたり。計画にあたって敷地周辺街路における滞留行為の綿密な観察調査を行っている。会話、携帯、喫煙、待ち合わせなどの滞留行為を類型化し、それを花壇枠、駐車場付近、ビルのピロティ部分などの場所と結び合わせて分析した。類型化、分析が的確で分かりやすい。今和次郎の現象学的研究を思い出した。調査結果に基づいて滞留行為を誘発する立体公園を作り上げた設計手腕を評価したい。

・nature house [円満字賞]
~ 自然と建築をつなぐ ~
自然と融合した有機的建築の提案。海綿の細胞膜構造をモデルとしたテント風の膜構造の上を緑化した。緑化に当たっては回遊型日本庭園の鑑賞ポイントを類型化し、それをもとに建物内から見える隣接テントの緑化を設計したところがおもしろい。日本庭園の類型化にあたっては大阪万博公園の日本庭園を対象に22名の治験者から所見を得て分析した。調査と分析方法の独自性があり、それを造形に反映させる優れた設計力を感じさせる楽しい作品である。

・「外に閉じ内に開く」
~ 住民間コミュニケーションを誘発する仕掛けのある空間づくり ~
異人街として知られる神戸市北野の斜面地を敷地とした住宅地計画。各住居は中庭のあるパティオ型で、中庭は住宅地の敷地内通路へつながっている。中庭はセミパブリックスペースと位置付けられており、それはカリフォルニアのパティオ住宅と性格は同じだ。見上げたり見下ろしたりする斜面地特有の風景の変化が楽しい。尾道や長崎の魅力的な斜面路地を思わせる。港町神戸らしい明るいラテン風な住宅地開発である。

・「建築」と「建物」の境界 [川上賞]
- ひとつの「建築」が周囲の「建物」を「建築」に変える -
こどもたちの遊び場のような町から失われた場所を付け加えることで地域を魅力的に改造する試み。機銃となる立体格子を用意し、そこへ住民自身が必要と考える場所をキューブとして作り込む手法がおもしろい。おそらくそれはパブリックスペースそのものの再構築なのだろう。町に対する確かなまなざしを感じさせる秀作である。


-川上研-

・海浜今昔街
~「浜寺」固有の魅力の再興・創造 ~
大阪府南部にかつて存在した浜寺公園リゾートの再生計画。与謝野晶子の事績も織り込みながら大正ロマンあふれる風景を再生した。当時の海岸線はいまは埋め立て地とのあいだの運河となっているが、そこに白砂青松を復元し、和風の料亭建築を配置する。もう少し規模が大きくてもよいと思うが、着眼点がおもしろくて確かな構想力を感じさせる力作である。

・高所避難を視野にいれた田辺駅前商店街の再建 [円満字賞(追加)]
~ 熊野古道の歴史を継承して ~
和歌山県JR田辺駅前の商店街再生計画。津波時の避難所を兼ねた高所デッキを設けてそこに新しい機能を加えた。デッキは立体公園として商店街を取り巻き、エリアごとにイベント広場、展望台、森林カフェなどになる。とくに熊野古道をイメージした深い森のなかの滝に面した森林カフェはよくできている。ハルプリンを思わせる手慣れたスケッチを通して計画の楽しさが伝わってきた。構想力、設計力とも、この学年のトップクラスであることは確かである。

・「文禄堤」を活用した守口のランドマークとなりうる場所の提案
豊臣秀吉による河川改修の名残である文禄堤の公園化計画。敷地は京阪守口駅前。新たに広場を設けることで建物の陰となっていた文禄堤の威容が現れる。広場は守口に伝わる盆踊り「寺方提灯踊り」の主会場となる。地域色あふれるシンボル的な広場となっている。現場状況をよく踏まえた的確な調査力と確かな構想力を評価したい。

・学生を担い手とした京都の伝統産業・文化継承計画
コンビニ店舗にヤグラ状の建築をかぶせるインスタレーション的作品。敷地は京都市内の西陣と黒谷の2ヵ所である。各ヤグラを西陣織のギャラリーや茶室群とし、伝統文化と現代社会の対比をテーマとした。ヤグラ状建築そのものに異世界感があるのがおもしろかった。

・鉄輪温泉の魅力の再編と交流型滞在空間の創造
別府鉄輪温泉の再生計画。源泉が90度もあるので町全体が湯けむりに包まれている。その風景を受け継ぐために新たな機能をいくつか町に埋め込んだ。情報提供、交流のためのスペースのほかにミニオフィスとキッチン広場があるのがおもしろい。特にキッチン広場はかつての湯治場風景の再現であり、温泉地を短期観光型から長期滞在型へ抜本的に転換させる可能性を秘めている。歴史を踏まえながら風景の継承をかたちにした秀作である。

・地形を活かした神戸らしさの創造 [円満字賞(追加)]
~ 鯉川と水車の再生を通して ~
暗渠化された都市河川を再び地上によみがえらせて親水公園とする計画。神戸三宮の鯉川跡を敷地に選んだ。この地域に多かった水車と地域産業である酒造りをデザインモチーフとして展開させたのがおもしろい。水車の音を聴きながら清酒を酌み交わす風景が楽しい。構想力とは暮らしやなりわいをどこまでリアルに想像できるかということだと思っているが、その点、この作品の構想力はこの学年最高ランクである。

・書道・文字と建築 [白鳥賞]
墨の産地である奈良市の池のほとりに書道美術館を設計した。墨の色が気候の温湿度によって変化する特性を活かして、外壁を墨塗り仕上げとした発想がすばらしい。外壁素材には吸湿性の高い粘板岩を採用したことも適切な判断だろう。また、外から見れば反転文字となる大きなガラス窓に展示された書道作品が、池に写りこんで正字として読めるというトリックも楽しい。


-白鳥研-

・パーマカルチャーを基に環境負荷を低減した暮らしの方のデザイン研究
~ 北斜面を例として ~ [前川賞] 
奈良県大塔町の山間部にリモートワーク8世帯の集落を計画した。住まいはペチカやオンドルを応用した暖房と通風に配慮したパッシブデザインとなっている。採光に不利な北側斜面地のために庇を跳ね上げた独特な屋根デザインがおもしろい。日射に応じて屋根勾配を工夫した藤井厚二の聴竹居を思わせる。水田の水温調節のための貯水池を設けていることも現地をよく研究した成果だろう。また、斜面を流れる雨水を受け止めるスウエルの配置など、自然との共生を目指したていねいな設計手法がすばらしい。

・伝統工法を用いたDIY仮設住宅の開発研究  [円満字賞]
被災者収容のための仮設住宅を伝統木構造によるDIYキットとして設計した。分解保管されたものを被災者自らが組み立てることを前提として設計した点が現実的でおもしろい。部材の結合を長ホゾ差し鼻栓留めとして分解組み立てが容易にできるようにした。また、部材はひとつにつき20キロ以下として、ひとりで持ち運べるよう配慮されている。なにより大型模型を製作し、分解組み立ての実証実験を繰り返し行ったことを評価したい。

・LGBTQIAへの差別撲滅に向けた『自我と他者との瞑想建築公園』のデザイン研究 
~ 自我を感じ、他者を感じる ~ [円満字賞(追加)]
LGBT差別に抗議する瞑想公園の計画。敷地をモスクワにしたのは、反差別活動を行うロシアのアーチストに対するリスペクトからだそうだ。わずかな高低差を設けた幾何学的な公園に現代社会を象徴する3本のラインと自然を象徴する水流を設けた。ラインはそれぞれ赤の広場やロシア正教会などを指し示している。そのラインが雪に覆われて消え、そして時が止まったように中央の水流も凍るとき、社会的なしがらみと物理的な時空間から解き放たれた自我が他者と純粋に出会うことができる、と作品は語る。わたしはドストエフスキーの「罪と罰」のラストシーンを思い出した。静謐ながら熱い心を秘めた秀作であろう。

・多民族国家台湾における民族共生都市住宅の提案 [久富賞]
~ 閩南火と阿美族の伝統文化が織り成す都市住宅 ~
台湾人の75%を占めるビンナン人と先住民のアミ族とがともに暮らす台北の民族共生住宅。両族に共通する先祖信仰の儀礼と民俗芸能「布袋劇」を行う舞台を集合住宅の中心に設計した。吹き抜けまわりや1階のピロティが観覧席となる。1階ピロティは周辺の屋台街と一体化しているために共生住宅の舞台は町共同の劇場ともなる。屋台や芸能という町のディテールに気がつき、それをつなぎ合わせた構想力を評価したい。

