講評

2017年3月 5日 (日)

2016年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ

 今年もなかなか楽しかった。試行錯誤や逡巡するようすが図面の隙間からよく見える。その迷いや苦労が今後の糧となるのは間違いない。よいものを見せてもらった。ありがとう。そしてご卒業おめでとう。

<全体として>
 今年は田園都市風が陰を潜めてインターナショナルスタイルが散見された。どっちにしてもモダニズムの呪縛がら解き放されないのがもどかしい。わたしはその呪縛を伝統木構造の考え方が突き破ってくれると思っている。

 昨年の講評で卆計を要領よくやるコツを披歴した。それを読んでくれたわけでもなかろうが、今回は全体によくまとまって昨年よりも図面が揃っていた。よくがんばったということだろう。

 建築科2年の作品に関しては一存で恒例となっている円満字賞を出した(★のもの)。講評会に参加してくれた受賞者には賞品を贈った。


<個別に>

(建築科2年)

 湖の学校
 現在琵琶湖を周航している湖上学習船の母港の計画。桟橋に配した諸施設と停泊する船を覆う大屋根を架けた大胆な構成をしている。宿泊、食堂、展示室、展望台など諸室の選定が的確で大きな施設を具体的に計画する力がある。ロシア構成主義のように大屋根に諸室を吊り下げるスーパーストラクチャーを連想したが、わたしはこまごまとした諸施設を大屋根をかぶせて統一感を出すこの作品の手法もおもしろいと思う。

 団栗橋の床★
 鴨川に架かるどんぐり橋を2階建てに改造する計画。2階は図書館となっている。骨組みを見せる姿が美しい。橋は好きで自分でも考えることがあるが、他施設との合成は考えたことがなかった。着眼点がおもしろい。街並みのスケールに合わせて切妻屋根をふたつを並べたデザインが出色だ。そのおかげで木屋町筋と宮川筋とが違和感なくつながった。橋は水上の都市門でもある。鴨川をさかのぼって入洛するなら、これはなかなか楽しい門となるだろう。

 つむぐ★
 京都市伏見区の母子生活支援施設。閉鎖的な居住施設とオープンな広場を中間的な支援施設でつないだもの。居住施設には屋根を載せず目立たないよう配慮されている。支援施設は中庭を囲んだ形で修道院的な互助のイメージがある。その前の広場はある種の祝祭広場ではないか。社会的な課題を突き詰めると、中世的な都市の元型に行きつく結論がおもしろかった。

 学びの村
 京都市内にある木造小学校。中庭を囲んだプランをよくまとめている。フリースペースを設けたオープンスクール形式を一部取り入れている。風車型の窓が印象的で楽しい。図書館の吹き抜けの閲覧室も木造らしくて気持ちがよい。

 NIGHT LIBRARY★
 四条通りの阪急地下道にある夜間営業の図書館。終電に乗り遅れてもここで時間を過ごすことができる。この敷地は阪急が地下街を計画したが地元の反対でとん挫し、地下道だけが残ったものだ。なにより驚いたのは地下道の横に幅5メートルくらいの余地があったこと。街の隙間をよく見つけたものだ。終電に乗り遅れものたちの世界というものが確かにあるが実態を持っていなかった。それを建築化した作品とも言える。おもしろい。

 ルカップ★
 京都周辺の山上にある天体観測施設。斜面に宇宙船が着陸したような形をしている。星形をイメージした平面を吹き抜けで上下をうまくつないでいる。斜面に対応したような斜めのガラスウォールも利いている。なかなか楽しい設計である。

 旧市街地の街の活性場★
 福井県武生駅前の空き地を利用したコミュニティ施設。単純な格子状フレームを平面的にも断面的にも「抜け」を作って的確に「場」を作っていくのがおもしろい。1階の吹き抜けピロティは朝市も開けるフリースペースだが、そこに暖炉がわりの大きなキャンプファイヤーを設けているのも楽しい発想だ。そこは吹き抜けの外部となっており、吹き上がる火の粉と舞い落ちる雪の交差する風景が目に浮かんだ。よい計画を見せもらった。

 Field House
 農地のある介護施設。農作業と収穫物の調理を介護の主軸に据えた視点が中世修道院的でとてもよい。プランは諸室を単純な2階建てラーメンに手堅くまとめた。回廊などの内と外との中間的な場所を付け加えてはいかがか。

 シニアカレッジ★
 奈良県にある溜池公園の老人大学。スーパーストラクチャーが美しい。インターナショナルスタイル風の構成もうまい。水上の展望台もおもしろい。全体が土手の下に入っており地底都市のような、もしくはエジプトのアブシンベル神殿のような風景が抜群におもしろい作品だ。

 ゆ、地域のお年寄りのために
 京都豊国神社前のコミュニティ銭湯。景観に配慮して和風の外観だ。風呂場とコミュニティスペースを中庭でつないで手堅くまとめている。施設を街へ開く冒険もしてみてはいかがだろうか。

 向日町広場
 京都府下の小さな町の大型スーパー跡地に建つ高齢者サービス付きマンションと市場。高齢者向けの施設と市場とを組み合わせた発想がよい。コンパクトにまとめられた居住棟とそれに向き合うアーケード付きの広場のシンプルな構成もよくできている。

 美人の湯★
 京都市の夜景の見える山腹にある女性専用の入浴施設。さまざまな機能を分節して、それを渡り廊下でつないでいく構成が出色だ。難しい構成をうまく取りまとめる確かな設計力がある。ここが夜専用なのは、眠りが人を再生させることを連想させる。湯治が命を再生させた湯の峰温泉の神話を思い出した。

 京都和束ホテル
 茶畑のなかのグリーンツーリズム宿泊施設。ローマの近代合理主義建築EURを思わせる連続アーチが印象的だ。ヴォールト天井がそのまま外壁のアーチとなっているのがおもしろい。茶畑のなかに埋設して、ヴォールトそのものを構造体にしてはいかがだろうか。

 田舎の映画村★
 名画座のまわりに散開するシアタールーム。まちのなかに潜みながら界隈をつくる発想がおもしろい。ひとつひとつは目立たぬよう手堅くまとめたセンスもよい。設計力がある。

 生水荘(しょうずそう)★
 琵琶湖西岸のグリーンツーリズムコテージ。農地と村との境に立地。街並みのスケールに合わせて諸機能を分割配置する確かな設計力がある。野菜を洗ったりするような川端(かわば)と呼ばれる水場を各居住棟に再現しているのがおもしろい。風呂場からの眺めを考えるなど、細部にまで楽しさがあふれている作品だ。

(建築2部2年)

 湖畔の図書館
 琵琶湖畔の図書館。吹き抜けの閲覧室を中心とした手堅い設計。機能と機能をつなぐ中間的な「間」の部分をもっと取り入れてはいかがだろうか。

 高齢者住宅と保育所の世代間交流施設
 高齢者用住棟は大屋根の下に2階建て住宅がはまりこむドミノ式となっている。中庭を中心として保育所と向き合っており、その中間に印象的な円錐形屋根のコミュニティキッチンを据える。中庭は農地となっており、耕作と調理とをテーマに世代間交流をはかるという発想がおもしろい。

 発禁本歴史図書館
 アスプロンドのストックホルム図書館を思わせる円形閲覧室が出色だ。天井ドームのトラスがよくできていて美しい。発禁本というテーマと建物、京都市岡崎公園という敷地と
建物との関係をもう少し押し出してはいかがか。かつで岡崎公園で黒田清輝の裸婦画問題もあったことだし。

 Happi Richi園舎
 明石海峡を望む兵庫県須磨の幼稚園舎。斜面をうまく使った計画で、どこからでも海が望めるようになっている。手塚の「ふじようちえん」を思い出したが、デザインはむしろインターナショナルスタイル風でうまいと思う。

 自然科学博物館
 霧島山を望む場所に建つ霧島をテーマとした物館。複数動線の処理にてこずったようだがよくまとめた。霧島の見せ方を工夫していておもしろい。筒状の展望台のデザインが出色だ。この展望台を中心に据えて考えてみてはいかがか。

 故郷に再建する小学校
 山間部の小学校跡地に再建する小学校計画。川の屈曲部というおもしろい地形に合わせて円形プランを使った野心作。斜面もうまく利用している。設計力ありと見た。もう少し造成を細分化してはいかがか。

 地域力を育む市庁舎
 泡状平面でイタリアのアルベロベッロを思い出した。アフリカサバンナ地方にも同様の泡状プランがあるね。ここでは組積造の代わりにガラスの曲面ガラスを使って軽やかに仕上げた。なかなか楽しい作品である。円形プランは難しいのだが、それをうまく使いこなすだけの設計力がある。

 美術公園
 エッシャーの作品を建築にしたらどうなるのかがテーマの地下美術館。絵にあるとおりの連続アーチのフレームのなかを縦横無尽に階段が交差する。エッシャーらしいだまし絵的な地下迷宮を創り出すことに成功している。うまいと思う。

 鎌倉歴史文化館
 鶴岡八幡宮前の展示施設。サンクガーデンを囲んだ展示室を中心に主要施設を地下として地上のボリュームをしぼり、周辺景観との調和をはかった。中庭プランとしたおかげで各棟の幅が狭くなり、結果として屋根も小さくてすむという効果をもたらしている。したたかな設計だ。池の上の茶室や水の下の石庭など遊び心のあふれる楽しい作品だ。どことなく吉田五十八や大江宏を思わせる大人びたデザインなのもおもしろい。

 宝ヶ池フットボールスタジアム
 手堅くまとめている。もう少し構造を自由に考えてはいかがか。そうすれば構造から風景への展開が始まると思う。

 森の図書館、水の美術館
 大坂天王寺の文化系コンプレックス。高さを押さえた渋いデザインで、日本の1960年代構造主義建築を思い出した。平面は吹き抜けを使ってうまくまとめており手堅い設計力があるのが分かる。

(建築科1年)

 宝ヶ池に浮かぶ美術館
 八つ橋のような桟橋上に点在する展示室。湖面に逆さになって映り込む姿と合わせて見れば不思議なおもしろさがあるだろう。全体は木質系の仕上げになるのではなかろうか。

 三条の美術館
 京都三条小橋畔の小美術館。水面からの反射光をうまく取り入れた作品。一部を斜めにしたプランも嫌味なくうまくまとめている。現在ここに建つタイムズビルはベネチア的な迷宮都市の楽しさがあるが、それはこの作品からも感じる。施設をいくつかの部分に分け、それらの隙間をうまく利用すれば楽しい迷宮となるのだろう。

 池の森の美術館
 北海道の牛舎建築を思い出した。雪深いため1階の牛舎はコンクリートブロック造で、その上に新興木構造のトラス屋根の干し草置き場があった。あのような美しい建築に対するリスペクトを感じさせる楽しい作品である。

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2017年2月20日 (月)

帝塚山大学居住空間デザイン学科卒業制作展 感想メモ(2017.02.20)

 友人のオカダハルコ氏が指導するゼミの卒業制作展を見てきた。なかなかおもしろかった。思っていた以上に真摯に建築と取り組んでいることがよく分かった。設計や模型作りに苦心していることもよく分かった。この苦心や苦労は必ず明日の糧となる。卒業おめでとう。

<全体として>

 空想系なのか現実路線なのか判然としないものが散見されたので、そこのところははっきりさせておいたほうがよいと思う。
 それから円形プランには注意したほうが良い。これはユング風にいうと、混迷したときに心の奥から現れる自己の象徴みたいなもので、それに飲み込まれてしまうと設計が止まってしまうからだ。
 あとは、模型は無くてよいと思う。その分設計を進めたほうがよいのではないか。模型を見ても分からないし、そのところの図面もないというのが見ていて一番困る。平立断が揃うことは模型よりも優先されるだろう。まあ、図面が揃っていないというのは他大学でも同じような状況なのだが。

