薬師寺の塔の謎を解く(1)塔を易で読む
薬師寺の塔について考えたのでメモしておく。
薬師寺の塔は他に類例のないかたちをしている。大小の屋根が交互に重なることでリズムを生み出している。今にも歩き出しそうな動きのある造形でおもしろい。塔そのものの形や構造についても建築的な関心が尽きないが、ここではこの特異な形がなにを表現しているのかを風水を使って考えてみたい。
さて、塔はこんなかたちをしている。
上から大小大小と屋根が6層重なっている。ご承知のように小さい屋根のことを裳階(もこし)という。構造的には壁から突き出た出窓の上に取り付けられた庇であって正式な屋根ではない。したがってこの塔は六重の塔ではなく三重の塔である。
裳階は法隆寺の金堂と塔に取り付けられている。やはり本体に付加的にさしかけられた庇なので後補ではないかともいわれる。わたしは再建時に当初からあったろうと思う。なぜなら裳階があることで塔を易で読めるようになるからだ。もし後補だとすれば、薬師寺の塔をモデルとして易で読めるように改造されたのかも知れない。
ここで易について説明しておこう。易の仕組みはいたってシンプルなものだ。
易は8つのイメージから2枚を引くカード占いのようなものだ。イメージは天地、火水、雷風、山沢の4セットの計8つで構成される。そこから二度カードを引くので結果は64通りとなる。
8つのイメージはそれぞれ3つの陰陽でできている。天なら陽陽陽、地なら陰陰陰という具合だ。それぞれを陰陽で書くと次のようになる。
天 陽陽陽
沢 陽陽陰
火 陽陰陽
雷 陽陰陰
風 陰陽陽
水 陰陽陰
山 陰陰陽
地 陰陰陰
ちなみにこれは二進法に書き直すことができる。本考とは関係ないがおもしろいので紹介しておく。易は数学でもある。
天 111=7
沢 110=6
火 101=5
雷 100=4
風 011=3
水 010=2
山 001=1
地 000=0
(左が二進法、右は十進法)
さて、法隆寺の五重の塔はこうなっている。
大を陽気、小を陰気とすれば陽陽陽・陽陽陰の並びとなる。これを8つのイメージに置き換えると陽陽陽は天、陽陽陰は風だ。この占いの結果は姤 (こう)となる。
易経は占いの結果を漢字一文字か二文字で表し、その注釈を続いて記している。占いの結果なので読んでも意味が通じないことが多い。易経の姤
の注釈は次のようになっている。
天風姤 (てんぷうこう)
その女は傷ついている。娶ってはいけない。(三浦國雄著「易経」)
この易は少し難しい。まず字義から考えると天は天神だろう。さらに風は法隆寺の守護神である龍田神を指すと考えてよい。龍田神は風神だからだ。龍田神は疫病退散のためにこの地に降りてきた。風神であると同時に疫神であるのだ。
上記訳本は「壮く」をきずつくと読ませている。原文はこうだ。
姤 。女 壮(きずつ)く。用(もっ)て女を取(めと)るなかれ。
天風姤は陽陽陽陽陽陰で陰(女性)がひとつしかない。傷つくという解釈は陰気が風前の灯のような状態であることからの連想らしい。ただし逆の解釈もある。同書は女が勇壮なので娶ってはいけないとも読めるとある。このあたりは占いの解釈なので事例に応じて変わるのだろう。
もともと姤という字は美しいという意味がある。だからここは美しくて強い風神をことほぐ易と考えればよいと思う。
では薬師寺の塔を易で読むとどうなるのか。それは明日。
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