・小型通信機器充電のための「土壌を用いた発電装置」の開発研究 [円満字賞]
被災時にスマホ充電のできる土壌発電の開発研究。当初微生物発電に取り組むが発電効率が上がらないため研究テーマを土壌発電へ切り換えたという。そもそも土壌発電は1841年には発明されており、その後通信用電力として実用化されていたという。効率のよい土壌と、効率のよい電極用金属の組み合わせを辛抱強く探した根気強さに脱帽する。科学を身近なものとしてサバイバルに活かそうとする発想力がすばらしい。

・入管センターの帰正反本 
~ これからの共生に向けた収容所施設の設計提案 ~
入国管理センターにおける収容者の居住環境改善計画。大阪府茨木市の旧入管センターを敷地とした。塀のない開放的な収容施設とし、収容者の事情に応じた住居タイプを複数用意する計画となっている。地域通貨を利用した就労プログラムや、大阪万博に合わせた共生プロムナードの設計など地味ながらきめ細やかな設計に特徴がある。帰正反本とは正しい本来の姿に立ち返るという意味。

・コックスバザール難民キャンプ設置シェルターの熱環境改善に向けて [円満字賞(追加)] 
~ 竹と土を使った遮蔽部位「バンブーアースロッド」の開発研究 ~
バングラディシュ領内のロヒャンギ難民キャンプの住環境改善計画。スコールと熱射を防ぐ工夫がおもしろい。屋根にビニルシートをかけてスコールを防ぎ、その上に断熱材として周辺に自生する竹を並べた。実証実験の結果、竹は節を抜いたほうがよく、さらに竹のなかに焼いた泥だんごを詰めると断熱効果が上がることを突き止めている。現地で調達可能な竹や泥といったものを使って難民自らが身を護ることのできる手立てを用意しようとする姿勢に敬意を表したい。


-久富研-

・マチ_ミセ_イエのつながり
大阪天王寺の茶臼山に33戸のコレクティブハウスを計画した。ミセと名付けられた共用LDKとイエと呼ばれるホテルの個室のような最小限住戸とで構成される。ミセとイエとのあいだにスキップフロアを応用したセミパブリックスペースをはさんだことが特徴である。コルビュジェのユニテを思わせる設計思想と下寺住宅や同潤会アパートを想起させる外観が楽しい。

・Brain Lab. [松隈賞]
兵庫県JR西宮駅前に複数の大学で共用する図書館を計画した。共同の研究室や講義室などを通して大学間交流を促す設計となっている。イスやソファーなど家具デザインもおもしろい。また全体が大きな本棚になったような建築デザインも完成度が高い。

・おおきな屋根と小さなおうち [稲地賞]
保育園とデイサービスを複合させた計画。大阪府枚方市の医科大学に隣接して計画した。同大学を運営母体と想定した設計である。小規模の保育園とデイサービスを2階デッキでつないでいる。デッキは医科大にも接続されており、医療、保育、介護とを連結させたところに特徴がある。

・7つのキッチンの家 [中山賞]
大阪市中崎町に4人の料理人の住む5階建てコレクティブハウスを設計した。各住戸のキッチンのほかに吹き抜けに面した共用キッチンを複数設けたことが特徴。薪ストーブ、炭火、いろり、かまど、食品加工場など共用キッチンの種類が豊富で楽しい。吹き抜けを通して住民たちの料理のようすを演劇のように観る楽しみにあふれた魅力的な集合住宅である。自家農園や料理教室も備えており地域の食文化とのかかわりにも目を配っている。確かな構想力と入念な調査力、それを魅力的にまとめる設計力を感じる秀作である。

・1000年建築 
- 生き物の巣のつくり方からの学び -
大阪府寝屋川市内に9戸のパッシブデザイン住宅を建てる計画。人工地盤の2階に昆虫の巣をモデルにした泥と紙を混ぜた素材で作る住宅を載せる。屋根は集水のためにじょうご状となりプロペラ型の風力発電機を備える。風の谷のナウシカに出てきそうな独特な風景である。終末世界的で雑多なデザインでありながら不思議な活気にあふれた作品である。

・パッシブデザイン導入住宅地区の提案 
大阪府箕面市内に12戸で構成するパッシブデザイン住宅地を開発する計画。住戸は蓄熱と通風を確保しておりパッシブデザインの基本を理解している。街路を覆った格子状のフレームはおそらくグリーンカーテンを意識しているのだろう。緑地帯として自家農園も配置していることから、町全体として蓄熱と通風を確保することをもくろんだのであろう。

・まちマド [円満字賞]
- ふるまいの表出 -
大阪市北堀江に56戸の集合住宅を計画した。集合住宅は、立体テラス路地をセミパブリックスペースとして内包しており、そこに面した出窓のデザインを設計上の重要テーマとした。出窓の大きさや形だけではなく、ショーウインドウやテイクアウトのカウンターなど使い方のバリエーションが豊富で楽しい。ベネチアのような魅力的な街路を実現している。出窓というモチーフに暮らしや生業(なりわい)といった情景を重ね合わせる豊かな想像力がある。楽しい作品をありがとう。

 

 

 

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2021年3月15日 (月)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表 感想メモ(2021.03.14)

学校の出入りも難しいような困難のなかで例年並みのレベルを維持したのがすごい。おそらく見えないところでクラスメート間の助け合いがあったのだろう。大学時代の友情は一生ものの財産だ。ぜひ大切にしてほしい。卒業おめでとう。

コロナに配慮して展示会が中止となった。会場で学生の話を聴けなかったのがつらい。1月の発表時のデータだけでは分からないことが多かったが、できるだけ想像力で補いながら感想をメモしておく。

< 全体として >
わたしはここ数年、発想・知識・プレゼンの3項目で作品を評価してきた。とくに発想に重きをおいている。たとえプレゼンが下手で知識に欠けるとも発想がおもしろければ評価してきた。この発想部分だが、さらにテーマと設定のふたつに分かれるようだ。

テーマは何がやりたいのかという意思の表明だ。それは社会的でなくてもいいし芸術的でなくてもいい。自分がやってみたいことを表明してほしい。テーマが明確でないとピンボケの卆計になってしまう。

設定はテーマに従って決まる。建築概要、敷地、テーマを実現する上でのアイデアなども設定に入るだろう。とくに敷地選びは重要だが、テーマが明確でないと敷地も正しく選べない。このあたりを早い段階で整理できれば仕上げる時間が増えて作品は深まるだろう。

< 個別に >

-稲地研-

・施設と地域の繋がり方に着目した児童の自立を促す児童養護施設に関する研究
児童の社会的自立を促すために地域社会に開いた形式。既存の小舎制ユニットケア方式との違いや家庭内虐待からの隔離をどうするのか聞いてみたかった。地域住民のための施設として家庭支援センター、地域交流棟を備え、隣接地には幼稚園、公園がある。住居区と地域施設とのあいだに児童と地域住民の「たまり場」として図書室、子供食堂などに囲まれた広場を設けたのがとてもよい。計画力、設計力の高い作品だ。

・多様化する自転車社会
データが未完成だったのでよく分からなかったのが残念。卆計は概して間に合わないものだ。わたしもそうだった。今後にこの経験を活かせばよい。

・町に住む住居
木造密集地の再開発。複数敷地を合わせてシェアハウスに建て替える。シェアハウスの共同キッチンなどの共有部分をつないでかいわいを作ってみせた。共同建て替え再開発事業との違いや単身者専用計画の意図などを聞いてみたかった。

・時間の蓄積
津波対策としての和歌山県白浜町朝来帰(あさらぎ)地区の高地移転計画。斜面地に分散型集落を構成。銭湯をコミュニティの核とする集落計画や波型屋根を共通モチーフとして新しい風景を作ったのがおもしろい。斜面地だと津波時に下部が浸水するのではないだろうか。だからさらに高所に復興予定地を設けたのだろうか。そのあたりを聞いてみたかった。

・空白から余白へ
人口減の進む大阪市都島区へ大川対岸の北区の人口を引き入れる計画。波打った人工地盤で大川上の公園を作り両区の一体感をつくりだそうとした。造形が美しく設計力の高い作品。