<個別に>

 廃校コンヴァージョン
 廃校となった山村の学校を体験型学習施設として再生する計画だ。大きな模型でインテリア計画がよく分かる。昔の教室を一部再現し「癒しの場」としたのがおもしろい。記憶が癒しに繋がることをよく見ている。それは廃校をたまたま空いているから使ったのではなく、そこに地域住民の記憶の集積体であることに気づいている証しだ。

 ティアハウス
 捨て犬やネコの殺処分がドイツではゼロなのだそうだ。拾われた犬やネコなどの新しい飼い主をコーディネートする施設をティアハウスというらしい。人と犬と猫の領域を設定し、それらがお互いに交わったり繋がったりする設計がよく練られていておもしろかった。インターナショナルスタイルなのは流行りなのだろうか。それもよく自分のものとして表現している。

 ペット共生団地再生
 五百分の一の模型が分かりやすくて良かった。既存団地の一部を残して残りは建て替えて、新旧の住棟を空想的な空中歩廊で結んだ楽し気な計画だ。残した既存住棟まわりを広場化して、新たな人とペットの動線を生み出したのはうまいと思う。

 STAY-TION
 兵庫県の芦屋駅の新築計画。STAYをキーワードに図書館や空中庭園などを配した計画だ。線路の上なので敷地が細長くなる。それをうまく分節してつなげていく確かな設計力がある。吹き抜けや歩廊などで視線の交流があり、それをうまく繋いでいくのがおもしろかった。

(捕捉)
 空想系なのか現実路線なのか分かりづらいので講評しづらかった。現実路線であれば、駅は他交通手段との乗り換え場所なのだから、徒歩、自転車、バスなどとの連携をもう少し明確にしたほうがよいだろう。空想系なら大型飛行艇の係留所など加えてもよいかも知れない。

 水際への招き
 大坂中之島の回遊型水上バスによる水上都市復権計画。空想系かと思うと大間違いで、れっきとした現実路線である。水質浄化を考えた水際緑地の併設などよく考えられている。デザインも曲線を使った自由な形態だが、その実中身はしっかり設計されている。なにより水上都市の復権という視点がよい。

 
 松江市の湖畔の音楽ホール計画。まじめで実直な設計でよくまとまっている。エントランスホールの曲面ガラスウォールが見せ場だが、中の階段の位置と傾斜、そして天井高さなど破たんなくまとめている。

(捕捉)
 他にも散見したが、円形プランはあまりおすすめできない。設計していて円が出た時点で自分は煮詰まっていないか確かめたほうがよかろう。
 図面で分かりにくかったのは敷地状況と建物との関連だ。とくに湖との関係が分かりにくかった。水上からのアクセスも考えてよいかも知れない。

 マチの巣
 大阪阿倍野を敷地とした、新旧の街を繋ぐ分散型の施設配置計画。集中型ではない新しい再開発手法の提案と言ってもよい。図面が無いのでどんな施設をどこに分散するのかよく分からなかった。中心的な少し大きな施設は、周辺の細々した町のスケールに合わせて低層でうまく納めている。安藤忠雄による帝塚山タワープラザを思い出した。

 
 神戸港に面した美術館計画。円形プランに真っ向から取り組んだ野心作だ。プランが外構の造園にまで及んでいておもしろい。バロック主義再来というところか。吹き抜けをうまく使って上下を視覚的に結ぶところ、円形プランにそぐわない部分が見当たらないところ、円形プランがそのまま立ち上がって外観を構成するところなどかなり設計ができる人だ。カフェの机やいすまで丸いのもおもしろい。

 モバイルハウス
 車のついた二畳ほどの小屋の実物大モデル。現代生活の余剰への反発がこの作品の動機らしい。これはなかなかおもしろい作品でふたつの意味にとれる。
 ひとつは最小限のプロテクターとしての建築ととらえるもの。それは突き詰めていくと衣服になるのだが、衣服と建築の境目にありうる形態は何かということを考えさせてくれる。
 もうひとつは被災時の緊急シェルターのモデルとも考えられることだ。余剰を廃した最小限のシェルターが成立するなら、生命の危機をも管理することができるだろう。おそらくそれはすでに形態だけの話ではなくなると思うが。

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2017年2月13日 (月)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2017.02.13)

< 全体として >

 最初に断っておくが、わたしはこれを下級生と常任の先生方に向けて書いている。ぜひ参考にしてほしい。

 過去分はこちら
2015年度 http://www.tukitanu.net/2016/02/20160213-3acd.html
2014年度 http://www.tukitanu.net/2015/02/post-ce7b.html
2013年度 http://www.tukitanu.net/2014/02/post-ce7b.html

 さて、私たちは1年担当なので3年ぶりの再会だ。この学年は1年のころから仲良しだった。講評会はほぼ飲み会なのだが、これほどワイワイ騒いだ学年は今までなかった。ノリの良いことは大事なことだ。とても楽しかった。ありがとう、そして卒業おめでとう。

 昨年に引き続き今回も完成度は高かった。昨年から実施している提出日を前倒しにして展覧会までに密度を上げる本多方式がうまくいっているのだろう。図面や模型がほぼ仕上がっているので見やすかった。いくつか感じたことがあるのでメモしておく。

 空想系が多いのが目立つ。わたしは空想系は増えてほしくない。なぜなら空想系はとかくプレゼンのテクニックが取りざたされて、その建築の中身を問うことがおろそかになりがちだからだ。かつて武田五一が学生にゴシック様式を禁じたのに似ている。ゴシックが悪いと言っているわけではない。当世流行もののコピーは、学生当人の建築の本筋から逸れやすいきらいがあるのを厭うのだ。

 夢のなかで建築を語るのが空想建築だとすれば、現実のなかで夢を語る現実設計の手法も悪くないと思っている。これまでの空想率は次のとおり。こうしてみると最近増えたわけではなく、最初からそれなりに多かったのが分かる。

[ 空想系率 ]
2016年度卆 33の内7 21%
2015年度卆 27の内8 29%
2014年度卆 17の内7 41%
2013年度卆 14の内4 28%

 今年は田園都市系が見当たらなかった。あれだけ流行っていたのにどこへ行ったのだろう。そのかわりインターナショナルスタイルが目立った。田園都市にしろインターナショナルスタイルにしろ、そこにどんな政治的メッセージが込められていたかを知って使っているのだろうか。

 フィリピンワークショップの白鳥研が良かった。現地での交流と苦労と笑いがよく伝わった。やっていることがおもしろいし、なにより楽しそうだ。言葉が通じなくても建築を通して子k路を通わせることができる。これは建築教育の本流ではないかと見ている途中で気がついた。遠いのでわたしは参加できないが応援したい。

 今年は円満字賞を8本も出した(去年は4本)。なお、賞に選んでいたが他の賞をもらった人や講評会に来れなかった人には商品を出していない。だから本当は13本ある。これくらいがちょうどいいかも知れない。

 展示はデザインも手際も格段に良くなっていて、吉川さんの考えた展示スタイルの種が稲地さんや川上さんの力添えで育っていると感じた。しかもこの学年は仲良しで知られているわけだから、さぞ楽しくやりとげたのだろうと推察する。講評会という名の打ち上げ宴会は途中から学生が進行してくれた。こういうのは初めてだったが良いものだ。友達は一生ものだ。大切にしてほしい。


< 個別に > 順番は見た順、★が円満字賞、二つ目の星は個人的な好み

帰りゆく場(空想系)
 東寺門前の街のなかに空海記念館を計画。ふたつの敷地を地下道でつなぐ。最初の敷地は散りばめられた光の破片がふりそそぐ密教的荘厳をよく表現していた。地下道という眠りを超えて次の敷地の瞑想場へ至る構成もよくできていた。繊細なイメージをまとめるねばり強い構想力がある。

東近江市新菜の花プロジェクト
 菜の花畑の循環型農業計画。こういうのはこの学科初めてではなかろうか。その地域の菜の花栽培のフィールドワークが緻密で楽しい。菜の花は連作障害のため3年に1度がよいそうだ。幕末に大坂の大和川付け替えで生まれた広大な農地がほとんど木綿と菜の花になったことを思い起こす。歴史的風景の再現が地場産業新興のレベルからコミュニティ再生につながる視点を内包していて楽しい計画だ。

返り咲くSacay(空想系)
旧堺港を取り巻く芸術と工芸のための施設。茶、刃物、和さらし、三味線など堺の歴史的特性がテーマだ。既存高速道路にまとわりつくような不定形なガラス張りのギャラリーが出色だった。杉山先生はここを敷地に選んだ慧眼を褒めていた。

誠の外に建築なし(空想系)
 俳人・上島鬼貫の記念館を生地である兵庫県伊丹市に作る計画。現敷地にある銀行支店も含めるなど小規模再開発の手法をとっている。大枠のカゴのなかに別構造の床や空中歩廊を内包するポンピドゥーセンター風の外観だ。格子状の壁面やガタガタしたガラスウォールなどさまざまなデザインが集まっている。そのひとつひとつが鬼貫の俳句が元になっている。今風の小規模再開発かと思っていたがそうではなく、文学の建築化という空想系の王道だった。おもしろいしよくできている。

学びの街
近鉄奈良駅から奈良町への観光客を誘導する回廊をデザインした。町の空地に藤棚が散在し、旅行者のための施設となっている。それをたどることでタウンツーリズムを楽しむことができるという仕掛けだ。分散と回遊を通して地域特性を明らかにしていくという考え方がおもしろい。

三木総合防災公園の利用促進
 宿泊、防災教育、運動の複合施設の計画。溜池に面した細長い傾斜地が敷地だ。バリバリのインターナショナルスタイルだった。それがそこそこよくできていて設計力が高いことがよく分かる。

家物語(空想系)
 1975年築の民家を今後60年にわたり使い続けるシミュレーションモデル。2世帯で考えており、使わない部分はストラクチャーをむき出しにしておいて世帯をわける干渉地とする。この作品は現実的なシミュレーションではなく、都市をスクラップアンドビルドすることなく更新していくとどうなるかというイメージモデルだ。都市更新のイメージのひとつとして意義がある。

未来につながる建築(空想系?)
 生駒山上の美術館構想。仮面のようなシェル構造のなかに空中歩廊が内臓されている。空想建築なのかどうかわからないので評価に困った。もう少し「言葉」で説明してもらえると分かったかも知れない。現実設計として見るなら、柔らかいシェルと時計細工のような空中歩廊のとりあわせはうまい。尖りつつもデリケートな作品であり間違いなく設計力は高い。でもやっぱり空想系のような気がする。

パーキングエリアでの休息の在り方(空想系?)
 レストラン、物販、トイレ、情報などの既存PA機能に、大浴場や仮眠スペースを大胆に取り入れた計画。内容が現実的でありながら人工地盤で覆うという空想建築の手法を使ったのはなぜだろう。この計画の秀逸なところは地域特性を「星空」「自然の音環境」「霧」と的確に選び出したところにある。現実路線でいくなら、たとえば森林のなかの空中歩廊のような軽やかなものになるのではないか。

※ 注意点 以前から言っているが、草案段階で地に潜ったり円形プランが出たりするのは行き詰っている証拠だ。ユングを読めば地下と円プランは考え過ぎた時に出てくる図像なのだということがよく分かる。重々注意したほうがよい。

