2021年3月15日 (月)

摂南大学住環境デザイン学科卒業研究発表 感想メモ(2021.03.14)

学校の出入りも難しいような困難のなかで例年並みのレベルを維持したのがすごい。おそらく見えないところでクラスメート間の助け合いがあったのだろう。大学時代の友情は一生ものの財産だ。ぜひ大切にしてほしい。卒業おめでとう。

コロナに配慮して展示会が中止となった。会場で学生の話を聴けなかったのがつらい。1月の発表時のデータだけでは分からないことが多かったが、できるだけ想像力で補いながら感想をメモしておく。

< 全体として >
わたしはここ数年、発想・知識・プレゼンの3項目で作品を評価してきた。とくに発想に重きをおいている。たとえプレゼンが下手で知識に欠けるとも発想がおもしろければ評価してきた。この発想部分だが、さらにテーマと設定のふたつに分かれるようだ。

テーマは何がやりたいのかという意思の表明だ。それは社会的でなくてもいいし芸術的でなくてもいい。自分がやってみたいことを表明してほしい。テーマが明確でないとピンボケの卆計になってしまう。

設定はテーマに従って決まる。建築概要、敷地、テーマを実現する上でのアイデアなども設定に入るだろう。とくに敷地選びは重要だが、テーマが明確でないと敷地も正しく選べない。このあたりを早い段階で整理できれば仕上げる時間が増えて作品は深まるだろう。

< 個別に >

-稲地研-

・施設と地域の繋がり方に着目した児童の自立を促す児童養護施設に関する研究
児童の社会的自立を促すために地域社会に開いた形式。既存の小舎制ユニットケア方式との違いや家庭内虐待からの隔離をどうするのか聞いてみたかった。地域住民のための施設として家庭支援センター、地域交流棟を備え、隣接地には幼稚園、公園がある。住居区と地域施設とのあいだに児童と地域住民の「たまり場」として図書室、子供食堂などに囲まれた広場を設けたのがとてもよい。計画力、設計力の高い作品だ。

・多様化する自転車社会
データが未完成だったのでよく分からなかったのが残念。卆計は概して間に合わないものだ。わたしもそうだった。今後にこの経験を活かせばよい。

・町に住む住居
木造密集地の再開発。複数敷地を合わせてシェアハウスに建て替える。シェアハウスの共同キッチンなどの共有部分をつないでかいわいを作ってみせた。共同建て替え再開発事業との違いや単身者専用計画の意図などを聞いてみたかった。

・時間の蓄積
津波対策としての和歌山県白浜町朝来帰(あさらぎ)地区の高地移転計画。斜面地に分散型集落を構成。銭湯をコミュニティの核とする集落計画や波型屋根を共通モチーフとして新しい風景を作ったのがおもしろい。斜面地だと津波時に下部が浸水するのではないだろうか。だからさらに高所に復興予定地を設けたのだろうか。そのあたりを聞いてみたかった。

・空白から余白へ
人口減の進む大阪市都島区へ大川対岸の北区の人口を引き入れる計画。波打った人工地盤で大川上の公園を作り両区の一体感をつくりだそうとした。造形が美しく設計力の高い作品。

・三好山美術館【円満字賞】
こどもの創造力を引き出す公園計画。円形広場、らせんの穴、迷路、鏡などを配置した楽しい作品。岐阜県の公園・養老天命反転地が先行作品だろう。各部の設計が適切で遊具のつなぎ方もうまい。設計力の高い作品である。

・児童の多用な居方を可能にする環境
「居方」という言葉を知らなかった。最近使われる造語のようで居場所というほどの意味らしい。大阪市東淀川区に学童保育施設を計画する。平面を複雑にすることでいろんな居場所を作り出そうとするアイデアは正しい。


