薬師寺の塔の謎を解く(2)易ではなく五行説を使う
(風水連載をはじめるとブログの閲覧数が減る。これはしかたない。わたしは書きたいことしか書けないからな)
さて、薬師寺の塔を易で読むとどうなるか。大きな屋根を陽気、小さな屋根を陰気とすれば、上から順に陽陰陽、陰陽陰となる。6つの気を上下3つずつに分けて読めば、上の陽陰陽は火、下の陰陽陰は水となる。易だと火水未済(びさい)となる。易経は未済をこう説明する。
火水未済(かすいびさい)
順調にことが運ぶ。小狐が尾っぽを挙げて川を渡り、もう少しで渡り切ろうとする時に尻尾を濡らす。なんの得もない。
(三浦國雄著「易経」)
これでは意味が分からないだろう。わたしも分からない。悪い易ではなく、どちらかと言えばよい意味に受け取る場合が多い。未済の字義は未完成ということなので、まだまだこれから希望があるというわけだ。風水的にはものごとの完成は忌むべき避けるべき事象なのだ。そのことを踏まえたとしても薬師寺の塔が未済だというのは説明できない。
以前、このことを検討したときには未済の説明がつかなくて頓挫した。「京都の風水地理学」(2017)を書いた後だった。次の執筆の注文がくれば「奈良の風水地理学」を書こうと思っていろいろ考えたのだ。けれどそのときは薬師寺の塔の読み方が未済のほかにもうひとつあることに気づかなかった。
結果的に言えば、これは易で読むのではなく五行説で読むのが正しい。至極簡単なことである。上が火で下が水なのだから、これは水克火(すいこくか)と読むべきであろう。
ここで五行説について簡単に説明しておこう。これもシンプルな理論なのだ。そしてなぜかギリシャ哲学との共通性がある。ギリシャ哲学を基礎として西洋科学が発展したのなら、五行説を基礎とした東洋科学の可能性もあったと私は思う。
さて、風水においては気が世界を作ると考えられた。宇宙のはじまりである混沌とした気のかたまりを太乙(たいいつ、太一とも書く)と呼ぶ。これがビックバンを起こして陽気と陰気に分裂した。明るくて軽い陽気は上昇し、暗く思い陰気は下降した。こうして世界は生まれた。これを陰陽論という。陰陽論は天地創造の神話なのだ。
陽気と陰気はさらに分裂を繰り返す。次の分裂では陽気が火気と木気に、陰気が水気と金気に分裂した。上下に分かれた世界のちょうどまんなかあたり、陽気でも陰気でもない中間地帯が土気となった。これらの五気が五行である。五行の行とは作用という意味で五行は五気の作用ということだ。
火や植物が上へ伸びるのはそれらが陽気であるで、水や鉱物が下へ落ちるのはそれらが陰気であるからだ。逆に言えば落ちるか昇るかによって、そのものの陰陽が分かる。
五行はさらに分裂して八卦となる。先に見た8つのイメージはここからくる。具体的に示せば、木気は雷と風に、火気は火に、土気は地と山に、金気は天と沢に水気は水となった。火と水は分裂していない。これも分裂すれば八卦ではなく十干(じっかん)となる。
さて、五気はそれぞれ変化する。ここが五行説のおもしろいところだ。変化の仕方にも陰陽のふたつの方向がある。別の気を生み出す方向を相生(そうしょう)、別の気を殺す方向を相克(そうこく)の関係と呼ぶ。相生が陽気的変化で相克が陰気的変化に当たると思う。陰陽論はあらゆるものごとをふたつに分けて考えるのが基本だ。
相生とは相手を生み出すという意味である。5つの気は木火土金水(「ぼっかどごんすい」と覚える)の順に相手を生み出していく。これは自然観察の結果だろう。木を燃やせば火が生まれる。火が消えたあとには灰(この場合は土)が残る。土の中で鉱物が育ち、岩山が水を生みだす。そして水によって植物が育ち、相生の関係は循環するのである。
相克とは相手を克すという意味だ。克すとは克服するということなので相克とは相手を殺すというくらいの意味である。5つの気は木土水火金の順に相手を克す。木は根によって土を崩す。土は堤防となって水を防ぐ。水は火を消す。火は金属を溶かす。金属製の斧は大木を切り倒す。こうして相克の関係は循環するのだ。
このふたつの循環によって世界はぐるぐる動き生きることができる。これを図示すれば五芒星となる。
ご覧のように五芒星(五角形)だとふたつの回転を図示することができる。数ある多角形のなかで対角線が循環するのは五角形だけだ。なぜそうなのかは分からないが五角形は他の図形とは違う。この特徴をもとに世界が5つの気でできていると定めたのだろう。世界が4気や6気で作られていると考えると世界がうまく循環しないのである。風水は幾何学でもある。
では薬師寺の塔が表わす水克火(すいこくか)とはどんな意味があるのか。それは次回に。
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