★★長田区の近未来
 衰退する地域の再生を旧参道を軸として考えたところがポイントが高い。街路と水路はその地域の骨格であり、町のアイデンティティを残したまま再生するなら街路と水路の復活が妥当で手っ取り早い。旧参道のまわりに諸施設を散在させる。その施設が「穴場の駄菓子屋」「交流の風呂場」など「ああ分かるそれ」というしかないほど的確だ。既存の町中に物語を仕込む才能がある。こういう人が町づくりをすれば住民も楽しいと思うし成果も上がるだろう。今年度でもっとも楽しい計画案ふたつのうちのひとつだ。

国際交流を促進できる宿泊型シェアハウスの設計提案
 タイトルが長い上にあまりうまくない。インターナショナルスタイルなのが気になるが、変則三角形敷地に宿泊棟を二棟並べてそのあいだに共用部分を配置する平面計画から手堅い設計力が備わっていることが分かる。フリーな青物市場が中央にあって、そこで国際と地域との二重の交流が行われる食文化コミュニティマーケットが本来の構想ではなかったか。

山の中の建築(空想建築)
 地底美術館計画。バリバリのインターナショナルスタイルでよくできている。このまま外観を与えて湖上に浮かべても違和感ない。せっかく設計力があるのになぜ地にもぐるのか。わざわざ空想建築にする必要はなかったのではないかと思う。

《寝る》をつくり出す
 タイトルが悪い。これは難民救難もしくは被災地支援のための装備開発の計画だ。建築は究極的にこうした人体のプロテクターに還元されるというのは、環境工学とデザインの融合をうたう住環境学科ならではの発想だと言える。ワークショップアーチストの吉川さんがこれに賞を出したのもおもしろい。分かる人には分かるのだ。

遍路の道
 善通寺門前の巡礼者のための施設計画。お接待文化に温泉を融合させている。3階建の施設に多用途をまとめる確かな設計力をもっている。この計画に関しては二棟を大屋根でひとつにまとめるよりも、ふたつを5つくらいに細分化して街の既存建物のスケールになじませる方法もあったと思う。全体に部分を組み込む力があるので、今度は部分をつなげて全体を構成する設計にも挑戦してみてはいかがか。

五感で感じる商店街(空想建築)
 大坂の文の里商店街が敷地。肉屋だけを残して他を更地とし、そこに牧場や屠殺場を再現する。流通の向こうで見えない現実を可視化する計画だ。なにげない現実のなかに突如現れた非現実のなかにこそ本当の現実が見えるというアイロニーだ。おもしろい着眼を持っている。アイロニーに終わらせるのは惜しい作品だ。たとえば商店街は今のままあって、肉屋だけが肉屋劇場になっていて、そこで夜な夜な肉屋劇が行われるとか。それが宮沢賢治の熊祭りのようなものであるとか。そんな文学的な何かが加わればもっとよくなったと思う。

団地×美術(空想建築)
 これは賞を出すかどうか迷った。地底美術館さえなければ間違いなく賞を出した。出色なのは既存団地を増築してエレベータを新設する手法だ。ああなるほど、この手があったかと眼からウロコだった。既存団地は上に足すとか横に足すとか、まだまだいろんな手法を試すことができる。その増築した部分に美術館だろうがケアハスだろうがなんでも付加できたのではないか。

未来への道しるべ
 津波の避難所を兼ねた宿泊施設の計画。宿泊者がいるなら地域住民の避難所に使えないだろうと思ったが、実際は被災地域の民間宿泊施設はすべて避難施設として設定されているので問題はない。棚田を活かした集落計画となっていておもしろい。調理場と浴場が中心になっているのは被災地や難民キャンプをよく見ている。

注意点 自然なかたちの等高線上にいきなり四角い施設を配置するのは違和感がある。そのギャップを見せたいのなら構わないが、そうでなければ等高線を多少造成するか施設を浮かせて等高線との縁を切れるなどひと手間ほしい。

観光の帯
 市民ガイドとタウンツーリズムの融合した地域再生計画。運河沿いのカフェ、工芸体験所などを配す。敷地が広すぎた感あり。おもしろいのは縁側やウッドデッキといった中間領域の設計力があること。学生でこれだけできれば立派だ。空想建築とは別の夢のある設計だと思う。

★★
 最初から賞を出そうと思っていた。この学年でもっとも構想力があると思う。おそらく非常勤の先生がたがもっと出席していれば私が賞を出すまでもなかったろう。玄人受けする実力がある。自信をもってほしい。
 広島の既存の豪華客船桟橋のリデザインで広島観光の拠点として路面電車の停留所や小規模観光船の発着場などを取り込んだ計画だ。伸びやかな大屋根の下に空中歩廊とデッキを納めたものだが、コアの置き方、吹き抜けの取り方などがよく考えられていて見ていて楽しい。総ガラス張りの壁面から見える日常的な風景や、そこへガラガラと入ってくる路面電車など、建築的な楽しさにあふれている。建築を「内側」から構想できる力はただものではない。

★★知識の伝承
 まちのなかのインスタレーション6連作。京都府の宇治田原を敷地に選ぶ。茶どころの農村を6つの地域に分け、それぞれのキーワードに基づいた小スペースを考えた。地域特性をキーワードに変換するのがうまい。さらに、それを難なく形に再変換する力が尋常ではない。見た目のほんわかした雰囲気に騙されそうだが、これはけっこう危ないほど切れる設計者だ。今回楽しかった計画ふたつの内のひとつである。

人を繋ぐ土間
 これはぜひ私が評価したかったので円満字賞発表のラストに選んでおいた。今後、木造が再評価される時代が来るだろう。それに応えてくれる作品は少ない。作品は京都府亀岡に学童保育と地域カフェを組み合わせたもので、細長い城下町敷地にほぼ町家プランを踏襲した平面を計画した。吹き抜け土間が気持ちよい。見ただけで軸組図がわたしには描けるし、地元の棟梁なら意気に感じて土間に見事な架構を組んでくれるだろう。そんな現場が想像できる楽しさがこの作品にある。本多先生も褒めていた。

学びの商店街
 大阪府の花園のコミュニティ再生がテーマだ。空想建築風の形に目が行きがちだが、それはこの作品においてさほど意味はない。この作品の評価すべき点は地域コミュニティ再生のために商店街と小学校を融合させたところにある。60年代のアメリカでは都市荒廃のなかで孤立する言葉の不自由な移民を救うプログラムが教育と医療の分野で始まった。この作品は当時のアメリカの教育NPOの活動と重なる。地域を読み込みそこへ必要な施設なり施策を重ね合わせる確かな構想力がある。

観光地を結ぶ宿泊施設
 近江八幡のロープ―ウエイ下に露天風呂と美術館を併設した宿泊施設の計画。斜面なので斜行エレベータが上下する。上施設が円形プランを用いながら破たんなくまとめていることから設計力があるのは間違いない。本人から説明してもらえればもっとよく分かったかも知れない。

★★「まち」の共有
 大阪府茨木市のコミュニティ再生計画。ひとつの輪になる4つの商店街に空中歩廊を巡らせて空き家2階の再利用を促進するというアイデア。4つの地域特性に応じた広場と高楼を計画する。地域特性の抽出が「保育」「学び」「森」「住居」とバラエティに富む。30年後、60年後には地域特性に応じた個性的な町に変化するだろうという長期的な見通しを持つのがこの作品のもっとも大きな特徴だ。そのために建築家の仕事はあくまで控えめで地域住民の創意工夫の余地を最大限に確保している。その潔さが好ましい。
 本多先生が塔は我が町を俯瞰する第2の視座を住民に与えるものだと仰っていた。なるほど。

割竹による構造体の研究開発(フィリピンワークショップ)
 被災者のシェルターを現地の素材で作ろうというもの。竹を饅頭型に組んでビニルシートを被せるもの。おもしろいのは、シートと工具を揃えて袋に入れたセット。これを現地へ送れば被災者自身が組み立てることができる。その考え方そのものが作品である。

バンタヤン島におけるEarth Ovenの開発研究(フィリピンワークショップ)
 現地の素材でピザ窯のような薪オーブンを作るもの。ココナツヤシの外皮繊維を粘土の補強ネットに使っている。これも現地住民自らが作ることを前提にしている。地元の素材を使うのは建築の王道だと思った。

漁村グイワノンコミュニティの生業活性化提案(フィリピンワークショップ)
 移動用フロ。ドラム缶が手に入らないので、木材とビニルシートで作っている。観光用でもあるし被災時用でもある。お湯は別に沸かす。調理や入浴といった暮らしの一部分を実際に作ってみるというのがおもしろい。

竹を使った新たな打楽器「BANBO」の開発研究(フィリピンワークショップ)
 なかなかよい音が出る。トリニダードトバコのドラム缶楽器スティールパンを思い出した。スティールパンは今では多くの観光客を集める一大音楽祭に発展している。フィリピンワークショップが暮らしの一部として音楽にまで触手を伸ばしているのがすごい。

持続可能な生業に向けての改善提案(フィリピンワークショップ)
 地域フェスティバルに参加する子供たちの頭飾りを貝殻で作る。もともと土産物として地元で作り始めていたものを、製作工程の安全化や合理化を進めた。貝殻をビーズのように使って編むのだが、海洋民族の漁網文化の片鱗がうかがえて興味深い。なによりそれをかぶった子供たちの誇らしげな笑顔がまぶしい。

自然素材を用いた室内温度上昇を軽減する屋根塗布材の開発(フィリピンワークショップ)
 石灰にホタテ貝を粉末を混ぜてトタン屋根に塗り込んでいる。下地としてシュロのような縄をトタンの波型に這わせている。波型が埋まるほどの塗り厚で5度は温度が下がると言うから驚きだ。これはわたしも使いたい。

発電機能を備えた建具のデザイン開発(フィリピンワークショップ)
 被災時の仮設住宅の窓に取り付ける雨戸なのだが、風車になっていて日中はクルクル回して発電する。電球ひとつが十分に点くほどの発電量がある。風の谷のナウシカを思い出した。発電機は扇風機のモーターを再利用している。このモーターなら現地で比較的安価に手に入るそうだ。そういうことを現地で調べているというところもおもしろい。

持続可能なコミュニティシェルター(フィリピンワークショップ)
 木材を組んだ被災時の仮設住宅。その2分の1モデルが会場に据えられていた。壁は割り竹を並べている。東アジアには竹やシュロで編む壁の文化があるが、それをイメージしているそうだ。昨年もこれに似たシェルターは出ていたが、年を追うごとに民家風になっていくのがおもしろい。

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2016年3月 5日 (土)

2015年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ

 2時間ほどで見せてもらった(これを書くのに5時間かかった)。参加者が少なかったのが残念だったが1年生も来てくれたのがうれしかった。この講評会は1年生こそ聞いてほしいと願っている。今回もどれも悩みのたうちまわっているさまが感じられる作品がそろった。これほど真剣な作品を集中的に見ることができるのは卒計展のだいご味だ。その悩んだ時間がこれからの糧となるだろう。よいものを見せてもらった、ありがとう。そして卒業おめでとう。

<全体として>
 さて今回感じたことが3つある。

 まず配置図が揃っていないこと。平面図、立面図、断面図が揃うのは当然だが、配置図はそれよりも大事だということを知ってほしい。今回円満字賞を出した「木屋町の集合学校」などは配置図だけで受賞したようなものだ。敷地選びで卆計の半分は終わっているとよく言われるが、それも配置図の重要性と関係している。近年増加傾向の空想系建築計画であっても配置図が重要であること言うまでもない。敷地のない建築は無いからだ。