・三好山美術館【円満字賞】
こどもの創造力を引き出す公園計画。円形広場、らせんの穴、迷路、鏡などを配置した楽しい作品。岐阜県の公園・養老天命反転地が先行作品だろう。各部の設計が適切で遊具のつなぎ方もうまい。設計力の高い作品である。

・児童の多用な居方を可能にする環境
「居方」という言葉を知らなかった。最近使われる造語のようで居場所というほどの意味らしい。大阪市東淀川区に学童保育施設を計画する。平面を複雑にすることでいろんな居場所を作り出そうとするアイデアは正しい。


-川上研-

・グラフィック視線誘導の手法を建築シークエンスへ落とし込む【円満字賞】
放置されている都計道路敷に回廊型の遊歩道を計画。周辺の4つの町のアイデンティティを形態化した広告建築をはめこんでいるのがおもしろい。万歳町は民俗芸能の万歳にちなんで舞台建築を、中崎町は借家街を模した店舗を、扇町は天満市場にちなんだバザールを、神山町は街道筋の牛宿を見立てた駐輪施設を、という具合で楽しい。設計力の高い見ごたえのある作品。

・おもしろさは急に見えぬすすきかな
兵庫県伊丹市に郷土出身の俳人・上島鬼貫の記念館と句作のための場所、まちづくり団体のための施設を計画した。町の中や昆陽池あたりなど複数敷地を使って俳句をテーマとした造形を展開している。形態操作による造形が優れている。

・浸藍の「ぞめき建築」【円満字賞】
徳島駅前のウオーターフロントに藍染めなどの地場産業をテーマとした施設を計画。住民や観光客などが藍の栽培から染めものまで体験できるスペースのほかショップやレストラン、イベントスペースなどを備える。出色なのは阿波踊り当日に「にわか踊り」のコースとなるスロープがあること。日常の施設としてもよくできているが祭日に表情を鮮やかに変えるのがおもしろい。計画力、設計力ともレベルの高い作品。ちなみに「ぞめき」は阿波踊りのリズムをいう言葉らしい。

・枚方市民の不安をやわらげる「ケア市場」【円満字賞】
大阪府枚方市の市役所前の公園と市民ホール跡地にケアをテーマとする市場を計画した。勤務していない看護師や保育士などの人的資源を利用して運営するという。市場は食堂、生鮮食料品、クリーニング、薬局、美容室など日常使いの店舗が中心で、店舗それぞれに住居を併設した。おもしろいのは「見る、話す、触れる、立つ」などの動作をもとにコミュニケーションを誘発するための9つの仕掛けを備えたこと。土間、縁側、ピロティなどをケアの視点から見つめ直した作品。

・患者家族を日常の再構築へと導く自然光を活用したファミリーハウス【円満字賞】
難病児童を看護するためのコレクティブハウスを病院に隣接して計画した。15家族分のプライベートルームから患者家族のための共用リビングそして地域にオープンなカフェなど段階的に入居者を地域に開いていく手法が確かだ。難病であるゆえに治癒する保証はない。施設の中心に祈りのための小さな教会を設けたことに難病の現実を見通す確かな視点を感じた。折る、繋ぐなどの形態操作による造形力も優れている。

・共につくり生きる【円満字賞】
卆計を見ていて久しぶりにドキドキした。大阪に残るドヤ街・あいりん地区は高齢化と空洞化に悩んでいる。この町にアパレル廃材の再生事業を新しい生業として根付かせるための施設を計画した。古着を分解再生した素材で使った新しいファッションや建築素材をアーチストと共同開発する。古着の回収分別場、再生加工場、アトリエ、ショールームなどを備える。さらにアパレル素材を使って地域に点在する古家を再生させる試みを行うなどまちづくりプロデュースとして優れている。地域経済の回復と古家再生を同時に進めるドラマティックでドラスティックな作品である。

・こどもと遊び・学び・自然がからまる冒険遊び場
滋賀県の草津川跡地に学習塾と習い事教室のコンプレックスと遊び場を複合させた作品。放課後、塾通いに分散するこどもたちを集約してふたつめの学校を作った。施設そのものを遊び場として構想しようとしている。敷地と建物との関係を聞いてみたかった。


-白鳥研-

・生と死が織りなす建築デザイン【円満字賞】
緑化されたRC3階建て住宅。廃屋のイメージが住む者に緊張感を与える効果をねらう。陰影のある壁面、吹き抜けからふりそそぐ光線など設計力の高い作品。安藤忠雄作品の禅の風景に近いかもしれない。

・「360°BOOK」を起点とした密集室内での共生空間装置【円満字賞】
段ボールを使ったパーゴラのような作品。折りたたんだものを開くブックランプを大きくしたもの。造形としてもおもしろいが、何度も試作を繰り返し強度と運搬の検討を重ねたことを評価したい。室内用として計画しているが応用分野は広いだろう。特許ものである。

・「G.E.R.U.S(ゲルス)」を用いた仮設住宅の提案【円満字賞】
モンゴルのゲルをモデルとした長期滞在型仮設ユニットの試作作品。竹を構造材とし、もみ殻を断熱材として利用。仮設ではなく永住できると思う。古代日本には木を組み合わせたうえに土をかぶせた住まいがあったという。住まいの原型にせまる実験住宅と捉えることもできる。たいへん興味深い。

・一人親の孤(子)育て支援施設の提案
子育て支援施設だと思う。傾斜地に大屋根をかけて中央吹き抜けにホールがあり空中デッキに諸室を配置する。施設概要についてさらに聞いてみたかった。

・ベトナム南部ホーチミンにおける民族共生都市住宅の提案【円満字賞】
ベトナムの多数派キン族とカンボジアに多いクメール人との混住住宅。いずれも先祖崇拝のための壇を中心とするのが伝統的な住まいらしいが、現在の都市住宅では先祖壇の置き場がないそうだ。提案は伝統工法による木造3階建てとし1階は町に開いた店舗、2階を住居、3階を先祖壇置き場とした。前屋、主屋、後屋の3棟形式としその間から光と風を取り入れる計画が清々しい。1階に水庭を作ったのも風を通すためだろう。雨季には増水して1階は水没するという。そのようすもおもしろい。独特の登り梁による小屋組みの美しさなど伝統を見つめる確かな視点を感じた。

・日本におけるムスリムと非ムスリムの共生住宅の提案【円満字賞】
神戸の諏訪山にイスラム教徒と非イスラム教徒の夫婦のための住宅を計画。日本の麻葉模様とイスラム模様の八芒星の組み合わせを平面に使った。家族で生活しているときと来客時でプランを変える工夫がおもしろい。来客時には建具を移動させて中庭の一部を取り込み男女2部屋に分離する。中廊下はさんでオープンなキッチンがあり日常と来客時の双方に対応できる。また塀と建物の隙間を緑化して光と風を通すなど楽しい工夫に満ちている秀作である。

・日本の伝統的な屋根瓦の美しさに関する提案【円満字賞】
唐招提寺礼堂の軸組模型を作り屋根の美しさについて考察した実証的な研究。こうしたアプローチは本学科創設以来初めてである。軒反りの技法を模型で試作しながら美しい軒の作り方を確かめている。この礼堂は跳ね木のない古式で、そのことが伸びやかな軒の美しさを形づくっていることが実感として伝わる。


-久冨研-

・新しい都市公園の使い方
大阪市の堀江公園に立体格子のデッキをつくり隣接する商店街のイベントスペースとする計画。立体格子を緑化し公園としての快適性も向上させている。外部を内部化する縁側的なツールとして立体格子を使っているのがおもしろい。地域の祭礼との関連を聞いてみたかった。

・寝屋川国際学生寮
1階をピロティとし2階を居住スペースとする。キッチン、トイレ、ふろ場は共用。吹き抜けに設けられた階段踊り場に低い囲いで仕切られた談話スペースを設けたのが特徴。礼拝場所の確保や食事上のタブーなどをどう折り合いをつけて共同生活するのか聞いてみたかった。

・まちの継承
大阪市の木造密集地・空堀地区を取り上げ空家9戸空き地2カ所を使って高齢者住宅、デイサービス、ショートステイなどの施設を計画した。分散した各施設を連結する空中回廊を設けたのが特徴。回廊に井戸を水源としたドレンチャーを組み込み地域火災に対応したり、タテ動線のシャフトを既存建物の構造補強として使うなどのアイデアがおもしろい。

