椅子展(2)マルセル・ブロイヤーがおもしろ過ぎる
20世紀のデザインの主流のなかでブロイヤーだけ孤立しているのがよく分かった。それはブロイヤーのせいではなく展覧会の考える20世紀のほうの問題だと思う。それはさておき、彼のワシリーチェアがいきなり出てくる。世界で初めて作られた鉄パイプ製の椅子だ。直後から名だたる建築家やデザイナ―たちがこぞって彼のまねをし始める。こうして鉄パイプ椅子全盛の時代が唐突に幕をあげた。
この展覧会のおもしろさ、というより織田コレクションのおもしろさは、ブロイヤーの自転車寝椅子が出ていることだ。これがたいへんおもしろい。
木陰にこの寝椅子を置いて昼寝をするのだろう。日差しが動けば日陰を追って寝椅子を動かすことができる。おそらく、まんなかの車輪を手で回して寝椅子を動かすのだ。前後にしか動かないというが、体重のかけかた次第で、少しは進路を曲げることもできるだろう。だからといって、この寝椅子を機能的だとは言えないと思う。この自転車寝椅子には機能性では語れないおもしろさある。
彼は自転車が好きだったそうだ。そこにヒントを得て軽量で量産可能なワシリーチェアをデザインしたというわけだ。その結果、20世紀のデザインは機能美と大量生産性を備えたものへと脱皮した、というのが20世紀デザインの筋書きである。けれど、それでは自転車寝椅子を説明できない。むしろ彼は純粋に自転車が好きで、それをデザインに取り込みたかっただけではないのか。機能性や工業生産性よりも、動くデザインの楽しさこそ真髄だったのではないか。20世紀のデザインは思っている以上に「楽しい」のである。
2024.04.10、なんば高島屋「椅子とめぐる20世紀のデザイン展」
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