 二つ目は田園都市系が増えたこと。なぜこんなに増えたのか理解できないが、中世主義的な田園都市と自然回帰の傾向はしばらく続くだろう。ならばラスキンやモリスからソビエト連邦のコルホーズまでの流れをざっとでいいから押さえておいてほしい。血であがなわれた20世紀社会主義の夢と敗退の歴史を知らずして田園都市を語るなかれ。

 三つめは風水系があったこと。ぜひ私に風水の話をさせてほしかった。そもそも伝統建築は風水で理論化されているのだから、風水を知らずして和風建築を語るなかれだ。なぜ今年度突然これが出てきたのか不思議だが私は大歓迎である。
 
 最後に1年生向けのアドバイスをふたつほど。ひとつはドローイング力が無いなら空想建築系は選ばないこと。どうしてもやりたいなら3か月ほどの特訓が必要だろう。二つ目は問いを立ててから答えを探すようでは間に合わないこと。問いを立てたときに施設全体のイメージができていないとだめだ。逆に言えば、答えを用意してから問いを考えたほうがよい。卆計はこれまでの課題と違って問いを自分で立てるのが特徴だ。問いを立てる力を試されているとも言える。だからと言って答えが見つからないとお話しにならない。このあたり戦略的によく考えてほしい。

<個別に>
「水みるミュージアム」
 斜面に埋め込まれた半地下の展示室に2層吹き抜けで天井の水の張られたトップライトから光が舞い降りる。金沢の21世紀美術館を思い出した。おもしろいのはカフェを覆った半ドームを水が流れ落ちていること。地下型の落水荘というわけだ。棚田が付属しているのもよい。
「minority-majority」
 8戸の集合住宅と保育園で構成された性的マイノリティのための子育て施設。図面が7色であることや保育所が弓型なのは性的マイノリティ解放運動のレインボーフラッグをモチーフとしているからでよく考えられている。住宅が中庭を囲む配置となることは中世主義的なコミュニティを思わせるが、それと性的マイノリティ解放との関係が分かりにくい。施設が住居と保育園だけで良いのか、それらの動線がただの散策路で良いのか。そのあたりが深まればさらに良くなると思う。
「菊猿投山陶芸学校」★
 猿投焼きの故地に全寮制の陶芸学校をつくる計画。これも中世主義的なコミュニティ観だろう。おもしろいのは入学時に与えられる個室。茶筒のような形で畳が2枚敷かれている。窓はなく移動式だ。ワンフロア―がこの移動個室のスペースに当てられていて、そこを自由に移動することができる。この発想はとてつもなくおもしろい。上田篤のツボグルマを思い出した(「くるまは弱者のもの」中央新書)。
 この茶筒は本当は登り窯で使う立ち匣(タチザヤ)なのだろう。窯の中で作品を入れて積み重ねる容器だ。学生自身が焼き物になぞらえられているわけだ。学校全体のデザインも登り窯を模しているようだ。さまざまなモチーフをひとつにまとめる構想力はすばらしい。
「御神島、不老不死の伝説」★
 精神再生のための宿泊型道場。東海に浮かぶ蓬莱島の建築化だ。船を降り丘の上からエレベータで30メートルほど降りる。そこに地底の池があり入島者はそこで古い自分を捨てる。そして大極図を模した斎場で自分の葬式をするのだ。このストーリー感がたまらなく良い。夢のような話かと思えばそうではなく、各施設のディテールが伝統木構造でできていて結構おもしろい。構想力、設計力、表現力の3拍子揃っていた。
「自己と自然を見つめ直す」
 自然を五輪(地水火風空)に分けて、それぞれをインスタレーション化した作品。地は四角いはずだとか突っ込みどころはあるがおもしろかった。一番良かったのは「空」だ。壁で囲まれた四角い小広場のまんなかを塞ぐように壁が立っている。四周の壁際のアルコーブに座れば視線は中央の壁にさえぎられて見えるのは四角い空ばかり。これはとてもよい。そこに座ってみたくなった。
「京都演劇ホール」
 至極まじめなホール設計。配置図と立面は未完成だが総じてよく描けている。よく勉強していることが伝わってくる。ここまで描ければ大したものだ。配置図はロケーションの読み方、立面はイメージの立て方を覚えれば難なくできるようになるだろう。
「地方を存続させる大学都市」
 空洞化した地方都市に農大施設を散開させて都市再生をはかる計画。構想がとてもおもしろい。不思議なのは形態がインターナショナルスタイルだったこと。もっと地域色を出せばさらに良くなる作品だと思う。
「裁きの光と空間」
 五稜郭のようなコペンハーゲンの城郭に裁判所を打ち立てる計画。大法廷はアウトスケールな吹き抜けの垂直線を強調した壁面にトップライトから光が射しこむ。この作品は具体的な計画案ではなく空想建築系なのだろう。いたずらにインターナショナルスタイルであることが気になったが、全体によく描けていた。
「Elderly Happy Town」
 高齢化対応のニュータウン計画。形態がレッチワースの田園都市そのものだ。ドールハウスのような室内模型がおもしろかった。全体計画から戸建て住宅のディテールまで目を配った完成度の高さは今回展覧会の一番だった。
「人々が集う市役所」
 円型コートが鎖状に展開する構成がおもしろい。わたしは卒計で円を使うべきでないというのが持論だが、これは円をよく使いこなしている。建物も円型にすればさらによくなるだろう。
「陰陽」★
 斎場と助産所を陰陽に配置した計画。よくできた空想建築系である。陰陽が東西さかさまなのはなぜか、そんな突っ込みもあるがよくできていることに変わりない。斎場と助産所が巴型なのだが、この平面計画に破たんがない。不定形なプランニングは相当に力が無いとできないものだが、それを難なくこなしているのがすごい。
「のうえんホテル」
 農業体験型宿泊施設の計画。このテーマの施設を市街地に作る意義が分かりにくいのが難点だ。良かったのは1階ピロティがほとんど池であること。農業関係のテーマなしでも、このまま成立する計画案だと思う。もうちょっとピロティの天井高さを上げて吹き抜けとタテ動線をからめればさらによくなる作品だ。
「やすらぎの湯子」
 山間の湯治場計画。谷底の地形にそった建物の配置が旅情を誘う。防災上どうかという突っ込みどころはあるが、それ以上に湯煙ただよう風景の再現に成功している。こうした自然発生的な計画は難しいのだがよくやった。
「山科エキウエ保育園」
 駅上に人工地盤を造り、その上に木造園舎を並べた保育所計画。電車好きのこどもたちのためにあるような計画だ。マッシブな人工地盤とそのうえの細々とした保育園の造形の対比がおもしろい。地盤が多層でそのあいだからこぼれるような木造建築群のイメージが湧いた。
「尼崎に浮かぶ交流と団欒の島」
 海釣り公園計画。外見はサンフランシスコのヨットハーバーのよう。宿泊施設があり夜釣りも楽しめる。調理室もあり釣った魚を料理できる。そんな夢のような計画だ。これを大きくしていくと水上都市になるだろう。とても楽しい作品だ。
「ぶらぶらホース」
 宿泊型の乗馬クラブ計画。まだ未完成なのだと思う。厩舎と支援施設が2棟、それと馬場がある。できれば屋内乗馬施設、放牧場、サイロも欲しい。そして、そうした部分をつなぐ回廊のようなものが備われば完成するだろう。
「ここから京都」
 北野白梅町の観光案内所計画。これも未完成だと思う。最初は白梅町駅がテーマだったと聞いたが、それをもう少し押して良かったように思う。案内する内容を考えれば施設の中身もおのずと決まる。京都の料理、京都の歴史、京都の産業、そんなものをテーマにしたカフェ、本屋、ショップ、ギャラリーなどの複合施設。駅舎が小さな都市になる、そんな計画もあったのではないか。
「つむぐ」★
 幼稚園とディケアセンターの複合施設。小さな単位が集落のように配置されたようすが美しい。よく見ると中庭と遊戯室が中心になって、そこからウッドデッキが各施設を結んでいる。とてもたくみな計画である。ひとつひとつの片流れ屋根もきれいだ。坂倉事務所太田隆信の大阪府青少年野外活動センターを思い出した。円満字賞を贈る。
「深泥池、人間・自然研究所」
 天然記念物の深泥池を見下ろす斜面に三角形平面の小単位を散在させた計画。散在させる計画がおもしろい。単位が三角形なのは地面を乱さないために柱の数を減らした工夫だそうだ。能衣装で三角形の連続は鬼神を表す。ここ深泥池は幽霊で名高いからその連想から三角形になったかと思ったらそんなことはないらしい。
「親子に味方の保育園」
 京都市中央図書館のとなりの保育園計画。静逸な環境を望む病院と図書館の間に保育園はどうかという突っ込みはあるが、計画そのものは気持ちよいほどよくできていた。エントランスに入ってから初めて見える中庭。中庭、プレイルーム、園庭と自然につながる平面計画。既存図書館の施設利用などどれもよく考えられていて、それが形態として破たん無くまとめられている。この計画力は今回展覧会で一番だ。講評会にいれば円満字賞を贈った。
「我が城」
 工場の事務所棟として江戸城を模した木造天守閣を建てる計画。天守閣の軸組模型が圧巻だった。今回展覧会で一番よい模型だ。わたしは城郭そのものの計画を考えたてみたいと最近思っているので、これはとてもおもしろかった。私は天守閣から始まって大手門と絡めて門、御殿と庭園、二ノ丸から三の丸までの城割り全体の計画をしてみたい。できれば海城がいい。
「森の秘密基地」★
 森の中のこどもための施設計画。図面がカラフルで分かりやすい。この表現力は今回の展覧会で一番だ。講評会に来てくれていたら円満字賞を出しただろう。螺旋型プランで栄螺堂を洋風にしたような外観をしている。内観は木をふんだんに使った温かみのあるもので、外観は中世主義風でとてもよい。わたしはアスプロンドのストックホルム市立図書館を思い出した。講評会に来てくれていたら円満字賞を贈りたかった。
「高齢者施設」
 金沢21世紀美術館の近くに敷地に選んだ高サ住計画。芝生の人工地盤が傾斜しており、リハビリの場となっている。施設の共用部分を広めにとってあるあたり、よくできた計画だ。整形のガラスボックスが人工地盤から頭を出している対比が利いている。
「Gest House & Japanese School」
 山間部の外国人向け宿泊型日本語学校の計画。石垣に囲まれた民家風の施設が展開する集落風の設計がおもしろいし、よくできている。瀬戸内海の石垣の島・外泊の風景を思い出した。
「木屋町の集合学校」★
 今回の講評会でもっとも白熱した作品だった。町中の学校施設を散開させる計画は毎年あるが、これほどコンパクトにまとめた実力は評価されてよかろう。建物のデザインよりも、通りに面して不規則に並ぶ配置計画が圧巻だった。講評会であれほどいろんな意見が出たのはその図面の持つイメージアビリティが高かったからだ。円満字賞を贈る。
「琵琶湖図書館」★
 琵琶湖沿岸に小図書館を散開し、それを舟運でつなぐ計画。船を使うというアイデアにワクワクする。各施設はほとんど木造で、石山の六角形屋根や近江八幡の舟屋式などどれもおもしろい。もともと琵琶湖は堅田を中心とした水軍の国だった。それを現代によみがえらせるという途方も無く雄大でおもしろい計画だ。講評会に来てくれていたら文句なしに円満字賞を出した。
「梅小路スポーツ施設」
 京都の梅小路公園にスポーツ複合施設をつくる計画。回廊型の計画がよくできている。2層吹き抜けのピロティが入り口となっており、岡崎公園の京都会館を思い出した。回廊からの見え方のスケッチがたくさんあった。建築とは体育室やコートなどの部分をつないで全体を組み上げるものだ。ここでは回廊が「つなぐ」役割を果たしている。回廊を歩くことで風景がどんどん変わる。そのおもしろさに気づいていることがスケッチから分かった。よく考えられていると思う。
「斜面に建つホテル」
 ホテルを3棟に分けて山間部の斜面の上下に並べた計画。各棟が等高線に合わせて彎曲している。なによりおもしろいのは、3棟とつなぐ長大な階段だ。長谷寺の登廊を思い出した。長谷寺は登廊を通ることで山の風や見通しを楽しむことができる。このホテルのおもしろさはそこにある。
トリガイを育てるリゾートホテル」
 年6回養殖場を訪れてトリガイの世話をするためのホテル計画。養殖体験型宿泊施設というのは今まで無かったおもしろいアイデアだ。屋根を小割りにしてボリューム感を消そうとしているのは景観上の配慮なのだろう。宮津には吉村順三の文殊荘があるのだから、もう少し和風や木造を取り入れればもっとよくなる作品だ。
「町が育てる」
 京都に残る数少ない戦前校舎を使った畳工房と保育所の複合施設計画。畳をテーマにしたのは江戸時代の茶室コンプレックスである二条陣屋に隣接するからだろう。幼児の施設としても畳はふさわしかろうと思う。保育室の家具のモジュール化は戦前校舎設計の延長にあるのでおもしろいと思った。茶室の畳モジュールと家具モジュールの関係がもう少し分かればさらに説得力が増したろう。わたしは旧教業小学校の模型を見せてもらっただけで満足だった。