-川上研-

・グラフィック視線誘導の手法を建築シークエンスへ落とし込む【円満字賞】
放置されている都計道路敷に回廊型の遊歩道を計画。周辺の4つの町のアイデンティティを形態化した広告建築をはめこんでいるのがおもしろい。万歳町は民俗芸能の万歳にちなんで舞台建築を、中崎町は借家街を模した店舗を、扇町は天満市場にちなんだバザールを、神山町は街道筋の牛宿を見立てた駐輪施設を、という具合で楽しい。設計力の高い見ごたえのある作品。

・おもしろさは急に見えぬすすきかな
兵庫県伊丹市に郷土出身の俳人・上島鬼貫の記念館と句作のための場所、まちづくり団体のための施設を計画した。町の中や昆陽池あたりなど複数敷地を使って俳句をテーマとした造形を展開している。形態操作による造形が優れている。

・浸藍の「ぞめき建築」【円満字賞】
徳島駅前のウオーターフロントに藍染めなどの地場産業をテーマとした施設を計画。住民や観光客などが藍の栽培から染めものまで体験できるスペースのほかショップやレストラン、イベントスペースなどを備える。出色なのは阿波踊り当日に「にわか踊り」のコースとなるスロープがあること。日常の施設としてもよくできているが祭日に表情を鮮やかに変えるのがおもしろい。計画力、設計力ともレベルの高い作品。ちなみに「ぞめき」は阿波踊りのリズムをいう言葉らしい。

・枚方市民の不安をやわらげる「ケア市場」【円満字賞】
大阪府枚方市の市役所前の公園と市民ホール跡地にケアをテーマとする市場を計画した。勤務していない看護師や保育士などの人的資源を利用して運営するという。市場は食堂、生鮮食料品、クリーニング、薬局、美容室など日常使いの店舗が中心で、店舗それぞれに住居を併設した。おもしろいのは「見る、話す、触れる、立つ」などの動作をもとにコミュニケーションを誘発するための9つの仕掛けを備えたこと。土間、縁側、ピロティなどをケアの視点から見つめ直した作品。

・患者家族を日常の再構築へと導く自然光を活用したファミリーハウス【円満字賞】
難病児童を看護するためのコレクティブハウスを病院に隣接して計画した。15家族分のプライベートルームから患者家族のための共用リビングそして地域にオープンなカフェなど段階的に入居者を地域に開いていく手法が確かだ。難病であるゆえに治癒する保証はない。施設の中心に祈りのための小さな教会を設けたことに難病の現実を見通す確かな視点を感じた。折る、繋ぐなどの形態操作による造形力も優れている。

・共につくり生きる【円満字賞】
卆計を見ていて久しぶりにドキドキした。大阪に残るドヤ街・あいりん地区は高齢化と空洞化に悩んでいる。この町にアパレル廃材の再生事業を新しい生業として根付かせるための施設を計画した。古着を分解再生した素材で使った新しいファッションや建築素材をアーチストと共同開発する。古着の回収分別場、再生加工場、アトリエ、ショールームなどを備える。さらにアパレル素材を使って地域に点在する古家を再生させる試みを行うなどまちづくりプロデュースとして優れている。地域経済の回復と古家再生を同時に進めるドラマティックでドラスティックな作品である。

・こどもと遊び・学び・自然がからまる冒険遊び場
滋賀県の草津川跡地に学習塾と習い事教室のコンプレックスと遊び場を複合させた作品。放課後、塾通いに分散するこどもたちを集約してふたつめの学校を作った。施設そのものを遊び場として構想しようとしている。敷地と建物との関係を聞いてみたかった。


-白鳥研-

・生と死が織りなす建築デザイン【円満字賞】
緑化されたRC3階建て住宅。廃屋のイメージが住む者に緊張感を与える効果をねらう。陰影のある壁面、吹き抜けからふりそそぐ光線など設計力の高い作品。安藤忠雄作品の禅の風景に近いかもしれない。

・「360°BOOK」を起点とした密集室内での共生空間装置【円満字賞】
段ボールを使ったパーゴラのような作品。折りたたんだものを開くブックランプを大きくしたもの。造形としてもおもしろいが、何度も試作を繰り返し強度と運搬の検討を重ねたことを評価したい。室内用として計画しているが応用分野は広いだろう。特許ものである。

