薬師寺の塔の謎を解く(3)火気を滅ぼす水気の呪術
なぜ薬師寺の塔は水克火(すいこくか)を表わすのか。それは薬師寺に祀られるのが金気の神様だからだ。金気の神様は火気を嫌う。だから水気で火気を消して金気を護るわけだ。
なぜ薬師が金気の神様なのか説明しておこう。
五行説において疫病は木気とされた。風邪のことをカゼと呼ぶのは、風のように体内に入り込むからだ。風邪をひくと咳き込むこともウイルスのようなものが息を介して体内に入ることを思わせたのだと思う。だから風は木気に配当される。
風をコントロールできる風神は疫神に変化することができるのだ。コントロールとはすなわち克すということである。つまり疫病が木気であるから、それを克す疫神は金気である。防疫は金克木の相克の関係を応用しているのである。
したがって疫神と習合した薬師も金気であることが多い(すべてではない)。薬師寺のご本尊が木製でも塑像でもなく金銅製なのはそれゆえであろう。本来、木気は春の芽生え(誕生)の季節を示すめでたい気である。それなのに疫病も表すところがおもしろい。
正月7日の七草かゆは無病息災を祈る行事だが、7は火気を示す数字なので火気によって木気を克す呪術だろう。七草かゆの行事ではまな板の上で七草を包丁で唄いながらたたく。草を金属で叩く動作こそ金克木の呪術の本体と思われる。そのときの歌にしばしば「唐土の鳥が渡る前に」とあるのは、いかにも鳥インフルを知っていたかのようでおもしろい。春は芽生えの季節であると同時に疫病の流行する季節でもあった。
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以下は付録である。この連載は付録のほうが多い。
さて、ここで五行説の数字の配当について説明しておこう。ここから先の論考で数字のマジックを多用するので承知しておいてほしい。
五行にはそれぞれ数字が配当されている。
水気 1,6
火気 2,7
木気 3,8
金気 4,9
土気 5,10
なぜこうなっているのかというと、これは暦から割り出されている。というより陰陽五行説は暦を作るための理論だといったほうがよかろう。
季節が4つで構成されるのは東アジアでは共通している。五行説は春夏秋冬を次のように五行に配当した。
春 木気
夏 火気
秋 金気
冬 水気
土用(各季節の最後の18日間)土気
五行説では土用も含めて季節は5つあると考える。われわれは夏の土用にウナギを食べるので土用は夏しかないと思われる向きもあるが、実際には土用は春夏秋冬の4回あるのだ。土用とは土気の作用のことだが、季節が変わるためには土気の力が必要なのだ。この土用の考えこそ五行説のおもしろいところだ。
土用とはなにか。各気に働く土気の作用を見ておこう。
木気から火気を発するためには土で作ったカマドが必要である(木生火)。またカマドの灰が炭火を守りさらに灰を作り出す(火生土)。大地の奥深くの土中で鉱物は成長する(土生金)。土の上に現れた岩山から水は流れ出す(金生水)。そして植物の種は土中にあって芽を吹く(水生ま木)。気は土気の作用によって次の気に生まれ変わることができるわけだ。同様に季節もまた土用が正しく働くことで移り変わることができるのである。
季節の循環を図示してみよう。
土用は各季節の最後に配される。ウナギを食べるのはこのなかの旧暦7月の土用だ。ここは春夏の陽気から秋冬の陰気に移り変わる重要な土用なのでことさら重視されたのだろう。同様に陰気から陽気に変わるのは旧暦1月の土用で、これは年末行事に反映されている。大掃除も土気を集める呪術なのだ。さて、この図に先の数字を当てはめると次のようになる。
陽気側に2と3、陰気側が4と1となる。それぞれの合計が同じ5となって陰陽同数となる。土気は5なのでこれも陰陽と同数となる。五行を1年の円環に展開させたときに配当される数字もバランスがとれているわけだ。ただし、なぜ(3→2、4→1)となっていて(2→3、1→4)ではないのかは私には分からない。
配当される数字がふたつあるがこれも陰陽になっている。1,2,3,4,5はまだ生まれたての若い気で陰気である。これを生数(なますう)という。これに土気の5を足した数字が6,7,8,9,10である。これを成数(なりすう)という。生数が陰気的数字で成数が陽気的数字なのだろう。ちなみに生も成も同じセイ、ジョウという発音なので、便宜的にナルとかナリとか呼び分けている。
さて、上の図を表に書き直すと次のようになる。
2,7 | ||
3,8 | 5,10 | 4,9 |
1,6 |
この表は黄河から現れた龍馬の背中に星の数として表されていた。馬は黄河から現れたのでこの数表を河図(かと)と呼ぶ。河図は世界の謎を解くために神が人類に与えたふたつの数表のうちの1枚である。エデンの園の知恵の実に相当する図表なのだ。世界は数字で作られている。まるでピタゴラス学派である。
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