武田的ディテール(49)旧京都市陳列館の門柱はなぜTの字なのか
京都市美術館のリニューアル工事にまぎれて無くなりはしないかと不安だったが、ちゃんと残ってよかった。これは武田五一の設計した京都市陳列所の門柱だ。門柱までデザインするのか、と思う向きもあろうが、見てのとおりの武田的ディテールである。
門柱の断面は正方形ではない。ということに最近気づいた。普通は四角い断面の石材から刻みだすので、断面が正方形でないというのは異例だ。なぜそうなっているのかといえばデザインに合わせたからだ。
ご覧のように正面の幅が側面の幅よりも広い。正面から見たときにTの字のように頭の部分が両側に突き出ている。その分だけ正面側が横に長いのだ。これは図面に寸法が入っていなければ石工さんも間違うだろう(たぶん石工は白川の内田鶴之助さんだろうけど)。こうやって写真だけ見ていても断面が正方形ではないとは気づかないだろう。
寸法を書き入れているということは柱頭の前部分の庇を削ってペタッとしたデザインにしたということだ。そのやりかたはセセッション的であって武田以外でも、たとえば同級生の片岡安なんぞもよくやる。でもだからと言って武田が手グセでこれを作っただけだとは思えない。武田は偏執的に謎の答えを用意しているからだ。
わたしもずっとこの謎を考えてきた。最初にこれを見つけたときからTの字だと気づいていたから20年以上考えてきたわけだ。で、先日久しぶりにこいつに会いに行って謎が解けた。これは陳列所(TINRETUSHO)の「T」ではないか。陳列所を英語で書けばShow Roomだが、これは英語ではなくヘボン式ローマ字の頭文字なのである。
弟子「先生、なぜTの字なんですか?」
武田「分からないかね、君。これはTINRETUSHOのTだよ」
弟子「なるほど! これは1本とられましたな」
一同「ははははは」
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