2019年12月12日 (木)

犬の話(2)

わたしがケンシロウと名付けた犬がいた。白い大きなラブラドールレトリバーだ。その家は交差点の角に玄関があった。ケンシロウはよく玄関先でねそべっていたが、玄関ポーチが白いタイル貼りだったのでそこに大きな犬がいることに気づきにくい。そこでケンシロウは人が驚かすことに励んでいた。犬に気づかず角を曲がろうとする人に対してケンシロウは突然吠えるのだ。

これは本気で驚くぞ。人は本気で驚くと手が上がる。さらに「うわっ、びっくりした!」と声に出していう。いまいましいことに私は何度もケンシロウに驚かされた。そのときのケンシロウの得意げな顔は忘れられない。ほかの人を驚かせているところを目撃したこともある。ケンシロウは町の脅威だった。

ある日ケンシロウの家の前を通りかけるとガレージのシャッターがあいてお父さんが車の掃除をしていた。そのわきでケンシロウは子犬のように跳ねていた。顔つきが違うのだ。見たこともないような甘えたこどもの笑顔だった。ケンシロウがそんな顔をするとも思いもしなかった。ケンシロウは他人に対しては狡猾で獰猛な犬だが家族に対してはかわいい従順な犬だったのだ。なんという変わり身の早さ。まあ猟犬だからしかたないか。

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