銀橋(5)じつは銀橋は伸縮自在だった
鉄橋は両岸をヒンジで固定するものが多い。ヒンジとは丁番のことだ。岸側に取り付けた受金物にアーチの先端を差し込んでピンでとめている。
鉄橋は熱で膨張して伸びる。橋の長さが伸びたときにアーチの両端が固定されていると、そこが突っ張って壊れてしまう。そこで両端のヒンジにするとどうなるか。アーチは伸びた分だけ曲がり方が大きくなる。アーチの背は少し高くなり、両端の付け根の角度も大きくなる。両端がヒンジなので角度が変わっても大丈夫なのだ。これが2ヒンジ型アーチだ。
ところが銀橋はアーチのてっぺんにもうひとつヒンジが入っている。3ヒンジ型は珍しい。これは両岸の地盤沈下を見込んで設けられたという。銀橋の架けられた昭和5年には、工業用水の汲み上げによる地盤沈下が大阪で始まっていた。昭和30年代には大阪湾岸で年間沈下量20㎝を超えたという。10年で2メートルだ。
地盤沈下量は橋の両端で異なる。最大2メートルもの差がつけば鉄橋はどうなるか。アーチは引き延ばされて背が低くなる。アーチは高くなるより低くなるほうが弱い。たとえば、まっすぐな棒とアーチ型の棒に重りを載せればまっすぐなほうが先に折れるだろう。アーチが低くなるということはまっすぐな棒に近づくということなのだ。
もし、2ヒンジ型でアーチの引き延ばしが起こるとアーチが折れるおそれがある。そこで登場するのが3ヒンジなのだ。これなら中央のヒンジが働いてアーチがきれいに伸びる。ほんとかよ、と驚くような構造に銀橋はなっているのだ。
実際には、桜ノ宮で2メートルもの地盤沈下は起きなかった。それでも、岸から銀橋を眺めると橋の中央が少し下がっているのが見える。3ヒンジが働いて橋が伸びたのだ。わざわざ3ヒンジにしたことが役だっているのである。
2025.03.18、大阪市北区
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