たぬき案
阪急の建て替えが終わったので見て来た。期待していたので余計にがっかりした。竹中工務店設計部は阪急ガーデンズで示した建築わくわく感をなぜ発揮できなかったのか。この工事は竹中が設計しながら大林組が受注するというチグハグ感が最初からあったが、いろんなことがもうダメになっているのだろう。世の中から建築わくわく感が失われつつあることが残念でならない。なぜ誰もそのことをを批判しないのか。これほど建築の批評家が増えていながら、ひょっとして誰も気付いていないのだろうか。というわけで、とりあえず私が批判ののろしを上げておく。
わたしならこうするというのが上スケッチ案だ。わたしは黙っていてもこうなると楽観していた。デザインはいろいろあるだろうが、大廻廊が御堂筋のビスタ(見通し)とつながるというのは、はずせない設定だと思っていた。さらに阪急と阪神は合併したのだから、阪神デパートへ通じる2階デッキが大廻廊に接続すると思っていた。大廻廊は平面的には阪急梅田駅と御堂筋をつなぎ、立体的には地下鉄から2階デッキまでをつなぐ。そのことでここが梅田のエントランスホールとなり、廻廊からのつながりを視覚的に見せる工夫がデザインとなって表れるのが理想だった。
2013.03.28、大阪府北区梅田
大廻廊の北端は少し広がっていて良い感じだ(写真左)。わたしなら、環状線のオレンジ色の車体が走るのを見せたいところだが、それは趣味が分かれるだろう。阪急梅田駅からここへ至ると大廻廊へ斜めに入ることになって廻廊の壁しか見えない。これはよくできている。なぜなら、ちらっと見せることで建築わくわく感が高まるのだ。
ところが大廻廊へ入ったとたんにペタッとする。天井も高く廻廊巾も大きいにもかかわらず、それがどこにもつながっていない。実際にはいろいろつながっているのだが、それがデザインに表れていない。街路というよりよく管理された病院の待合ホールのような感じしかしない。もちろん建築わくわく感はみるみる下がっていく。
つきあたりまで来て建築わくわく感はとどめを刺される。そこには何もないのだ。突き当たりの壁面は2分割され、右はデパートのサブ的な入り口、左は地下へ下りるエスカレーターでその上にはたいして大きくもない広告ディスプレイがあるだけだ。せめてデパートの入り口を正面にするとか、広告用のディスプレーを大型にするとかもっといろいろ考えられただろうに。そうした建築的な想像力そのものの欠落を強く感じる。
(左)現状、(右)たぬき案
現状の大廻廊は、基本的に元のものを復元している。違うのは、元は大廻廊と御堂筋とをカマボコ天井の旧コンコースがつないでいた。そこは伊東忠太デザインのモザイク画で飾られていて大阪人なら誰でも知っている有名ポイントだった。大廻廊は阪急梅田駅のプラットフォームだったわけで、以前ならコンコースから大廻廊への経路は線路上を歩くようなドキドキ感があった。それを天井の高い旧廻廊はよく表現していた。さすが竹中だと思ったものだ。
コンコースからは村野藤吾デザインの地下鉄換気塔が見えた。ここが昔の市電の梅田停車場で、複雑に見える梅田の動線はここに集約されていた。だから阪急電車も阪神電車もこの交差点に正面入り口を構えたし、梅田で最初の地下道はこの下にできた。大阪駅からの歩道橋も、この交差点めがけてかかっているのだ。だから大廻廊と御堂筋とのつながりは、歴史的な見通しをも与えてくれるものだった。
梅田がこんなに複雑になってしまったのは、市電が廃止されてこの交差点まわりの動線が変わったことが大きいと私は思う。今回の大廻廊の改造は、分かりにくい梅田の町に再度見通しを与えるチャンスだったはずだ。惜しいことをしたものだ。
2枚目のスケッチ(1枚目とあまり変わらない)
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