<1年生>
「水面に佇む美術館」
 池の中のギャラリー計画。雁行型プランをうまくこなしている。水面は照り返しがおもしろいから、そこをもっと押せばさらによくなる作品だ。
「日常の中の非日常」
 中が透けて見えるカラクリ箱のようなおもしろさがある。螺旋階段がウオーム歯車のように見える。狭い敷地の計画で普通は「1階>3階」か「3階>1階」なのだが、「3階>螺旋階段>1階」というアクロバティックな計画がおもしろ過ぎる。
「風景を切り取る小さな美術館」
 細長い敷地をさらに細長く3分割し、真ん中を吹き抜けのコートとした計画。安藤忠雄もかくやというほど思い切りがよくて小ぎみいい。いつのまにこんな構想力をつけたのだろう。よくできている。

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2016年2月13日 (土)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2016.02.13)

< 全体として >

 卒業おめでとう。私が見ていた1年生のこの学年は要領だけが良いような印象があった。可もなく不可もなくという物足りなさがあったが、卒計を見せてもらって十分悩み七転八倒したようすを見て成長したなぁと安心した。作品の出来の良し悪しよりも、わたしはどこまで悩んだかが大事だと思う。その経験は一生の糧になるだろう。

 例年に習って円満字賞を出したが、そのほかの作品もそれぞれ味があっておもしろかった。賞は下級生へ向けての私の個人的な考えの表明であって、決して作品の優劣を示したものではないことを断っておく。

 今回は例年になく完成度が高かった。これは12月にいったん完成させるという本田式が有効に働いたからだろう。例年、未完成のまま涙を飲むケースが多かったが、それが防げたのは大変よいことだと思う。

 今年の特徴はハワードの田園都市論に通じる作品が多かったことだ。流行っているのだろうか。作品に( )書きで示しておいた。本人はどう思っているのか知らないが、わたしにはそう見えるという勝手な添え書きを許してほしい。実を言えば私自身は田園都市論に否定的だ。人工的に都市を作るというのは不遜ではないかと思っている。だがレッチワースのような風景は大好きだ。今回は大好きな風景をたくさん見ることができてとても楽しかった。

 展示はとても見やすかった。全員で協力して展示を盛り立ててくれたことがよく分かった。わたしが見ているあいだにも一般の見学者が多かった。見せるということはとても大切なのだと思う。個別の感想は下に示した。論文系は講評する能力がわたしにはないので申し訳ない書いていない。許してほしい。


< 個別に >

★まちが育みまちが育つ教育空間(空想系)
 月をモチーフとした学校建築。隼人舞の残る京都府南部の大住を敷地とした。まず「月の廊下」などのネーミングのセンスが良い。タイトルや各部のネーミングはとても大事だ。「月の廊下」は天球上の月の道「白道」を象徴しているが、曲線で構成されたプランのなかで唯一直線なのもよくできている。空想系の卒系だが、学年ごとに付きと親しむ装置が仕組まれており現実と空想との折り合いがつける構想力を評価したい。円満字賞を贈る。

・つながりを生むゲストハウス
 神戸元町を舞台としたバックパッカー用の宿泊交流施設。3つの敷地にまたがりサイコロのようなユニットを積み重ねた特異なプランが特徴だ。ユニットが細々とした周辺地域の風景とよくなじんでいる。さらに各ユニットに大胆に天窓を開けることでボリューム感をうまく消している。プランには廊下がほとんどなく、効率よく機能を分担させている。なかなかのデザイン力だ。

・マルシェ団地
 高齢化した既存団地に市場を組み込むことで若い世代を呼び込むリノベーションプラン。外周デッキをめぐらせるのはコーポラティブハウス「花みずき」(1985)の前例がある。おもしろいのは階段式団地の画一的な間取りを3種に作り変えているところ。現状をよく観察した十分実現可能な提案だ。

・つるはしの暗示(空想系)
 ふたつの地域を地下でつないだ日韓ミュージアム計画。ドローイングの線が自分のものになっているので見ていて楽しい。模型を上から見ると穴が開いていておもしろい。普通、地下計画は断面が見せ場だが、俯瞰こそおもしろいという特異な世界観を創り出している。支石墓モチーフはよく分からなかったが、周辺の下町ともよくなじんでおり十分な構想力を感じた

・地域が集う学校(空想系、理想都市)
 差別撤廃を目的とした地域開放型の在日朝鮮人学校。校舎の背が低いのは丘の樹高に合わせたのだろう。レイアウトも地形に沿っており、レッチワースの田園都市を彷彿とさせる。計画内に水田が含まれているところを見逃してはならない。田園都市は中世主義的な社会主義世界を理想としていたが、このプランはその理想に手が届く計画だと言えよう。

・育み繋がり(空想系、理想都市)
 尾道を舞台としたアート系複合施設。3つのボックスを組み合わせ、その重なったところに2階井戸を再現している。2階井戸は斜面に展開した尾道特有の井戸だそうだ。また屋上を繋いだ歩廊など、立体的な町のおもしろさを新たに再現しようとした着眼がおもしろい。歩廊をつきぬける樹木は落水荘を思わせる。ライトの自然回帰的な理想都市の世界観に通じる作品だ。

・都市近郊のユートピア(理想都市)
 自然のなかの陶芸家の暮らしをモデルとした小都市。モリスの「ユートピアだより」を思い出した。今年はどうしてこんなに理想都市系が多いのだろう。螺旋階段の軸に各部屋のユニットが接続して一住戸をなす。動きのある造形がおもしろい。ガフのバーベンジャー邸(1950)を思い出した。ガフの自然回帰と同じ志を持ち、それを十分斟酌した作品だ。自然農法の実験的取り組みが行われている宇治市炭山という敷地選定も的確である。

★都市で暮らさない(空想系、理想都市)
 今回の卒計展のなかでもっとも心に残った作品だ。都会を逃れた数家族が住みついてから50年後までをたどる大シミュレーションだ。おもしろくてワクワクする。最初の住民が建築家・大工・居酒屋・ハンバーグ屋というのがおかしい。その次にやってくるのが車の整備工というのもおもしろい。次第に集落規模が大きくなり、最終的に向かいの島に古墳のような壮大な墓地をつくるところで終わる。シミュレーションとしては防災、衛生、教育などが抜けているが、そんな細かいことより発想そのものが楽しい。円満字賞を贈る。

★水路とともに
 八幡堀の一部を改造したホール計画。八幡堀スケッチがとてもよい。イメージスケッチも上出来で見ていて楽しい。自分の線で伸び伸び描く実力がある。水上の大きなホールとそれを取り巻く回廊の組み合わせが美しい。八幡山を背景としたロケーションともよく馴染んでおり卓抜した建築力を感じた。円満字賞を贈る。

・東大阪インダストリアルパーク(理想都市)
 既存の工場長屋をリノベーションした工房計画。中心の象徴的な鉄骨等がラピュタを思わせる。この計画は理想都市系の工房都市である。特筆すべきは中央のオープンスペースの透明感だ。明るく見通しの良いスペースが気持ち良い。理想都市系は共用部分の充実が欠かせないが、この計画はそこをしっかり押さえている。高度成長期の工場建築というまだほとんど誰も注目していない建物を使う目の付け所の良さも見逃せない。

・あるく街あるく高架下(空想系)
 鉄道高架下を舞台とした歩廊計画。ハルプリンを思い出した。既存の公園から人工地盤のゆるい傾斜路をつくり、その先に落水型の噴水を設けたところが圧巻だ。その上を京阪特急が走り抜ける風景はとてもワクワクする。この構想力は大切に育ててほしい。

★やぐらネットワーク
 祭りの山車「やぐら」のための施設計画。全やぐらの集合する広場と後継者養成のためのクラブハウス、やぐら収納庫の活用プランの3構成となっていて、そのどれもがおもしろい。広場には高床式のクラブハウスが林立しており、その下にやぐらが収まる風景が船宿を思わせて楽しい。クラブハウスの配置がやぐらの地域分布をなぞらえているところもおもしろい。やぐら収納庫の活用は既存部分をほとんど改造しないところも祭りに対するリスペクトを感じる。レンガ図書館や梅干しカフェなど地域性を反映させたアイデアも楽しい。円満字賞を贈る。

・竹バンド早期組み立てシェルター
 梱包用バンドを利用したバンブーハウスの組み立てシステム。誰でも使えそうな単純さがおもしろい。被災用とのことだが自然教育用にも使えると思う。

・木造耐力壁開発
 小型の実験装置。構造家棚橋諒が法隆寺の構造解析のために作った実験装置を思い出した。棚橋の孫弟子西澤英和は構造実験は装置を手作りするところから始まるとも言っていた。構造家魂が今に生きていることを見せてもらった。

・数学教具
 会場で作者とも話したが、わたしは個人的に多面体の不思議を考えている。正六面体の中に正4面体が入っていることを見つけたのは大学生のころだった。これは数学の問題で双体というそうだ。数学と建築との関係は深い。それを教具で実現できるのはおもしろい。

・焼き竹
 丸竹を中から焼くのがおもしろい。表側は滲み出た油で磨く。焼くことで防腐防虫効果が上がるそうだ。もともと竹は主要建材だったが工業化のなかで見捨てられてきた。その復活をめざすのは建築のありかたそのものを問うているように思う。

・学び舎からうみへ
 離島の水産学校計画。既存集落の形態調査を踏まえて小さなユニットを動線に沿って配置しており周辺とよくなじんでいる。オープンスペースに投げ網を模した象徴的な大屋根をかける。各施設がオープンスペースを緩やかな中心として結びつき、それが既存集落とも自然に繋がっていく秀逸な集落計画だ。

・狭くて広い(空想系)
 津波の避難場所としての人工地盤の上下に住戸が展開する。とくに林立する柱の間にぶらさがる地盤下の住戸がおもしろい。これはアフリカの懸崖都市や日本の投げ入れ堂を思い起こさせる。墨絵の桃源郷にもつらなる桃源郷のイメージではないのか。現実的な制約をはずしてもっと自由に考えさせたい。

