2019年5月24日 (金)

魔笛を聞いた

 ひと月ほど前の風の強い夜に魔笛を聞いた。駅から家までは住宅地を通り抜ける細く曲がりくねった古い道を通る。ちょうど河岸段丘の端でもともと風の強い場所だ。普通はゴゥーというような音がするのだが、そのときは聞いたことのないような音がした。

 最初にピューという龍笛のような細くて高い音が震えるように鳴る。それが5秒ほど続いたあとで今度はボゥーと腹の底に響くオーボエのような低い音がした。それが5秒ほど続くとまたピューという高音に変わる。わたしは歌劇に出てくる魔笛とはこれだと思った。

 風音を怖いと思ったのはこれが初めてだった。歌劇のなかで風の音が怖いと言ったこどもが最後に死ぬように、どこか死のにおいのする不吉なものを風音に感じた。わたしはそのことをできるだけ気にしないように努めながら、それでも急いで河岸段丘を下りて家へ帰った。今もときどき思い出す。あの音はいったい何だったのだろうか。

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