2020年1月16日 (木)

犬の話(3)

わたしがクロと名付けた犬がいた。黒いラブラドールだった。大きな犬だったがまだ子供のようでハネハネしながら飼い主に連れられていた。そのときわたしはクロの後ろ10メートルくらいを歩いていた。飼い主の女性は連れと話しながら歩いている。クロはその後ろをハネハネしながらついていく。わたしは犬にだけ聞こえる低く強く小さな声で言った。

「クロ!」

実はクロと名付けたのはそのときだった。名前を呼んだらどんな反応をするか確かめたくなったのだ。もちろん名前は分からないのだがとりあえずクロだろうなと見当をつけてそう呼びかけたのだ。

わたしの声を聞いたクロはバッと四肢を踏ん張って立ち止まると耳をピーンと立ててバババッと左右を確かめた。飼い主が驚いてクロを振り向いた。クロはグルグルまわりながらキョロキョロしている。わけが分からずおびえているようだ。クロは腑に落ちないようすで歩き出したが、それでも抜かりなく左右後ろを確かめながら歩いている。もうハネハネしていなかった。悪いことをしたかも知れない。

それからクロと出会っても名前を呼ぶことはしなかった。

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