・まちに入り込むキャンパス
 まちに開いた大学キャンパス計画。オックスフォードのようなキャンパスの田園都市化をねらっていると思うのだが平面図だけなのでよく分からなかった。

・遊びを通した教育装置
 撮影した人体のシルエットを動画出力し、手の開き方の関数を表示するという装置。投影型アートを思い出した。

・ヨリドコロ
 鞆の浦を舞台としたインスタレーション。五感別に構成されている。それぞれ考え抜かれておもしろかった。それらを統合する鞆の浦文化と言ったようなものが用意されればさらによく分かったと思う。その文化はおそらく海にまつわるものなのだろう。

・衣那に溶け込む空間
 過疎化する漁村への移住者のための研修施設計画。3か所に分散しており、それぞれが周辺とよく調和した良質な木造建築をめざしているのが分かる。再生のための種を埋め込むという考えはおもしろい。周辺環境のなかに施設を描き込んだ図があればもっとよく分かったと思う。

・わかめ
 ブランド化のためのパッケージデザイン。波打ったパッケージがよくできていた。話は変るが、私は昨今流行りのブランド化は百貨店に媚を売るようで賛成できない。産地の意地のようなものが表現できればいいなと思う。その点、波打ちパッケージは気取りがなくて分かりやすくて良いデザインだと思う。

・雨の建築(空想系)
 池の中の一本道、雨だれを流した数千のくさりが垂れる本館、そして森がある。敷地に選ばれた高槻城跡はこの作品の主題とは関係がない。私は白井晟一の原爆記念館に近い作品だと思う。

・野洲川を臨むパッシブハウス
 3Dソフトを使ったパッシブデザインの解析モデル。夏場に吹く風に向けて階段状に低くなる。扇形の平面をしており、野洲川の眺めを最大限に活かした作品となっている。私もパッシブデザインについては最近勉強を始めてたばかりだ。風の道は集落形成にも影響するのではないかと思っている。ぜひこれからも研究を進めてほしい。

・光と影
 小住宅の計画だが、本当は光と影が作り出すもうひとつの建築を設計しようとしている。いわば実態としての建物のなかに光と影によって本当の建築が浮かび上がるという仕組みだ。光のたまり場と名付けられた中央の螺旋階段が見せ場で、そこはさまざまな光と影の舞台となるだろう。小品ながら実直な設計に好感が持てる。

・地域共生プログラム
 丸太を使ったイスと梱包用バンドを使った可変家具のふたつを事例とした空間認識教育プログラムの提案。バンドを使った家具は本年最大のモデルでひとりでよくやったと思う。バンド家具はさまざまなバリエーションを考えることができてとてもおもしろい。

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2015年3月25日 (水)

京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ

 平成の京町家で京都建築専門学校の卒業設計展が開かれた。見せてもらってから半月たっているが来年のためにも感想をメモしておく。6日の午前中に3時間ほどかけて見せてもらった。午後の講評会でその場にいた方たちには感想を伝えた。円満字賞は講評会に参加してくれた方のなかから3つ出した。

 次々と作品が搬入されていたが、6日の午前中に無かった作品のコメントはないのであしからず。1年生の作品も混じっていたがそれもおもしろかったのでコメントに加えておいた(どれが1年生だったのか実はよく分かっていない)。

< 全体として >

 建築学校の卒業設計も様変わりしたと思う。昔なら認められなかったような建築論的作品が増えていてわたしは楽しかった。建築論的作品は完成が難しいので推奨はできないが、なにか今までとは違うものを創ってみたいと思う心情はよく分かる。最終的なプレゼンの方法をいかに早くつかむかが大事だろう。

 基本的な設計力が高いことにも驚いた。外観について全体イメージをもう少し明確にすればさらによくなったと思われる作品がいくつかあった全体イメージのつかみかたは人それぞれだが、わたしの場合は似た歴史的作品を参考にすることが多い。過去の作品をたくさん見ることが成長につながると思う。

 円形プランをわたしは推奨しない。行き詰まったときに円形プランが浮かび上がる心理的現象がある。出展された円形プランのすべてがそうだとは言わないが、円形にする必然性がない場合は自戒する必要があるだろう。

ちなみに過去の感想は次のとおり。
2013年度卒業設計展(参照
2009年度卒業設計展(参照

< 個別に >

「景色メインのリゾートホテル」
 琵琶湖を望む比良山頂に計画された小規模なホテルだ。赤い屋根が特徴的なヒュッテ(山小屋)と呼んだほうがよいだろう。琵琶湖に向かって弓なりに客室を並べたところや、レストラン用専用の入口を設けるなど工夫の跡が見られた。とくに敷地の段差を活かした設計には力がある。

「運動後の銭湯」
 大阪城近辺に計画されたスポール支援施設だ。タイトルにあるように風呂場やロッカー室、大阪城の見えるテラスとレストランがある。テラスからランニングコースやテニスコートへ下りる大階段があってデザインを特徴づけている。風呂場を2層吹き抜けの大浴場として建物のなかへ組み込んだあたりよくできていると思った。

「Play space」
 宝ヶ池のこども園に冒険のできる建物を計画した。プレイルームと図書館のふたつの円筒形の建物をホールでつなぎ、建物の周囲にはスロープ式の屋外通路がめぐらせていた。この作品は建築論的な試みだったとわたしは思う。こどもたちの秘密基地は日常風景をわくわくした魅力あるものに変えてくる。それは都市計画の原点でさえある。そんな不思議な魅力を再現しようとしたように見えた。

「一息プラネタリウム」
 これも建築論的な作品だと思った。四条通に面してドーム型のプラネタリウムカフェを設ける。ドームのまわりには杉が植えられていた。ルドゥの「ショーの製塩工場」を思わせる。ルドゥ建築の持つ独特の象徴性に通じるものが感じられて興味深かった。床をガラス張りにして完全球体のプラネタリウムにしても良かったなと思った。

「The accommodation of the rest」
 桂川河畔のバーベキュー広場と宿泊施設だ。馬蹄形の宿泊所プランはよくまとめられていた。おもしろかったのは、広場を囲んだ小さなロッジ群だ。わたしはこれはぜひ木造で作ってほしいと思った。円形古民家は四国のサトウキビの絞り小屋を見たが、とても魅力ある建物だった。小さな円形のものが円形に立ち並ぶ姿もおもしろい。サバンナの日干し煉瓦でできた集落にもこういうものがあるし、日本の竪穴式住居も円形に並んだ集落は多い。おそらく社会の形を建築化したときに円形集落になることが多いのだろう。そうしたことも考えさせてくれる楽しい設計だった。

「0-Dina cafe」
 賀茂大橋西詰に計画された犬カフェだ。パースが上手だと思った。テラスからは鴨川越しに大文字山が見える絶好のロケーションだ。卒業設計は敷地選びに成功すれば作品の半分はできていると思う。鴨川には犬を散歩させる人たちのゆるいコミュニティが存在する。犬は猫と違って人間の社会性と深く関わっているのだろう。そんなことも考えさせてくれる楽しい作品だった。

「和菓子屋カフェ輪菓子」
 宇治に建つカフェの計画だ。2階客席へあがる階段が露地風な造りになっていておもしろかった。木造であることも良かった。各室の展開図まで揃っていて驚いた。これだけ図面を描くのは大変だったろう。スケッチに独特の雰囲気があってとてもいいと思った。

「自分スタイルを見つけるカフェ」
 このひとも絵がうまい。ペンと水彩だろうか。いくつかの性格の違うコーナーがつながっていくプランだが、それをスケッチでよく描き分けていた。

「学習図書館」
 ハリストス正教会が中庭から見えるところがすばらしい。中2階にエントランスホールがあり広い階段をあがっていくのがおもしろい。円形の閲覧室があってアスプルンドのストックホルムの図書館を思わせる。円形プランはけっこう難しいのだが、うまく捌いて上質な設計となっていた。

「石炭記念館建て替え」
 宇部炭田のたて坑のシャフト塔が保存されて展望台になっているそうだ。それを再度リニューアルするという計画だ。歴史的建築物の保存に関わる作品は今回はこれだけだったが、なかなかよくできていた。タワーの形がおもしろいので資料館は別棟で建てる考えもあったかと思ったが、設計そのものはよくまとまっていたので良かった。古いものを再生するという精神がよい。

「子育ての学校」
 認定こども園の計画だ。木造でも良かったかと思ったがどうだろう。斜面に建てられており、段差の解消がたくみでなにげに設計がうまい人だと思った。設計をまとめるに当たって全体像を空想する力が加われば伸びる人だろう。

「○から△から□」
 今回見たなかでは一番おもしろかった。金沢の21世紀美術館が丸いので三角と四角の施設を続けて並べている。この作品のおもしろいところは、既存の美術館や博物館などの展示施設を回遊するコースを設定し、その中間に三角や四角平面の休憩所を設計したこと。建物自体を設計したというよりは、既存建物の「間」を設計したわけだ。これは建築にとってとても大事なことだが忘れられていることが多い。そこへ着目したことをもっとも評価したい。デザインも水を使うなど工夫されていて見ていて楽しかった。ちなみに風水では○は世界の最初の混沌を、△は天地人の世界の誕生を、□は世界が十分開かれて4つの季節がめぐることを象徴している。

「都市に生きる火葬」
 この作品もおおしろかった。船岡山に火葬場を作る計画で、木造の長い大屋根の下に参道をつくりその両脇に施設を並べた。建築論的な作品だがそれを見事に建築化しており、今回もっとも設計力を感じた作品だった。災害時に屋根を解体して火葬を続けるというダイナミックなアイデアもおもしろかった。わたしは木造の和小屋がとてもきれいなのでいいなと思った。

「歩み続ける意思」
 これは完全に建築論的な作品で具体的な形の提示は無かった。成長を続けるストゥーパをイメージしたのだそうだ。わたしはサグラダファミリアやPL塔を連想した。ある種の宗教施設として考えれば、また違った展開があったかも知れない。

「京都科学博物館」
 京都水族館に隣接して展示施設を設けるもの。円形ホールから各室へアプローチする計画になっている。バックヤードからの動線も確保されており、設計としてのレベルは高い。ホールのまんなかに大きな地球儀が回転しているのもおもしろいと思う。外観のイメージをもう少し明確にすればさらによくなる作品だと思った。

「社会復帰施設+道の駅」
 大津プリンスホテルに隣接して、障害者の作業所を計画した。農園のある修道院のようなたたずまいでおもしろいと思った。シンメトリーに計画されておりルドゥの新古典主義を思わせる。わたしはロマネスク風に左右非対称の中庭プランとする方法もあったかと思った。やはり外観イメージを明確にすればさらによくなる作品だと思う。

「琵琶湖福祉施設」
 堅田の湖畔の老人福祉施設だ。ホールを中心にロの字型の廊下をめぐらせ回遊型に居室を並べた。回遊型プランは痴呆症の徘徊にも対応し、また避難上も有効だ。なかなか難しいプランだがよくまとまっていたと思う。中央吹き抜けの食堂は天井からの採光なのだろうか。それもいいと思うが、半分中庭にしてテラスを設てもよかったかと思った。

「悪場所」
 今はなき五条楽園の地下に悪場所を設ける建築論的作品だ。悪場所とは賭場や遊郭のようなところだ。巣穴のような不定形なアンダーグランドが広がっていて、その出入り口が地上のところどころに開いている。ほこらの陰であったり墓地の亀甲墓であったりと、綿密なロケハンに基づいて計画されていることが分かる。日常と隣合わせで非日常のアングラが広がっているという構想力がすごい。唐十郎の「犬狼都市」を思い出した。

