建築批評

2022年4月 6日 (水)

第1回若手建築家から実例から学ぶ(京都府建築士会)

公園施設「ベータ本町橋」の見学会があった。設計したおふたりの建築家(高橋勝氏、井上真彦氏)により丁寧にご案内いただいた。大阪市のウオーターフロント再生政策の一環として、地元の本町橋かいわいの方々が中心となって親水公園として開発されたことがよく分かった。公園内の建物は軽やかな耐火木造建築物で、夜になると照明に照らされた天井が反射板となって川面を照らす仕掛けがおもしろい。

興味深かったのは、おふたりの設計思想だった。井上氏はインテリアデザインからイベント会場や公園の設計へ手を広げてきた。すきまのような場所でも、なんらかの装置を加えることで場が生まれる楽しさを語ってくれた。

高橋氏は、森林再生のための木造建築の復興をめざしている。間伐材利用のための木材テントを開発したことから今回の耐火木造の実践へとつながった。自然環境が工法を、暮らしが間取りを決めるという分析もおもしろかった。

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2022.04.06、大阪市中央区本町

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2019年7月18日 (木)

さて景観的にどこがおかしいでしょうか

 電線が地中化されたおかげで街並みがよく見えるようになった。こうしたゴチャゴチャした感じが欧米人の思い浮かべる日本のイメージだ。統制がなく個別のデザインが群れている。それはアジア諸都市の特徴だが、その延長線上に日本文化があることをまず自覚せねばならないだろう。

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2019.06.13、京都市左京区下鴨

 さて、いま京都で行われている景観規制は屋根の形状に関する規制と外装材の色と素材の規制の二本立てだ。ここは沿道美観地区なので形状規制はなく色彩規制だけだ。今の条例に基づいてこれを修正すれば下のようになる。

 単に彩度(色の鮮やかさ)を落としただけである。これでいいのか。

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 さらに過激な景観論者は沿道美観地区といえども高さを揃えさせることは当然だと主張するだろう(しかも声高に)。高さがそろっていないことが都市景観の混乱の根源であり、個々のデザインをわざわざ規制しなくともスカイラインを揃えるだけで最低限良好な景観を手に入れることができると。

 するとこうなる。

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 これはこれでおもしろいが、景観論者を納得させるほど統制がとれているわけではない。むしろ個性が並列化されたがゆえの混乱がある。これは「九龍城現象」と名付けてもよいかも知れない。

 長くなったので続きはいずれ(ニーズはないと思うが)。

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2017年6月23日 (金)

ファサード不在

 とある学校でパースを教えてきた。何度か来ているが、いつも学校の正面で落ち着かない気持ちになる。どこがおかしいのだろうと思ってスケッチしてみた。描いてみてよく分かったが、何度も改修されて余計なものがいっぱいついている。野太い配管、室外機隠しのルーバー、屋上の波型プラ板の庇、そんなものを全部ひっくるめてはがせば、ずっとよくなるだろう。

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2017.06.22/クロッキー帳、0.5シャーペン2B、/奈良市

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2016年3月14日 (月)

市川裕子「デーセンター機関車」見学会、2016.03.13

 建築家の市川裕子さんから案内をいただいたので新築の見学会へ行ってきた。重度の身体障碍者向けのデイケアセンターで定員20名ほどの小規模なものだ。コンビニ跡を改造したそうで明るい施設だった。感想をメモしておきたい。

 黒い天井一面に色とりどりのさまざまな線が描かれていてとてもきれいだ。寝たきりの利用者が多いが、彼らは天井しか見えない。そこで利用者に描いてもらったものを壁紙に加工したそうだ。筆が持てないのでビー玉を転がして描いたらしい。うまく張り合わせてあって継ぎ目も気にならない。黒いため天井の低さを感じさせないし、なにより見ていて楽しい。これはとても良いアイデアだと思う。

 ショップと介護スペースとは向こうが見える格子状の棚で仕切られているほか壁らしいものはない。着替えのときなどは諸所に用意されているカーテンを使う。だから全体がワンルームのようになっていて狭さを感じさせない。こうした施設は閉鎖的で暗いものが多いのだが、ここは明るくて風通しがよい。思い切ったデザインをしたものだと感心した。