・「G.E.R.U.S(ゲルス)」を用いた仮設住宅の提案【円満字賞】
モンゴルのゲルをモデルとした長期滞在型仮設ユニットの試作作品。竹を構造材とし、もみ殻を断熱材として利用。仮設ではなく永住できると思う。古代日本には木を組み合わせたうえに土をかぶせた住まいがあったという。住まいの原型にせまる実験住宅と捉えることもできる。たいへん興味深い。

・一人親の孤(子)育て支援施設の提案
子育て支援施設だと思う。傾斜地に大屋根をかけて中央吹き抜けにホールがあり空中デッキに諸室を配置する。施設概要についてさらに聞いてみたかった。

・ベトナム南部ホーチミンにおける民族共生都市住宅の提案【円満字賞】
ベトナムの多数派キン族とカンボジアに多いクメール人との混住住宅。いずれも先祖崇拝のための壇を中心とするのが伝統的な住まいらしいが、現在の都市住宅では先祖壇の置き場がないそうだ。提案は伝統工法による木造3階建てとし1階は町に開いた店舗、2階を住居、3階を先祖壇置き場とした。前屋、主屋、後屋の3棟形式としその間から光と風を取り入れる計画が清々しい。1階に水庭を作ったのも風を通すためだろう。雨季には増水して1階は水没するという。そのようすもおもしろい。独特の登り梁による小屋組みの美しさなど伝統を見つめる確かな視点を感じた。

・日本におけるムスリムと非ムスリムの共生住宅の提案【円満字賞】
神戸の諏訪山にイスラム教徒と非イスラム教徒の夫婦のための住宅を計画。日本の麻葉模様とイスラム模様の八芒星の組み合わせを平面に使った。家族で生活しているときと来客時でプランを変える工夫がおもしろい。来客時には建具を移動させて中庭の一部を取り込み男女2部屋に分離する。中廊下はさんでオープンなキッチンがあり日常と来客時の双方に対応できる。また塀と建物の隙間を緑化して光と風を通すなど楽しい工夫に満ちている秀作である。

・日本の伝統的な屋根瓦の美しさに関する提案【円満字賞】
唐招提寺礼堂の軸組模型を作り屋根の美しさについて考察した実証的な研究。こうしたアプローチは本学科創設以来初めてである。軒反りの技法を模型で試作しながら美しい軒の作り方を確かめている。この礼堂は跳ね木のない古式で、そのことが伸びやかな軒の美しさを形づくっていることが実感として伝わる。


-久冨研-

・新しい都市公園の使い方
大阪市の堀江公園に立体格子のデッキをつくり隣接する商店街のイベントスペースとする計画。立体格子を緑化し公園としての快適性も向上させている。外部を内部化する縁側的なツールとして立体格子を使っているのがおもしろい。地域の祭礼との関連を聞いてみたかった。

・寝屋川国際学生寮
1階をピロティとし2階を居住スペースとする。キッチン、トイレ、ふろ場は共用。吹き抜けに設けられた階段踊り場に低い囲いで仕切られた談話スペースを設けたのが特徴。礼拝場所の確保や食事上のタブーなどをどう折り合いをつけて共同生活するのか聞いてみたかった。

・まちの継承
大阪市の木造密集地・空堀地区を取り上げ空家9戸空き地2カ所を使って高齢者住宅、デイサービス、ショートステイなどの施設を計画した。分散した各施設を連結する空中回廊を設けたのが特徴。回廊に井戸を水源としたドレンチャーを組み込み地域火災に対応したり、タテ動線のシャフトを既存建物の構造補強として使うなどのアイデアがおもしろい。

・New Work Style
奈良県香芝市のニュータウンにある五位堂駅前にコワーキングスペースを計画。1階をピロティとしてロータリーと駐車スペースとし、2階にオフィスと託児所を設ける。2階はデッキにより駅と直結しており駐輪場を設ける。オフィスは1.5m×0.8mをひとり分のモジュールとして2人分、4人分と広げられる設計がよくできている。