・New Work Style
奈良県香芝市のニュータウンにある五位堂駅前にコワーキングスペースを計画。1階をピロティとしてロータリーと駐車スペースとし、2階にオフィスと託児所を設ける。2階はデッキにより駅と直結しており駐輪場を設ける。オフィスは1.5m×0.8mをひとり分のモジュールとして2人分、4人分と広げられる設計がよくできている。

・シャッターを開いて【円満字賞】
生野区のシャッター商店街の再生がテーマ。元店舗の職種にちなんだ教室として再生するアイデアがユニークでおもしろい。元漬物店の漬物教室、染み抜き店の染み抜き教室、うどん店のうどん打ち教室などを説明するカラフルな絵が楽しい。防災空地を適切に配置しながら順次空き店舗のシャッターを上げていくドラマチックな計画だ。

・コンピューテイショナルデザイン/デジタルファブリケーション【円満字賞】
インテリア用の棚を自動設計・自動製作のアプリを使って試作する実証的な研究。パラメーターを操作して好みのものを作ることができるらしい。施策を通して構造的な検討、施工上の問題点などを確かめた。自動設計・自動製作は大量生産のための手段だと思っていたが、それを個人のための一品生産に利用できるということが目からウロコで興味深い。大量生産のためのツールならば標準化の方向でデザインの未来は暗いが、個別に対応できるとなれば明るい未来も見える。そんな勇気をくれた秀逸な研究である。

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2020年3月 4日 (水)

2019年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ

講評会でも言ったが卆計は失敗することのほうが多い。その失敗は卒業したあと一生かけてやりなおすことになる。それもまた楽しいではないか。だから失敗したほうがよいとわたしは思っている。今年も失敗や成功の豊富な楽しい卆計展だった。ありがとう、そして卒業おめでとう。

< 全体として >

問題提起型の場合
ある種の社会改善をテーマとする場合、問題提起と解決策のあいだの乖離が目立つ。これは他大学の卆計展も含めて今年強く思ったことだ。中山村や古い町並み、シャッター商店街などを敷地としてそこへ介護施設や医療施設、児童福祉施設などを計画するものが卆計には多い。そうすることで何が変わるのか、そうすることで何を残せるのかをもう一度問い直してほしい。

敷地の力
なぜその敷地を選んだのか分からない作品も多い。なぜそこでないとならないのかを問い直すべきだろう。敷地の意味は地勢的なものから歴史的なものまでいろいろある。敷地のかたちや向きも敷地の重要な特性だ。そうしたもののひとつでも計画にとってなくてはならない条件であれば敷地の力が発揮される。敷地の力は強力だ。その力を十二分に引き出してほしい。

< 個別に >

[ 建築科 ]
1.集落を共有する【円満字賞】
日本海に面した限界集落に新規定住希望者のための待機施設をつくる計画。住民との交流のほか教育医療などの小施設を配置し地域再生の核とした。綿密な現場調査を重ね移住問題を洗い直した調査分析能を評価すべき。洗濯物をどこに干すかなど考現学的な独特の調査視点がおもしろい。

2.旧花街を活用した週末住宅街、五条楽園【円満字賞】
京都五条楽園の元遊郭建築を老人介護施設としてリペアする計画。複数の木造建物の各階を水平移動できるよう接続し十分な床面積を確保する手法がおもしろい。各部屋に残る床の間など数寄屋の見せ場をそのまま残すきめの細かい設計だ。

3.新亀岡駅
店舗付き集合住宅にまるく囲まれた駅舎。改札も待合もなく舞台のような8つのプラットフォームに車が直接アプローチできる構成が演劇的で魅力的だ。駅前に新築されたスタジアムのメインアプローチとなることをねらった。

4.葬送列車
葬儀場の駅と火葬場の駅を葬送列車がつなぐ計画。将来的に廃線になることを見越して葬儀のための施設として存続をねらう。葬送列車というアイデアが秀逸だ。

5.廃線上のまち【円満字賞】
愛宕山ケーブルカー廃線跡に小さな町を計画した。線路上に組まれた舞台づくりの傾斜路の上に住宅そのほかの都市機能をもりこむ。斜行型木造ユニテ・ダビタシオンともいえるイメージアビリティに富む作品だ。

6.田辺朔朗博物館
三条通りから疎水船着き場までの登り斜面に博物館機能を併設した待合所を計画した。3段にセットバックした建物の中央に斜めの吹き抜けを設け施設を一体化する平面計画がよくできている。ガラスを多用し周辺環境に溶け込むことを企図したデザインも手堅くてよい。6人の共同作品は本学初。実施設計を体験できるよう面積表や建具図などを作図したプログラムがユニークだ。

[ 建築科2部 ]
7.てくてく歩くおやまのアトリエ幼稚園
京都市北白川の斜面敷地に芸術教育を旨とする幼稚園を計画した。大きな部屋は半地下として姿を隠し、円形住宅に似た保育室を集落のように配置するバナキュラーなスタイルがおもしろい。ビオトープや自然のなかでの遊び場など自然とのつながりを前提として芸術教育をとらえる視点に確かなものを感じる。

8.つなぐ命
宇治田原の中山村地域にドクターヘリ用の救命救急センターを計画した。医療系独特の複数動線をシンプルにまとめた設計手腕を認めるべきだろう。

9.四条山鉾ギャラリー
四条通りを歩行者専用とし地下、地上、空中歩廊の3層構造のプロムナードとする計画。山鉾をモニュメンタルに配置し不思議な世界観を表現することに成功している。

10.梅のCOMMUNITY CENTER
鳥取市内の敷地に自分との対話の場を中心にすえた施設の計画。梅林を取り囲んだ木造回廊がよくできている。随所でふくらみ狭まりながら蛇行し、そのどこでも座れば梅と対話できる自分だけの場所となる。詩的で落ち着いた設計だ。

11.風が吹いている
縄文土器をモチーフとした巨大な風の神殿を琵琶湖上の空中に浮かべた作品。超越的な存在を生命力の噴出するような火焔型土器に仮託した想像力が秀逸だ。紙粘土の模型に迫力がある。

12.Kaerntner KYOTO
ウイーンの音楽通りを鴨川河畔に構想する作品。屋外ステージ、ライブハウスのほか練習場やそのほか支援施設を配置する細やかで楽し気な設計がよくできている。

13.Sculptural Museum
嵐山の竹林の道に彫刻美術館を計画した。竹林を通り抜ける行為が鑑賞のための前奏となる。スロープで地下水面へ降りる屋外展示場がよくできている。平面立面ともバランスがよく設計力は高い。

14.にじのもり幼稚園
山科の敷地に楕円形プランの幼稚園を計画した。中央の吹き抜けを共用部として使うシンプルなプランがおもしろい。

15.京都の憩いの場×ART
鴨川大橋西詰に展示施設とアトリエを計画した作品。利用者、アーチスト、管理の各部門を明確にゾーニングした使いやすそうな手堅い設計である。

16.斜面集合住宅 ART VILLAGE
京都修学院の斜面地を敷地とした芸術家住宅。6メートル正方形グリッドを用いた立体的雁行プランがよくできている。デザインは中国の古民家のものをよく写しており、かまぼこ天井やベンチ付き暖炉などわくわくするディテールに満ち溢れている。

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2020年2月25日 (火)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表展 感想メモ(2020.02.25)

楽しい学年だったと思う。卆計は成功したり失敗したりいろいろだ。わたしは失敗したことのほうがこれからの糧になると思う。自信をもってよろしい。なにより楽しい学年だったことは一生の宝となるだろう。今年も楽しいひとときを過ごすことができた。ありがとう、そして卒業おめでとう。

< 全体として >

いくつか気づいたことがあるのでメモしておく。
1.敷地が小さいと感じる作品が多かった。構想段階でチェックするべきだろう。
2.なぜその敷地でないといけないのか分からない作品が多かった。卆計は敷地選びで7割がたが決まる。たとえば釜ヶ崎の作品は分かりやすかった。地域特性と計画内容とがよくなじんでいる。
3.社会問題をテーマとした作品の場合、改善策が分かりにくいものが多かった。共用デッキがすべてを解決するわけではない。シャッター商店街とこども園とを組み合わせた作品は提案として分かりやすかった。不定形な形態を使わなかったことも社会派作品であることをよく示していた。

< 個別に >

1.ゆるゆる、じわじわ うえほんまち~うえほんまちハイタウン建替計画~【円満字賞】
空想建築系である。らせん状の立体スロープ公園に住宅、飲食、商店などを付け加えた計画。おもしろいのは二重らせんになっていてスロープ公園にはさまれた層に諸施設を置いたこと。住宅系だけタテに貫入させるアイデアもおもしろい。