「老人学校」
 西陣大宮通りに敷地がある。図面がすべて揃っておりよく描いている。中庭がもう少し広がってそこへ縦動線をおく手もあったかと思った。やはり全体イメージがもう少し明確になればさらによくなる作品だと思う。

「海の中へようこそ」
 水中公園の計画だ。海のなかへ降りていく通路が出色だ。とても不思議な感じがするだろう。海中施設の最下層に到達し、そこから海面まで登っていく計画もおもしろい。海上へ出て潮風にあたったときどんな気持ちがするだろう。帰りはそこから連絡ボートでもよいかも知れない。なかなか素敵な建築論的な作品だと思う。構造的な制約から離れて海中の城のようなものを自由に想像してもよいのではないかと思った。

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2015年2月15日 (日)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ

 2期生の卒業設計展を見てきた。全部見るのに3時間かかったがどれも興味深かった。設計の分だけ感想をメモしておく。ちなみに昨年のメモはこちら(参照)。

< 全体として >

 今年の傾向はふたつある。ひとつは敷地の選択がとてもよいこと。鶴橋、曽根崎、加賀屋、香里園、正雀など都心からはずれた普通の町が多かった。そうした日常的な風景のなかに建築をはめ込むことによって、全く違う世界が見えてくる。そうしたワクワクした楽しさがあった。

 もうひとつは緑化や農地、農村を扱った作品が揃ったこと。これは環境学と建築学の融合という住環境デザイン学科の目的に沿うもので歓迎すべき傾向だ。緑化という工学的なテーマを具体的な都市や集落のデザインとして提示してくれると思いもよらない風景が現れる。見ごたえのあるものが多かった。

 卒計は自分で課題を出して自分で回答する自作自演だ。課題が難し過ぎると回答が覚束ないし簡単すぎると物足りない。だからこそ自分の力量を計るよい機会となる。わたしは課題を設定して回答を探すより、回答を用意してから課題を考えたほうがよいのではないかと思う。

 年末に見せてもらったときは間に合わないのではないかと危惧したが、それがほぼ形になっていたことに驚いた。実によく努力したと思う。この1ヶ月の体験はそれぞれにとってかけがいのないものとなるだろう。楽しい作品をみせてくれてありがとう。そして卒業おめでとう。


< 個別に >

「天井川景観創生プロジェクト」
 廃川となった草津川の一部を再利用する計画だ。断面模型やパースがとても分かりやすかった。川を挟んで旧市街と新市街に分かれており、それをこの施設がつなぐという街の読み筋も的確だ。土手をそのまま活かし、外見上ほとんど付加物がないところが良い。断面模型で示されたように土手は何層にも積み重ねられている。その地層の重なりはこの町の歴史そのものだ。付加物が少ないことは歴史的風景を尊重してそれを引き継ぐ覚悟がうかがえる。結びつけるものは新旧市街だけではなく新旧の歴史そのものだったのだろう。

「都会の中の懐かしい懐かしい田舎空間」
 大阪の都心にバラック建築のような街路を作る計画だ。細街路を立体化するというアクロバティックでワクワクする楽しさがある。この計画はハワードの田園都市論の延長にある。田園都市はまるごとひとつのニュータウンだったが、この計画のおもしろさは既存の都心部に雑草がはびこるように細街路がつながっていくところだ。ダウンスケーリングによる共同建て替え事業の設計モデルと捉えることもできよう。円満字賞を贈る。
「ふと気づけば図書空間」
 溜池を使った図書館計画だ。堤防側に図書館本体を建て、公園化された湖上に点在するパーゴラが閲覧室だ。本体は水引のように幾本かの筋を真ん中でギュッとつまんだ形をしている。この形は「結ぶ」ことを象徴しているだろう。湖上の島はいくつもの橋によってネット状につながる。これも「結ぶ」形だ。大きな本体を筋に分節して小さく見せ、湖上のパーゴラをネットでつないで大きく見せた。双方のスケールの違いを感じさせないよう上手くまとめ、その上で人と人とを「結ぶ」建築を表現した構想力を評価したい。

「まちの空間、まちの記憶」
 造船所の去った元造船町がテーマだ。廃墟となった造船所に静止立体画像のようにかつての造船工と船とが現れる。町の一角は日常風景のまま凍結保存される。さまざまな記憶はコンテナに詰められてドックにストックされる。生きているのは年老いた造船工の小さなアトリエだけだ。この計画案には壮絶な喪失感がただよっていて私はどう評価したものか思い悩んだ。すでに各地で始まっている地域消失は生半可な再生策で押しとどめようがない。喪失感が切実であるほど成す術もなく立ち尽くしてしまうのかも知れない。その喪失感そのものを作品化したように私には見えた。街を考える上でこうした感性は大切だと思う。

「愛」
 海上結婚式場の計画だ。円形式場の天井が動き自然に合わせて外光を変化させる工夫がおもしろい。式場に至る通路や小部屋も光の入れ方をさまざまに考えている。わたしは白井晟一の原爆堂計画案を思い出した。「祈り」の建築化は建築の原点だ。そのことに気づいているものは少ない。プレゼンが全部揃えばさらによくなる作品だと思う。

「SUBTLE POROJECT」
 立体を積み上げて陰影を楽しむ装置だ。立体の各面の陰影が光線の当たり具合によって変わる。それが見る位置によって微妙に変化するのがおもしろい。わたしは光や陰を愛でる細やかな感性に驚き、同時に谷崎潤一郎の「陰影礼賛」を思い出した。陰影が文化の深みを作るという谷崎の言説を我々はもっと真剣に考えたほうがよいだろう。小さな作品だが提議していることは大きい。

「ひっそりとした図書館」
 図書館の庭園化がテーマに見える。本体を春夏秋冬の4棟に分けそれぞれを清水の舞台のように斜面に張り出させている。ほかに小さな読書室やパーゴラが星座のように散在しまるで天球図を見るようだ。山奥の密教寺院は建物配置がマンダラを表現しているが、それと似た操作をこの作品は行っている。大きなテーマを抱えながら、これ見よがしなところがなくあっさりとまとめた手腕を評価したい。

「独立起業を志す若者のためのシェアエリア」
 人工地盤の上に卵型のシェルターが散在する計画だ。作品が大きな蜘蛛の巣もしくはカイコのマユのように見えるのは「孵化」をイメージしたからだろう。この場合の人工地盤は現実から浮き上がった非現実世界の象徴にも見える。孵化を前にした静かだが緊張感のある作品に仕上がったと思う。

「道へと続くスポーツ施設」
 正方形平面の体育館とサーキットのような歩廊と組み合わせが美しい。ランニングコースである歩廊は敷地を超えて町のなかへ伸びていく。その先の普通の街路もコースの一部に組み込まれる。この作品には走ることを通して町を再構築しようとするおもしろさがある。元来街路は人が走ったり練り歩いたりできるものだった。都市祭礼やカーニバルでは都市を再生させるために街路を走ったり踊ったりした。しかし現代では街路を自由に使うことはできない。この作品はそれを取り戻そうとする試みに見える。

「香里ケ丘バス停コミュニティネットワーク計画」
 ニュータウンのバス停をコミュニティ拠点に活用しようとする作品だ。カフェやギャラリー、自習スペースなどの小さな建築をバス路線がつなぐ。施設は魚、ビールジョッキ、サンドイッチなど直接的な形態模写が行われていている。ポストモダン建築を思わせておもしろい。ポストモダンには既成概念に対する反骨精神が底にあったが、ニュータウンという統制された都市にこうした造形が案外違和感が無く納まっているのがおもしろい。

「移住体験計画」
 道の駅とバンガロー的な分散宿舎を組み合わせた作品だ。全体のまとまりが弱いのは、道の駅という機能と移住体験の関係があいまいだからではないか。また住まいを既存集落に割り込ませたほうが体験的な施設になった気もする。それはさておき地形に合わせて低層のおだやかなデザインにまとめたところは良かった。地形と環境の読み筋は確かなものがあると感じた。

「都心×食育×地産地消」
 都心の野菜畑計画だ。畑は何層かの棚になっていて、それがロの字型のビルになっている。アーチを連ねたローマのコロッセウムのような外観が素敵だ。わたしはピラネージの空想建築を思い出した。植物に覆われる廃墟のイメージは「天空の城ラピュタ」がそうだったように文明の終焉を意味する。その終末的なイメージのなかに農業再生という真面目なテーマを仕組んだのがよい。大阪梅田の曽根崎小学校跡という戦後闇市の風景が今も活きる場所を敷地に選んだのも的確だ。円満字賞を贈る。

「都市の生態系ネットワークを育む」
 都心に大規模なビオトープを作る計画だ。河川の再生、高速道の緑化など手法ひとつひとつは目新しくないが、それを一気に集約してイメージ化すると圧倒的なおもしろさになることを示してくれた。出入橋の埋め立て運河を復活させるアイデアもよい。高速道が植物に侵食され、それが都市全体に蔓延するようすはゾクゾクするおもしろさがある。

「街中にセカンドルーム」
 京都は早くから管理組合運動の盛んな地域として知られてきた。共用部分として3団地共同の施設を作るこの計画もあながちありえない話ではない。施設内容を地域の祭りや防災などとからめれば別の展開もあったかも知れない。分散型のデザインは雑多なおもしろさがあり、トップダウン方式ではない住民自治の精神にもかなっているだろう。

「ツドイツナガル」
 大阪のコリアタウンの一角に交流のための施設を作る計画だ。多機能を分節して庭と建物とが交互に連なる見通しと風通しのよいデザインにまとめている。それをポシャギという色布のパッチワークが彩り楽しい計画になった。陽を透かした色布はさぞかし美しかろう。地道な現地調査の報告もよくまとまっており、きっちりと手順を踏んだ設計であることも評価できる。

「介護の分散×商店街=開放」
 下町の商店街に介護施設を分散配置した計画だ。大災害時に商店街が防災拠点となりうるのは、商店街組合がよく訓練された組織だからだ。それは都市の潜在力のひとつだ。その商店街が中核となり介護事業を再編することはさまざまな可能性を秘めているだろう。綿密な現地調査により商店街の連続立面を作りそこへ施設をはめ込み、さらにペーブメントとアーケードを夫している。地道な作業が結実して楽しい計画になった。

「Rhythm in Life」
 プレゼンが間に合わず全体像が分かりづらいのが惜しい。大阪鶴橋の高架下をうまく使った大型ライブハウス計画だ。鶴橋を計画地に選んだ目の付け所がよい。ここは韓国系食材市場や焼肉店が密集する下町だが、そこへ大きな建築を差し込むと息をのむ迫力が出る。建物本体のどてっぱらを環状線が走り抜けるのもおもしろい。おそらく建物の外装は昔の芝居小屋を彷彿とさせるものだろう。もし完成しておれば迷いなく円満字賞を贈っただろう。

「生きる集落」
 人工地盤を利用した集落修景計画だ。昨今東アジアで流行している風水建築の流れと見てよかろう。気の流れを復元し地域の再生を果たすという考え方は東アジアでは共通認識となりつつある。計画地の木造校舎の見事な石垣は土石流避けのように見える。地域の災害履歴を調べれば多少異なったデザインになったかも知れない。修景による集落再生の取り組みとして評価したい。

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2014年3月 5日 (水)

