2019年6月 2日 (日)

鈴木喜一「ふーらり地球辺境紀行」秋田書店2008

 建築家・鈴木喜一の「ふーらり地球辺境紀行」を読み始めた。鈴木先生は神楽坂アユミギャラリーの主だった。20年ほど前に武田五一写真展の会場をお願いしたときに知り合った。搬入の朝は大雪でようやくたどりついたギャラリー前で鈴木先生は一斗缶で焼き芋を焼いていた。ごあいさつしても「あー」とか「うん」とかいうだけで要領を得ない。変わった人だなと思っていると「焼けたから」といってアルミホイルに包まれた焼き芋を差し出してくれた。あれは今から思うとわたしたちが来るころを見計らって焼いてくださっていたわけだ。雪のなかを歩いて冷え切ったからだに焼き芋の温かさが染みた。そんな優しい人だった。

 鈴木先生に放浪癖があると知ったのはずっと後のことだった。聞いたこともないような国のスケッチを見せてくれる。酷寒の北欧でスケッチしていると青い絵の具が一瞬で凍って画用紙の上に青い半透明の膜ができる。それを砕いてジャリジャリした空を描くと話してくれた。スケッチに失敗はない。なぜならスケッチはそのときその場所に自分が生きていたという証なのだから。そんなお話も聞かされた。そんなスケッチ満載の紀行文である。

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