2.ヒトの輪
京都市伏見区の竜馬商店街にひとり親世帯の支援施設を設ける計画。親世帯のシェアハウス、図書室や教室などの交流ゾーン、老人介護施設や児童館などの福祉ゾーンを計画した。設計の前提としてひとり親世帯へのインタヴュー調査を行った。その行動力はすばらしい。

3.あたりまえの日常を友として叶える第2の家【他賞】
大阪府新箕面駅前に難病児対象のコミュニティ型ホスピスを計画した。入院、在宅介護支援、社会自立支援、地域交流の諸施設で構成される。また難病児の思春期以後のケアのほか遺族との交流までを視野に入れた綿密な計画となっている。

4.居場所でつくる「むら」【他賞】
大阪府枚方市の香里三井団地の減築建て替え計画。アンケート調査によってコミュニティの力が失われつつある現状を明らかにし、コミュニティ再生の仕掛けを組み入れた。不定形な人工地盤上に住宅部のほかフィットネス、銭湯、コミュニティキッチン、DIYコーナーなどを配置し楽し気なコロニーとなった。

5.共に生きる学び舎
大規模災害時に避難所となる小中学校の教育と被災者支援の両立を考えた計画。避難所としての機能をあらかじめ計画することで教育を継続させよとする意欲作。被災直後から1年後まで避難所と教育現場とがどう共存できるのかをシミュレーションしたのがすごい。

6.見えない壁の小さな扉【円満字賞】
大阪市内のドヤ街・釜ヶ崎を敷地に選び、高齢化する日雇い労働者の町の再生のための仕掛けを分散配置した計画。こどもたちの宿題の場、ブドウ棚のある野菜広場、立体ギャラリー、屋上読書のできる図書室などを釜ヶ崎特有の屋外感・仮設感を活かしたデザインでまとめあげた設計力を評価したい。

7.養蜂場による住生活の改革
兵庫県尼崎市に計画した養蜂家のためのファーマーズマーケット。ミツバチタワー、空中歩廊、ビオトープなどを組み合わせた環境建築をめざしている。空想建築的なところが混じっているのが気になるが、環境問題を農家-養蜂家-エンドユーザーの3者の関係で解こうとした視点はよいと思う。

8.空間を着る【他賞】
大阪府忠岡町の繊維工場跡を敷地としたファッションストリート計画。試着するだけでなく重層化された街路を実際に歩くというアイデアがおもしろい。動くファッションを見せるための建築。これは正統な祝祭建築であろう。

9.「絵本」の力をかりる子供商店街
寝屋川市エスポワール商店街の再生計画にことよせた空想建築系作品。絵本を開くように次々と場面を展開させるトリックアート的な構成をねらった。建築意外のものを建築で表現する作品はこれまでの卆計にもあったが絵本をテーマにしたのは初めてだ。その意欲を買いたい。

10.空移現の建築【他賞】
他賞を受賞してよかった。これほど分からなかった卆計はこれが初めてだ。でも一生懸命なのはよく分かった。もし他が賞を出さないなら円満字賞に入れようと決めていた。思索と造形とを結び付けようとするひたむきな情熱を評価したい(できればもう少し分かりやすいくしてほしい)。

11.新たな都市農村交流の場の提案【他賞】
大阪と長野県飯山市の住民交流施設。梅田都心と淀川のあいだの中津を敷地に選んだ。階段状の人工地盤的なものに農村のミニチュアを計画した。講評では農村との交流拠点を都心に設けた着想が評価されていた。農村の疑似体験装置を建築として考えたアイデアはおもしろい。

12.井の中の蛙、大海を知る【他賞】
新大阪駅前の三角公園に海外各国をテーマとした図書館を計画した。高架駅から地上までの傾斜したヴォリュームに10本の井戸を通した断面構成と複数の泡が連なる平面構成に卓抜な設計力をみた。言うまでもないがこれは空想建築系ではない。10本の井戸に光や風などの性格を付加してインテリアを展開する手法もおもしろい。

13.水田のマチ -ナスビ小屋を用いた歴史適風致計画―【他賞】
京都府向日市のナスビ小屋をテーマとした作品。軽量鉄骨造の農業用倉庫なのだが、その変哲ない小屋にテントやミニデッキを付加して魅力ある風景を作り出した。すでにあるものを使って風景を再構築する魔法のような設計手法がおもしろい。

14.淀川における水上交通を活用した枚方宿の提案
水上交通の復活とその拠点としての水没都市の構想はとてもおもしろい。歴史的に見ても正しい視点だ。淀川流域は水没を前提とした地域づくりが行われてきた。水上歩廊と水面とのあいだのフロアデッキの構成もきれいだった。なにより次第に水没する過程をシミュレーションスケッチで示した手腕を評価したい。

15.現代における邂逅空間の創造
JR高槻駅前の歩行者用デッキを造り変えて歴史館そのほかの施設を設けた計画。人通りは多いがとくに使い道のないデッキを敷地とした着眼点がおもしろい。デッキに高低差をつけて透過性のある膜で覆うという手堅い手法もよいと思う。

16.上下左右"ストリートスポーツを通して繋がる新たな公園の提案"
スケートボードやストリートダンス、ボルダリングなどのストリートパフォーマーのための立体街路公園の計画。あくまで主役はパフォーマーで建築は脇役にまわっているのがすがすがしい。パフォーマンスという見えないものを建築化しようとする意欲作だ。

17.知的障碍者と健常者の相互理解に導くための共同機会の提案【他賞】
相互理解のためのワークショップの計画。巨大紙飛行機づくりと音の出るリングを使った2種類が提案された。いずれも実際にワークショップを行ってその成果を分かりやすく発表した。準備から発表までの一連の行動力を評価したい。

18.発達障碍児のコミュニケーション能力と自己肯定感を涵養するためのボード提案【他賞】
ゲームボードの研究と制作。実際にワークショップを行ってその成果を確かめた行動力を評価したい。講評では失敗作も含めて発表している点がよいとされた。試行錯誤もまた作品のうちだと再認識した。

19.LGBTsのプロパガンダ建築【円満字賞】
LGBTsはレズビアン、ゲイ、バイ、トランスジェンダー、そのほかの意味で性的少数者を示す。そのモニュメントを大阪梅田に構想した空想系作品。ルービックキューブのような巨大な箱を4つに切り分けて分断を象徴させたあたりは秀逸だ。その地下に広がる平安の地という設定もよくできている。試行錯誤の過程もおもしろかった。

20.「小近隣コミュニティ」形成を導く「新・縁台」の開発研究【円満字賞】
八角形の縁台風ベンチの設計と実作。お年寄りの座るベンチを複数調査してふたつのベンチが150度の角度で置かれていることを突き止めた。また置かれるべき場所がなにかに囲まれている環境であることやある程度の無関心が存在できることなど貴重な成果をあげている。これはおそらくもっと大きな研究の糸口になるだろうと思った。

21.機能不全家族をもつアダルト・チルドレンが自らの状況を認識するための自助ツール【他賞】
虐待や育児放棄などの可能性のあるアダルトチルドレンの判定ツール。他人の表情を読み取る力を数値化するもの。心療内科系で先行研究事例があるのではないかと思った。難しい研究に取り組んだ勇気を評価したい。自覚したあとの状況改善につながる展望があれば分かりやすかったかな。

22.循環可能な素材による空間デザインの提案~寒天パビリオン~【円満字賞】
寒天を利用した構造物の研究。立体脱型に失敗し、そのあと平面パネルの構築にも失敗している。ただし寒天を循環型素材として実用化しようという着想はすばらしい。もし実現すればものすごい発明だと思う。その将来性を評価したい。

23.暗闇から始まるくつろぎ空間の提案【円満字賞】
暗闇の設計。これは空想建築ではない。傾斜した柔らかい壁面に制限された開口部から落ちる光が暗闇のグラデーションを作る。そのことを模型実験で確かめた実証的な態度を評価したい。不定形なかたちの作品も造形的なレベルが高くておもしろい。

24.身体に考えさせる連なる面
ふるまいに応じた場の設計。大阪駅前で不特定多数のふるまいを採取してパターン化した。ガラス張りスペースや無機的スペースを傾斜路などで立体的に連続させた作品。とくに温熱環境の変化を取り込んだ自然環境の再現はおもしろい。空想建築系に見えるが実は実証的な研究なのだ。