京都建築専門学校2013卒業設計展「つなぐ」

 京都駅前の住宅展示場の平成の京町家で開かれている卒計展を見てきた。1時間ほど見ていたが、いくつか感じたことがあるのでメモしておく。

 一番おもしろかったのは、森の中の図書館計画。等高線に配置され段々畑のように湾曲しながら重なる建築はとてもきれいだ。もうひとつおもしろかったのは、曲面で構成された工房村計画。波打つ壁は最近の流行のひとつで、流行にとらわれるとまとまらないことが多いのだが、この計画はそれをうまく使いこなしていた。階高の設定や吹き抜け部分のと階段の見え方など、よく考えられている。パースもうまいと思った。あと印象に残ったのは絵本仕立ての幼稚園計画書だ。こうしたプレゼンは貴重だと思う。

 図面の掲示枚数の制約から、平面図、立面図、断面図を揃って見ることのできない作品が多かった。図面は一般人には分かりにくいという者がいるが、わたしはそうは思わない。この3つを見せてもらえると、展覧会はもっと楽しくなると思う。ちなみに平面図の描き間違いが2ヶ所あったので学生に伝えておいた。

 摂南大学の卒計展の感想でも書いたが(参照)、円形プランは避けたほうが良い。それと、社会問題に深入りすると建築が形になる前に時間切れになる可能性が高い。このあたりは指導教員の考え方次第なので、必ずそうしろとは言わないが、わたしはそう思う。それは数年前にここの卒計展を見せてもらったときにも感じたことだ。

 「つなぐ」というテーマをそれぞれが考え込んでいることが伝わっておもしろかった。卒計は建築単体で考えてしまいがちだが、そこから町への広がりを感じさせる作品が多かったのは共通テーマのおかげだろう。テーマは卒計を考える始めるきっかけになるので良い取り組みだと思った。

 平成の京町家が会場であるのも良かった。少し薄暗いくらいが落ち着いて作品を見ることができる。この会場そのものが京都建築専門学校の作品だから、学校でどんな教育が行われているのかよく伝わった。この展覧会こそ学内の教育と町とを「つなぐ」ことに成功している。楽しい展覧会をありがとう。そして卒業おめでとう。

 

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2014年2月28日 (金)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ

 1期生の卒業設計展を見てきた。設計は14名ほどで、ひとりづつ見ていたら1時間半ほどかかった。どれも興味深かったので感想をメモしておく。


 < 個別に >

「オワリカタのススメ」
 うまいと思う。建て込んだ町中における小規模低層再開発の事例で、構造フレームから独立した間取りにより家族構成の変化に対応する。共有庭を中心にした住居計画は80年代コーポラティブハウスを思わせて興味深かった。建物の建っていない庭や細い通路こそ建築の魅力だし、それがつながって町になる。小さな計画だが町への広がりを感じさせてくれる作品だ。

「近所づきあいを取り戻す都市集住のかたち」
 細長い敷地選定がおもしろい。人口地盤の上の集合住宅計画で、構成はコルビュジェのユニテダビタシオンに似ている。1階の大アーチとその上の小さなブロックの組み合わせはデザイン処理が難しいが、大アーチで風を通すという考えが魅力的だ。夏の暑い日も風の通り道、たとえば町中の小河川沿いには自然と人が集まる。風の道がコミュニティ形成に一役買うことに着目した作品だと思う。

「新世代オフィスの集合知」
 模型がうまい。最近定着してきたコワーキングスペースの作例だ。コンクリートのフレームを使ったドミノ方式を採用している。これは指導側の問題だが、卒業設計で構造的な制約はあまり気にしなくて良いだろう。壁式のCプランのデザインが一番おもしろかった。それは構造的な制約から離れているからだろう。形態操作に手慣れていてデザイン力があると感じた作品だ。

「人と川のつながり」
 歴史を押さえているところがポイントが高い。防災上は海洋型地震のとき川沿いは決して避難に使わない。むしろ被災後の救助復旧拠点として、この計画は役立つだろう。しかし、この作品の見どころ防災ではなく、川を町の一部として使うという発想にある。元来大阪はベネツィアと同じ川に開いた町だった。中村鎮の水上公園計画(長谷川堯「都市廻廊」)を思い出してワクワクした。川沿いのコマコマした水上建物群がおもしろかった。

「時とともに歩む住居の一生」
 よく考えられている。中山間部再生をテーマとした集落計画だ。古民家には下屋を付けたりはずしたりして、家族構成の変化に対応できるシステムが備わっている。木造の良さは、社会的変化にもある程度追随できることだ。部屋をパネル化することで、間取りの変更や移築に対応する計画になっている。住民とともに住居の一部を移築できればすばらしいだろう。現代のパネル工法は量産使い捨てを前提にしているが、それを古民家システムに応用した逆転の発想がおもしろい。

「農業遊学」
 集落全体を学校にするという着想がおもしろい。ケンブリッジにせよオクスフォードにせよ、大学は修道院建築の延長であり、中庭と廻廊とでつながり合いながら広がって小さな都市となる。この作品の敷地に選ばれたような環濠集落は真宗寺院を中心とした宗教小都市だから、そのまま学校になることも可能だ。新しく作るというよりあるものを活かす、もしくは無くなっているものを再現するというちょっと難しいテーマだが、わたしはおもしろかった。

「人の流れを変えるLRT」
 最近注目されている都市交通、ライトレールの駅舎計画だ。市電の復活みたいなもので、実際にこうした取り組みが地方で始まっている。駅舎はわたしも大好きでいろいろ考えたり描いたりしているが、この作品は広場的なにぎわいと駅舎との複合を考えているように見える。湾曲したプラットフォームが素敵だ。そこから広場が見えればまるで宮沢賢治の銀河ステーションを思わせる。大阪の廃線駅を敷地に選んだほうが考えやすかったかも知れない。

「Stay Alive With」
 医療施設と高齢者用住宅との複合施設計画だと思う。円形プランはショーの製塩工場以来の古典主義的な形態で結構むつかしい。なぜ難しいのかと言えば、動線がたくさん作れないからだが、大型の病棟の動線は患者、看護、サービス、避難、汚物処理の5つになる。難しいけれどうまくまとまればとても美しい。病棟の花のようなプランがよくできていて美しいと思った。

「こどもと一緒にまちを考える」
 だんじり祭りをテーマにした施設計画。実際に祭りのある地域を選び、その歴史的な風景を調べている。町は祭りのときだけ別の顔になる。そのことをきちんと押さえていることのポイントは高い。さらに祭りはコミュニティー計画の要ともなる今後さらに重要となるテーマだ。原広司の一連の集落研究に通じるようにも思う。地域の歴史的な現状にきちんと向き合おうとする真摯な気持ちの伝わる作品だ。

「Omotenashi House」
 すきま建築の試みだ。神戸の南京町の路地や空き地に宇宙船のような建築がはさまっていておもしろい。この町には年中お祭りのような雰囲気がある。お祭りは非日常な幻覚が町に立ち現れる状況だが、それをうまく使った作品だ。見終わった後も頭から離れず、思い出しながらジワジワとおもしろくなってくる不思議な作品だ。円満字賞を贈る。

「日本とコリアのあいまいな境界」
 文字の建築化の試みでおもしろかった。たとえば「門」という象形文字はもともと建築の門を文字にしたものだし、神社の鳥居やしめ縄も文字の建築化なのではないかと思う。だから文字の建築化は十分可能だ。多少正確に言えば、建築には象形文字と同じような象徴機能があるということだろう。文字の建築化を通して、建築の象徴性の一端を明らかにしようとする結構大きなテーマだったと思う。

「景色をめぐり、命がめぐる森」
 森のなかの村の計画だが、集落計画よりもスケールの大きな地域環境と関わりが深いと感じた。それは取り扱っている森の風景が都市のバックヤードである里山に見えるからだ。里山のうるわしい風景は現在荒れ放題だ。その再生のための計画と考えても良いだろう。再生されるのは、地域の風景であり、都市であり、集落であり、そしてそこに住まう人間だというわけだ。集落計画と地域環境学の中間の未知の領域をテーマにしたもので住環境学科にふさわしい作品だと思う。

「枚方駅前集合住宅リノベーション計画」
 パースがうまい。パース担当教官としてはうれしい。作品はドミノ方式による集合住宅で、駅前の修景をテーマにしている。小単位のユニットが群れる形態で、木造密集地区のなかに溶け込むことをねらったように見えるし、そのもくろみは成功している。小単位のものが群れて、なおかつ全体で別の形態を表現するのは結構難しいが、それを上手にコントロールしている。他に別テーマを加えなかったいさぎよさも作品の質を高めることに役立っている。

「劇場 PICTURES AT AN EXHIBITION」
 クラシック音楽の「展覧会の絵」の建築化だ。アリの巣のような精密な模型が迫力があっておもしろい。ほとんど全部が地下であることが興味深い。空間は中からしか見えないという意味なのだろう。文学や音楽を建築化した作品はこれまでしばしば作られてきたが、地味で根気のいる作業で完成させるのは大変だ。この作品はそれをきっちりとやり遂げているのがすばらしいと思う。


 < 全体として >

 以上、当日のメモをもとに書いたので、思い違いも多々あると思うが許してほしい。全体的にいくつか気になることがあるので、それを箇条書きにしておく。


1.図面枚数が少ない人が多い。何枚を適当としているのか知らないが、もう少し作図に時間をさくべきだろう。これは指導側の責任でもある。

2.円形プランは、よほど手慣れていないとまとまらないので避けた方がよい。考えすぎると無意識の底から自己の象徴として円のイメージが浮かび上がることがある。ライトが晩年、円形プランに取り付かれるのもそのせいだと私は思っている。円そのものの持つ象徴性が各自の個別テーマを押しのけて作品を印象づけてしまうおそれもある。円は扱いづらい形だ。

3.高齢化や少子化などの社会問題へ視点は大切なことだが、そこから建築への展開がうまく行ったり行かなかったりしているように見える。提出に間に合うことが課題の最低条件なのだから、問題意識と作図とをつなぐアイデアが浮かばなければ早々にあきらめて、個別の建築、たとえば美術館や劇場などにテーマを絞ったほうが良いと思う。これも指導側の問題でもある。


 < 最後に >

 卒業設計の場合、完成へ向けてかけのぼっていく過程は論文よりも時間の管理が難しい。それでも全員間に合ったことは特筆してよいだろう。全体として作品が明るいのは、この学年のカラーが影響しているのだろう。このクラスは1年のときから情熱的で純粋だった。そのカラーに支えられて全員がゴールできたのだろうと思う。このクラスが1期生で良かった。全員でやりとげたという前例は後輩たちに勇気を与えるだろう。展覧会はとても楽しかった。ありがとう。そして卒業おめでとう。

 

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2014年2月19日 (水)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展

 きょうは摂南大学住環境学科の卒業設計展を見に行く。4年前に新学科ができたときから私は1年生の設計実習の担当している。初めて学生たちと顔合わせしたとき、彼らはひとときもじっとしておらず、これは大変だと思ったのをよく覚えている。でも実習が始まると結構熱心に取り組んでくれた。

 学年のカラーというものは案外鮮明にあるが、この学年のカラーは「純情」だったというのが1年担当教官の共通の思いだ。そのことは、その後の学年にも良い影響を与えたのではないか。新設学科なので就職も難しかろうと心配したが、拍子抜けするほどすんなりと決まった。それは彼らのひたむきさが受け入れられたのだろうと思っている。

 彼らの卒業と同時に、この学科を起こした先生も退任する。これからも学科は昔からこうだったとでも言うように続いていくだろうが、創設の苦しみと楽しさを学生と教師とで分かち合ったかけがえのない日々を共有できたことをうれしく思う。卒業おめでとう。


摂南大学住環境学科卒業設計展
2014.2.17(月)-20(木) 中之島デザインミュージアム(参照


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