富士ラビットのディテール(5)
右側のショーウインドウのステンドグラスは荷物を運ぶトラックの図だ。おもしろいのはトラックの先に工場が描き込まれていることだ。2棟のかまぼこ屋根の近代的な工場でその間に赤い煙突が煙を吐いている。
かまぼこ屋根の近代工場と言えばペーター・ベーレンスのAEGタービン工場が有名だ。富士ラビットの建築家もAEGタービン工場が好きだったのだろう。
「モダン建築の京都100」に富士ラビットが収録されている。設計した建築家・坂尻一郎の図面が載っている。立面図にこのステンドグラスも描き込まれている。絵柄は今と違うが、田園風景のなかを走る自動車だ。実施設計のさいに施主と相談していまの図案を決めたのだと思う。
同本に戦前の写真がある。建物の側面の壁に大きな英語の看板が描かれている。いわゆるビルボードだ。フォードのマークの右にフォードソン、左にリンカーンとある。フォードソンは1919年から製造販売したトラックのブランド、リンカーンは1922年にフォードが買収した高級車ブランドである。つまりステンドグラスはこの左右のブランドを示していると私には見える。
1923年当時のフォードソンのモデルはT T型というピックアップトラックだった。坂尻はこれを元にデザインしたのだろう。
モデルT T https://www.barrett-jackson.com/Events/Event/Details/1922-FORD-MODEL-TT-TRUCK-178651
左のステンドグラスはドライブを楽しむ田園生活を、右のステンドグラスは自動車の大量輸送による近代産業の興隆をテーマとしている。それはフォード社の理念をよく表している。坂尻一郎はそれを理解したうえで建物をデザインしている。
2022.12.27、京都市七条通り
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