25.-OPEN LOGGIA COMMUNITY-
大阪夕陽丘の上汐公園を敷地とした独居高齢者支援施設の計画。コミュニティキッチンを中心としたA棟とジムを中心としたB棟を高低差のあるウッドデッキで包み込む。このデッキが施設をまちに対して開くというところに手堅い設計力を感じる。

26.時の重層
京都市内で廃校となった旧生祥小学校を留学生交流施設として再生する計画。ワークスペース、ジム、シェアキッチンなどを増築する。旧校舎の外壁エレメントをパターン化し増築部分にパッチワーク状に貼り付けてイメージの継承をねらった。わたしは運動場に増築された階段広場によって閉鎖的な教室棟を開く工夫がおもしろいと思う。

27.天に向かう聖域
大阪市内のビルに囲まれた神社の再生計画。集会機能の強化によってかつてのコミュニティセンター的な役割を復権させる。複数の敷地を選んで試行錯誤しながら典型例を探ろうとする手法がおもしろい。日常と祭礼時によって施設の使い方が異なることを見抜く観察眼が確かだ。

28.共育-西二階町商店街とまちぐるみのこども園-【他賞】
姫路の西二階町商店街を敷地にこども園を計画した。通りをはさんだ左右に施設を分散させ空中歩廊によってつないだのがおもしろい。アーケードに響くこどもたちの声が聞こえてくるようだ。相談室などの支援機能を空き店舗に分散させてまちぐるみのこども園を実現させた。バランスがよく確かな設計力がある。

29.うめきたメディアタワー【他賞】
大阪駅北側に光の膜につつまれた巨大あんどん型遊歩タワーを計画した。膜のテンションを利用した構造がよくできている。不思議な立体が光のグラデーションをまといながら立ち上がるさまはさぞ美しかろう。ファサード不在の大阪駅再開発に顔を与えた構想力と設計力を評価する。

30.都市のインターフェイス-道頓堀川立体遊歩道計画―【円満字賞】
道頓堀に面した立体遊歩道計画。堀に裏を向けているビルとの接続をひとつひとつ確かめながら長大な遊歩道を実現させた。かつての芝居小屋街としてにぎわった道頓堀の復活を目の当たりにする楽しい作品である。仮設的なデザインも芝居小屋を思わせておもしろい。構想力、設計力、プレゼン力のそろった今期1番の優秀作である。

31.水辺の小景【他賞】
寝屋川駅前の水路沿いの遊休地を活用したコミュニティデッキの計画。公民館やこども図書館の機能を分解分散させウォーターフロントの遊歩道でつなげた。遊歩道に高低差を与え壁面緑化を行うなどわくわくする路地的な楽しさと風を感じるさわやかさを実現している。根気のある設計力を評価したい。

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2019年3月11日 (月)

2018年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ

 竹の茶室でお茶をいただいてほっこりした。こうしたこの学校特有の親しみ深い雰囲気がわたしは好きだ。今年も楽しい卆計展だった。ありがとう。そして卒業おめでとう。

< 全体として >
 今年は他大学のように流行に流されたものが一切無くてよかった。今流行っているのは九龍城のような迷宮都市だ。そうした案はそれなりにまとまったイメージに仕上がるのだがオリジナリティが感じられないものが多い。そうしたものが無かったのが本当によかった。みんなよく勉強していると思う。
 
 さて、これから卆計に取り組む諸君に言っておきたいことをひとつ。

 わたしも昨年から他の学校で卆計めいた課題に取り組んでいる。週1時間半で半期だと時間的に厳しい。なにが厳しいのかというと、考える時間と図面や模型を作る時間の割り振りが難しいのだ。実務ではエスキス段階で細かい仕様も考えているのだが、それを学生さんに求めるのは無理だろう。しかも図面をひいたり模型を作ったりするのも途方もなく遅い。
 そこでなにかを省略せねばならないわけだが、そこがまた難しい。とりあえず、よく知っているもので勝負するのがよかろうと思う。よく知っているテーマ、よく知っている敷地、そのしたもののなかからテーマを見つけ出すことができれば、調査研究に割く時間が減り、その分作品づくりにかける時間を確保できると思う。テーマ選びにかっこ付けることはない。あなたが一番よく知っているジャンルで勝負してほしい。

< 個別に >

【 建築科 】

神戸人工島の学校
兵庫県の人工島・六甲アイランドのコミュニティシンボルとして計画された木造小学校。現在複数ある小学校をひとつに統合してシンボル性を高めた判断はすばらしい。駅前公園と一体的に運用することで町の祝祭にも対応できるレイアウトは綿密な地元調査の裏付けがあってこそのプランだ。地盤の上下でセキュリティを管理する手法やゾーニングに応じて校舎のかたちを自在に変えるところなど設計力を感じる作品だった。とくに大きな体育館を細かく柱を並べ壁面を奥へずらすことによって生まれる陰影によって圧迫感を消したデザインはすばらしい。よい設計者になるだろう。

病院に通う高齢者のための複合施設
病院での待合時間をさまざまなサービスの提供によって有意義なものに変えるプラン。建築が人生にゆたかな時間を与えることができること思い出させてくれた。施設は美容室、カフェ、マーケット、薬局など。校長が評価したように美容室というのはよいと思う。利用者に寄り添った優しい建築である。

宿泊図書館
図書館に宿泊施設を併設した計画。わたしは僧房をともなった図書館だと思った。それは修道院都市であるしケンブリッジのような大学都市でもあろう。中2階を設けたひな壇状の閲覧室がよくできている。最上階の宿泊室へはいったん外部のバルコニーへ出てからアプローチするのもおもしろい。

煙が昇る風景、雙ヶ岡の火葬場★
小規模な火葬場の計画。死に人を送るセレモニーの再考がテーマだ。同様の作品に2014年度卆計「都市に生きる火葬」がある。この作品のプランはとてもよくできていて見事だった。版築の壁の上部から光が落ちてくるところや焼き場と骨拾い場のあいだに中庭があって雨や雪を見せるところなどよくできている。アスプルンドの森の火葬場を思わせるよい作品である。

向日市こども図書館
京都府向日市の竹林地帯にひそむ溜池に面して計画された小さな図書館。溜池の横にはこの地域でも最古の部類に入る前方後円墳がある。秦氏の故地であり、この池も起源はそうとう古い。そうした歴史ある敷地に選んだののがおもしろい。諸室を中庭を囲むように雁行させ、その一角から溜池を垣間見せた抑えた演出はよくできている。

自然遊び、飛騨高山の民宿「甚左衛門」
自宅古民家を体験学習用の民宿として開放している「甚左衛門」の改修案。見たところ江戸後期から幕末の古民家で明治になってから茅葺を2階建てに改造した養蚕農家に見える。土間は部屋になっているが柱はそのままなので、梁組やさし鴨居が残っているのではないか。プランは水回りの改良と離れの減築を中心としている。あまり大きく変えずに現状の過不足を補っている。甚左衛門とのこれまでの付き合いのなかで、ゆっくりと醸成されたようなプランに好感を持った。


【 建築科2部 】

人が歩く新しい、まちの中心
鯖江駅前の再開発プラン。斜面地を活かした立体的な空中歩廊を巡らせて駅舎、図書館、観光案内所を結び付けた。とがった屋根の造形が目をひくが、台地との段差を活かしたプランニングを評価したい。

表紙の見える絵本の図書館
表紙を見せる書棚を中心とした絵本図書館の設計。こども用書架や階段状になった開架閲覧室のデザインなどアイデアにあふれている。こどもや車いすへの配慮など優しさにあふれた設計となっている。書架のシステム化や階段閲覧室の展開などいろいろな可能性を秘めた作品である。

巨大迷路
おもに2種類の迷路を組み合わせている。ひとつはエッシャー風の階段型で、もうひとつは小部屋がつながっていく脱出ゲーム型。平面的な迷路が次第に立ち上がり塔につながっていくのがおもしろい。阿部公房の小説にこんな迷路があったことを思い出した。クレタ島のラビュリントスには怪物ミノタウロスが棲むが、ここにはどんなものが巣くうのか見てみたい。