 そうした工夫がさりげないため、誰の目にもが当たり前の建築として映るだろう。それが彼女の建築の一番おもしろいところだ。おそらくその良さは何年か使ってみて利用者が初めて気がつくのではないか。よい仕事を見せてもらった。ありがとうございました。

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2013年4月15日 (月)

建築批評 梅田大廻廊計画

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たぬき案

 阪急の建て替えが終わったので見て来た。期待していたので余計にがっかりした。竹中工務店設計部は阪急ガーデンズで示した建築わくわく感をなぜ発揮できなかったのか。この工事は竹中が設計しながら大林組が受注するというチグハグ感が最初からあったが、いろんなことがもうダメになっているのだろう。世の中から建築わくわく感が失われつつあることが残念でならない。なぜ誰もそのことをを批判しないのか。これほど建築の批評家が増えていながら、ひょっとして誰も気付いていないのだろうか。というわけで、とりあえず私が批判ののろしを上げておく。

 わたしならこうするというのが上スケッチ案だ。わたしは黙っていてもこうなると楽観していた。デザインはいろいろあるだろうが、大廻廊が御堂筋のビスタ(見通し)とつながるというのは、はずせない設定だと思っていた。さらに阪急と阪神は合併したのだから、阪神デパートへ通じる2階デッキが大廻廊に接続すると思っていた。大廻廊は平面的には阪急梅田駅と御堂筋をつなぎ、立体的には地下鉄から2階デッキまでをつなぐ。そのことでここが梅田のエントランスホールとなり、廻廊からのつながりを視覚的に見せる工夫がデザインとなって表れるのが理想だった。


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2013.03.28、大阪府北区梅田

 大廻廊の北端は少し広がっていて良い感じだ(写真左)。わたしなら、環状線のオレンジ色の車体が走るのを見せたいところだが、それは趣味が分かれるだろう。阪急梅田駅からここへ至ると大廻廊へ斜めに入ることになって廻廊の壁しか見えない。これはよくできている。なぜなら、ちらっと見せることで建築わくわく感が高まるのだ。

 ところが大廻廊へ入ったとたんにペタッとする。天井も高く廻廊巾も大きいにもかかわらず、それがどこにもつながっていない。実際にはいろいろつながっているのだが、それがデザインに表れていない。街路というよりよく管理された病院の待合ホールのような感じしかしない。もちろん建築わくわく感はみるみる下がっていく。

 つきあたりまで来て建築わくわく感はとどめを刺される。そこには何もないのだ。突き当たりの壁面は2分割され、右はデパートのサブ的な入り口、左は地下へ下りるエスカレーターでその上にはたいして大きくもない広告ディスプレイがあるだけだ。せめてデパートの入り口を正面にするとか、広告用のディスプレーを大型にするとかもっといろいろ考えられただろうに。そうした建築的な想像力そのものの欠落を強く感じる。


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(左)現状、(右)たぬき案

 現状の大廻廊は、基本的に元のものを復元している。違うのは、元は大廻廊と御堂筋とをカマボコ天井の旧コンコースがつないでいた。そこは伊東忠太デザインのモザイク画で飾られていて大阪人なら誰でも知っている有名ポイントだった。大廻廊は阪急梅田駅のプラットフォームだったわけで、以前ならコンコースから大廻廊への経路は線路上を歩くようなドキドキ感があった。それを天井の高い旧廻廊はよく表現していた。さすが竹中だと思ったものだ。

 コンコースからは村野藤吾デザインの地下鉄換気塔が見えた。ここが昔の市電の梅田停車場で、複雑に見える梅田の動線はここに集約されていた。だから阪急電車も阪神電車もこの交差点に正面入り口を構えたし、梅田で最初の地下道はこの下にできた。大阪駅からの歩道橋も、この交差点めがけてかかっているのだ。だから大廻廊と御堂筋とのつながりは、歴史的な見通しをも与えてくれるものだった。

 梅田がこんなに複雑になってしまったのは、市電が廃止されてこの交差点まわりの動線が変わったことが大きいと私は思う。今回の大廻廊の改造は、分かりにくい梅田の町に再度見通しを与えるチャンスだったはずだ。惜しいことをしたものだ。


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2枚目のスケッチ(1枚目とあまり変わらない)

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