・シャッターを開いて【円満字賞】
生野区のシャッター商店街の再生がテーマ。元店舗の職種にちなんだ教室として再生するアイデアがユニークでおもしろい。元漬物店の漬物教室、染み抜き店の染み抜き教室、うどん店のうどん打ち教室などを説明するカラフルな絵が楽しい。防災空地を適切に配置しながら順次空き店舗のシャッターを上げていくドラマチックな計画だ。

・コンピューテイショナルデザイン/デジタルファブリケーション【円満字賞】
インテリア用の棚を自動設計・自動製作のアプリを使って試作する実証的な研究。パラメーターを操作して好みのものを作ることができるらしい。施策を通して構造的な検討、施工上の問題点などを確かめた。自動設計・自動製作は大量生産のための手段だと思っていたが、それを個人のための一品生産に利用できるということが目からウロコで興味深い。大量生産のためのツールならば標準化の方向でデザインの未来は暗いが、個別に対応できるとなれば明るい未来も見える。そんな勇気をくれた秀逸な研究である。

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コメント

円満字先生
 今年度もまた、実に丁寧で実に的確な講評をありがとうございました!冒頭に書いてくださっているとおり、今年度の4年生は大学キャンパスを思うように使えず、ゼミもオンラインがほとんどだったので、相当に苦しみました。でもオンラインの良い点を教員なんかよりずっと多く、ずっと早くに習得して、学生間で共有し、よく踏ん張っていました。
 面白かったのは、対面でゼミをする時も、全員がノートパソコンを睨みながら、情報も検索しながら、お互いの表情も確認するという場面ができあがったことです。この状態でのミーティングは、色や形などのビジュアル情報が他者に伝わりやすいだけでなく、学生それぞれが即座に他のデジタル情報に飛べるため、関連する事柄を一時に多様に検索でき、自分以外の学生の関係情報が身についていくという相乗効果につながりました。個々の学生に特有の情報を全学生が手元で共有でき、かつ補完しあい、互いが伝えたいことが的確に伝わるという利点が(いまさらながら)実感されました。多くの企業や他の研究室ではすでに行われていたのだと思いますが、掛け算のようなゼミになったのが私としては印象深い出来事でした。学生たちとICTとの親和性に、改めて(前時代の生き物のような)私のような教員は驚かされたわけです。
 そのおかげで、いつもの本町ガーデンシティでのリアル大展覧会はできなかったかわりにYouTubeでの卒業設計動画作成は、思ったよりもスムーズに学生たちは準備できたようです(担当の教員たちはものすごくたいへんだったと思いますが)。
 問題は模型でした。製図室を使う時間は制限され、手伝ってくれる3年生の後輩との接触も制限された中で、モチベーションを保つのは容易ではなかったはずです。いつもなら、友人の模型の完成度に負けまいと、最後の追い上げで予想以上の立体物が出てくるところ、今年は見ることすら叶わないので、そういった例は少なかったかもしれません。それだけが残念でした。
 とはいえ、最後に円満字先生にこのように講評していただいて、学生たちはとても達成感を得たと思います。そして、影でドキドキしながら見守った教員たちは、ようやく旨をなでおろしています。
 来年は、今回獲得できたICTツールを活用しつつ、また、リアル展覧会に戻していきたいと思います。今、住環境デザイン学科卒業研究オンライン展覧会では、YouTube動画とPDF(著作権保護のため一部ぼかされているもの)だけでなく、有志が模型を360度撮影した写真情報を追加しております。円満字先生をはじめ、もし、ご興味を持っていただけるの円満字先生ファンの読者の方々にも見ていただければ幸いです。

https://sites.google.com/view/ledsotsuten2020/top

 今年度も講評を書いていただくために、お仕事を止めてとても時間と労力をかけてくださったと思います。本当にありがとうございました。でも、来年度もどうかよろしくお願いいたします! 摂南大学理工学部住環境デザイン学科 川上比奈子

投稿: 川上比奈子 | 2021年3月18日 (木) 12時51分

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