伊賀忍術学校
伊賀上野城近くの廃校になった敷地を忍術学校として再生する計画。講評会でもっとも活発に意見が出た作品だった。動く教室や階段がなく2階へよじ登る動線など、さまざまな工夫がこらされていて興味深い。それでいて全体のシルエットは瓦ぶき屋根をつなげた優しいもので閑谷学校を思わせる。

川上村高原集落、多目的複合施設
円形の郷土資料館を中心としたコミュニティ系の複合施設の計画。いくつかのボックスが組み合わされた構成で、それが斜面にのっているので随所にピロティができておもしろい。難しい屋根を破綻なくまとめたあたりの設計力を評価したい。

新選組資料館
新選組ゆかりの壬生寺屯所に隣接して資料館を計画した。小規模ながらよくまとめられている。わたしはたまたまこの学生さんが左官や構造の勉強をしてきたことを知っている。そうしたことをもっと出してもよいと思う。それと、たぶんチームでなにかを作る現場主義的なものが向いているのではないかとも思う。

海に沈むまち★
沖縄のサンゴ礁に水没した架空の集落の発祥から水没までの経過を物語る作品。時間を取り入れた卒計は以前にあって驚いたことがあった(他大学だったかもしれない)が、それよりも時間軸が長い。また集落がニライカナイの祈りの場として発展していくといいう地域史に基づいたストーリーもおもしろい。遺跡風のプランもよくできていた。

耕す暮らしと育つ芸術、二つの文化が根付く集落
農村と芸術家村とが融合した集落計画。集落の入り口に工房やギャラリー、シアターなどを配置し、その奥の川と丘にはさまれた場所に農地をはさんで芸術家と農家の小住宅が向かい合うレイアウト。ゾーニングと各施設の設計とが行き届いている。既存集落との混在を考慮してはと校長が指摘したがそれはまた別の話だろう。魅力的な敷地を見つけ出しそれに応じた形を導き出した手腕を評価したい。

集団の夢、個人の都市★
ハノイの密集地にシェアハウスと店舗の小さな複合施設をつくる計画。現状の町には間口3メートル、奥行き30メートルほどの敷地に5階建てほどのペンシルビルが立ち並ぶ。路地のような通りは活気ある商店街で住民と観光客が行きかう。そうした町の活気を大切にした計画がおもしろかった。路地に見立てた吹き抜けに面してシェアハウスと店舗が縦に並ぶ計画は町のひな型であると評したら作者に違うといわれた。この形態の敷地は借地だろうと指摘するとそれも違うと言われた。どうにもかみ合わないがよくできているので円満字賞を出しておいた。

八瀬こども図書館
八瀬駅の川向うにこどものための図書館を計画した。水辺のテラス、森を見るバルコニー、シンボルツリーのあるデッキなど多彩なアイデアであふれている。


【建築科2年のグループ課題・京大吉田寮】

吉田寮再生100年プロジェクト
全体を木骨フレームで固めたプラン。ちょっとやりすぎである。長大な木造校舎の補強は九度山小学校の事例があるので研究してほしい。この案のおもしろさは複数の宗教のための祈りの場を新たに設けていること。国際化した大学で必ず必要ながら国立であるがゆえに決して用意できない施設に思い至った慧眼を評価したい。

(     )
人工地盤をかぶせて、その支柱を構造補強として使う案。これもやりすぎである。ただ、人工地盤下の暗がりに差し込む光が深い樹林のなかの木漏れ日のようで美しい。人工地盤はその下の暗がりを活かすプランが難しいのだが、そこを難なくクリアしているところに確かな設計力を感じる。


【建築科1年課題・美術館】

森の美術館
六角形グリットで設計された小美術館。六角形グリットはブルース・ガフのプライス邸がGA33にあるので研究してほしい。六角形の中と外とその中間の吹き抜けホールをうまく組み合わせている。また各部屋の天井高さを注意深く調整して、それが外観を決定しているところもよくできている。

宝ヶ池美術館
2本のカステラ状の展示室に挟まれた石畳の外部通路から池を見せるプラン。壁面も石張りにして象徴的な場の設計に成功している。天井の高い展示室の上部にスリット状に開けられた明かり窓から落ちてくる光のようすもおもしろい。今後は好きな建築家を見つけてとことん研究するのがよいと思う。

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2019年2月16日 (土)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2019.02.16)

< 全体として >
 今年は後からジワジワ来る作品が多かった。地味だけど捨てがたい良さのがある。一方でやんちゃな作品が見当たらなかったのが残念だった。

 

 さて、卒業計画はやり残したことが多いほどよい。これから社会に出たとき、そうしたやり残したものが次へ進む足がかりを与えてくれる。だからやり残したことは君の財産なのだ。それを忘れず建築を続けてほしい。今年も楽しいひとときを過ごすことができた。ありがとう。そして卒業おめでとう。

 

 

< 個別に > ★は円満字賞、本年は7本と昨年の13本より少なかった。

 

 

【 建築環境デザイン研究室 】

 

< 京都ロージ裏、居住モノガタリ >
過疎化の進む京都市街地の再生計画。ワンブロック最奥部の遊休地を路地風に開発することで都市再生をねらう。昨年の「密集市街地における屋外空間の再編」や「光合成する建築」を引き継いでいる。わたしは上尾の連続建て替えを思い出した。おもしろいのは路地に新築された木造建物がミセ、コモンリビング、ニワ、ルームとプライバシーに応じて階層的に配置されていること。問題がよく整理されており対応する設計もこなれている。なかなか力量のある作品だ。わたしは伝統工法のほうが計画になじむだろうと思った。

 

< キネ築 >
唯一話の聞けた作品である。外国人労働者の多く住む公営団地の再生計画だ。ブラジル系が多いことから地域産のコメを使ったブラジル風ビールの工房を設けて文化交流をねらう発想がおもしろい。集落を模した団地計画や斜面を活かしたビール工房に設計力を感じる。わたしは外国人だけを集住させる計画には反対だと話しておいた。選別的な集住計画はコミュニティ形成を阻害する場合がある。それは70年代アメリカ諸都市の荒廃への対策から生まれたコミュニティ計画論が教えてくれる。

 

< 共暮らし ~愛玩動物と人間との新たな伴侶関係の創造~>
アニマルセラピーを通したコミュニティ再生の作品だ。ドイツでみられるような保護犬の里親募集施設をモデルとしている。そこへ空中歩廊のドックランを併設し動物好きを集める工夫をこらしたのがおもしろい。それと被差別地区の皮革産業と結びつけるのは無理があろう。被差別地域を含むこの地域は地域消失と呼ぶべき危機をむかえており、住民らは高層の市営アパートに住み継ぎながら地域の祭事を継承している。そうした実情へのまなざしがほしい。

 

< 記憶をつなぐ、つくる仮設住宅 >
仮設から恒久住宅への研究は和歌山県で進んでいる。地域産材を使いながら短期間で設置でき、恒久住宅としてランクアップできる木造住宅だ。本計画はウッドデッキの物干し場を通りに面して設置し、井戸端会議的なコミュニティ再生をもくろんだ。神戸の震災後数年たっても撤去できなかった仮設住宅でお年寄りの孤独死が続いたことがあった。わたしは応急3週間、復旧3ヶ月、復興3年だと思っている。孤独死は応急仮設住宅が3年たっても解消できなかった末の悲劇だとわたしは思っている。さてこの作品の「仮設」と「恒久」は応急、復旧、復興のどこに位置付けられどのような役割を果たすのか。

 

<「かわ」でつなぐ鞍馬のオモテとウラ >★
鞍馬の旧集落を里山ミュージアムとして再生する計画。鞍馬川にかかった橋状のラウンジが出色だ。やはり設計力を感じる作品である。レイアウトや諸室の設計など申し分ないのになぜ外観が片流れなのか。彦根の夢京橋キャッスルロードのように旧街区に合わせた木造伝統工法でデザインすればもっと地域になじんだと思う。

 

< 目標のための情報収集の場所「日常生活の中からさがすリハビリのきっかけ」 >★
障碍者や高齢者のリハビリを施設内ではなく街中で行うためのストリートファニチャーの計画。横断歩道、マンホール、電柱などふつうにあるものを使ってゲーム感覚でリハビリを行う発想がすごい。大きな施設を作るのではなく、既存の町に少し手を加えるだけでおもしろくなるという夢を与えてくれた。今回もっとも興味深い作品だった。

 

< 車窓景観の結節 -紀州鉄道の駅修景案->★
配線跡を利用したタウンツーリズムの計画。描きこまれたスケッチの数々が圧巻でつい見入ってしまった。廃墟的なデザイン志向が気になるが、それでも地域をよく歩いて自分なりの回答をイメージ化した努力を見るべきだろう。歩けば答えは見えてくることを教えてくれる。建築計画を進めるうえで必要な調査力をもっとも感じた作品である。

 

 

【 インテリア建築デザイン史研究室 】

 

< 57枚目の街 ~守口市土居地区商店街を機転とする、東海道五十七次を用いた地域活性化計画~ >
歌川広重の東海道五十三次を応用した商店街の再生計画。景観要素の分析に絵画的手法を使うことがあるが、これはそれを逆用したことが特徴だ。絵画のアングルを計画に応用する、もしくは絵画的なオブジェを街路に配置するなど工夫している。商店街内に新施設を分散配置するタイプの地域計画なのだが、絵画的手法が無くても質の高い設計だった。修景の効果と必要性が分かりにくかった。

 

< 第二の墓 >
新しいタイプの斎場計画。駅前に立地し、図書室、カフェ、瞑想広場などを併設している。今年数少ない空想系だ。どこまで現実と空想の折り合いをつけるのか迷いに迷った跡を感じた。よくがんばったと思う。昨年の「虚構現実空想真実地」を引き継ぐ計画だが「虚構」と比べて敷地が小さすぎる。スケールアップすれば本領が発揮されるのではないか。ガンジス川は今でも火葬した遺灰を川へ流す。河原一帯が斎場のようなもので、大きな川に夕陽が沈むとき日常と非日常が交錯する。本来はそんなワクワク感を秘めた作品だったろうと思う。

 

< 緑の中の学び舎 ~平野宮町の小中学校に植物園を融合する~>
園芸療法を応用した小中学校の計画。植物を共同管理するコミュニティガーデンでもあろう。なかなかよい着眼点だ。馬蹄形の教室棟や円形校舎に大地とのつながりを主張したライト建築を連想した。しかし植物園部分が小さすぎると思う。管理された農地ではなく巨大な森林のような植物園に包み込まれた小さな学校であれば主旨を全うできたのではないか。

 

< 高架下建築 ~高架橋による分断の緩和~>
鉄道によって分断された地域をコミュニティセンターでつなぐ計画。実際にどのように分断されているのか分かりにくかった。鉄道は高架化されているのでその下をいくらでもくぐり抜けることができる。すでに分断は解消されているのではないのか?どうなのか?

 

< 緑と共に変化する都市の表層 ~靭公園の生態系を用いた都市の森計画~>
靭公園と御堂筋を緑のネットワークで結ぶ計画。中間に緑化された駐車場ビルを建設し鳥たちが往来できるように考えた。止まり木を既存ビルの屋上に設置するアイデアもおもしろい。ただし計画規模が小さすぎる。4年前の「都市の生態系ネットワークをはぐくむ」は阪神高速を緑化して生駒山系と大阪都心とをつないだ。やはりそのくらいのスケール感が必要ではないか。

 

< 戦争と音楽で通じ合う高齢者と若者 ~戦争遺構・大阪砲兵工廠で~>
大阪砲兵工廠の旧化学分析所に音楽ホールを隣接させた計画。置塩章の1918年の作品の一部を損壊するのはいただけない。ちゃんと修理して使ってほしい。戦争遺跡と音楽ホールのコンプレックスを計画したいのならそれは砲兵工廠ではなくJR東西線京橋駅ではないか。高架下にはまだ空襲慰霊碑が残っているはずだ。

 

 

【 地球共生デザイン研究会 】

 

< 視覚・聴覚障害に阻害されずに楽しめる新しいコミュニケーション探索型遊び空間の提案 >
コミュニケーション探索型という着想がよい。検証をしたのだろうか。もし検証実験をしたのならその報告もしてほしかった。

 

< 自然資源の有効活用に関する研究 ~ホタテ貝殻を利用した外壁・屋根材の提案~>★
産業廃棄物であるホタテ貝を使った建材の研究。反射率と遮熱効果の実験を行っている。ブロックとしてより遮熱タイルとしてイメージしているようだ。ホタテ貝利用はいくつか実用化が始まっている。おもに混入型の断熱材として使われているようなので反射を利用するという考えは新しいしおもしろい。

 

< 災害時における避難所でのキッチンステーションの提案 >★
避難所用の移動厨房の計画。干し野菜とドライフルーツを使って避難所生活におけるビタミン不足を補うことを目標とする。建築自体ではなくそこで作られる食事をメインに構想しているところがおもしろい。食材と組み立て式厨房のセットがいくつ必要なのか、備蓄で何週間まかなえるのか、など具体的な展開を考えさせてくれる。それだけイメージアビリティが高いということだろう。

 

< Hawaii Beauty Park >
観光地のビジターセンターの計画。地域の植生を復元した公園内に案内所と屋外ホールを設けた。神話をモチーフとした散策路のオブジェなどよく考えられている。

 

< 自然共生住宅の設計提案 ~物質循環と版築の家~>★
蛇行する版築壁に簡易な床と屋根を任意に取り付けて家と坪庭を交互につくる計画。季節によって寝室の位置を変えたり、経年的に自由に増改築を行うことができる。これが町中に広がれば循環型建築となるのではないかと問う。現代版古民家のすすめだ。実際は町規模でおさまる話ではない。土や木材が地域で循環するとすればある一定の広域な経済圏を想定すべきだろう。それは今後の展開として、とりあえず土に着目したところを評価したい。土壁は耐震性や断熱性が高い。また世界的にも珍しい発酵建材である。土壁は日本の風土に適した循環型の建材だ。そのことに注目した点を評価したい。

 

 

【 建築意匠設計研究室 】

 

< 廻る美里の還元集落 >★
棕櫚の産地である和歌山の町に棕櫚工房をつくる計画。川に面して小さな工房が集落のようにつながる楽し気なレイアウトだ。原広司の一連の集落研究を思い出した。これも設計力を感じさせる作品である。集落の継承をうたいながらなぜ伝統的なかたちにならず片流れ屋根になるのか。そこがどうもよく分からなかった。

 

< 自転車ごようたし >
地下鉄駅前の立体駐輪場に屋上農園、スケボー場、屋台通りを組み合わせた計画。これは難しかったと思う。格闘の跡がうかがえた。なぜ難しいのか。そもそも駐輪場は駅改札のもっとも近くに設けるべきものだ。そうでないと不法駐輪はなくならない。改札と直結するなら余分な動線がなくなり中間施設を設ける余地が失われる。つまり駐輪場と他施設とのコンプレックスは計画的に考えて水と油なのだ。それをつなぐアイデアはわたしにはない。

 

< 団地と暮らしの再編 >
大和側の浸水に備えて1、2階をスケルトン化して団地を再生する。これも難しかったろう。やはり七転八倒したようすが見て取れる。この計画のような階段式団地の一番のネックはエレベータをつけにくいことだ。そのため上層階から空室化が進んでいる。この計画のように歩いて上がれる1、2階を犠牲にするのはもったいないのではないか。また階段式は壁式構造なので地震に強い。その利点を犠牲にして低層階を耐震性の低いピロティにかえてよいのか。わたしなら垂直動線を新たに確保したうえで、1、2階の住民が被災時に3階へたやすく登れる避難動線を考える。

 

< 上昇する路地の反撃 >
中崎町の地域特性である路地を立体化したビルの計画。昨年の「オオスガノコレカラ」と同じテーマだ。オオスガは完全な空想建築で卓抜なプレゼン力で見るものを魅了した。こうした空想系は模型やパースの精度が求められる難しいテーマと言えよう。この作品の場合規模は小さくして精度を上げたほうがよかったのではないか。100分の1であれだけ大きな模型を作った根気はすごいと思う。

 

< 緑-繋がり、開く- >
難波のヲタロードに面した敷地に店舗と住居のコンプレックスを作る計画。RCの立体格子のなかが迷路になっており、町そのものが立体化した趣がある。現代版ユニテ・ダビタシオンなのだが、コルのような社会再生の企図はないだろう。この作品もオオスガのような空想建築系だと思う。模型の精度が高いのは評価できる。このクラスでもっともよくできた模型だった。ただ計画に変化がほしい。この敷地は三方の道の性格が違う。東はヲタロード、北はメイド通り、西は昔ながらの日本橋の町内だ。この3面の違いを活かしても変化を出してもよかったのではないか。

 

(以上)

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