2017年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ
例年とおり今年もおもしろかった。卆計では誰もがみなやり残したことがある。実はそこが重要で、やり残したことが卒業後もずっと建築を考えるための起点となるだろう。卒業おめでとう。
< 全体として >
プレゼンが分かりやすくなったのが今回の特徴だろう。パースや模型で作品の意図を伝えることはとても大切なことだ。できれば平面図をもう少し大きくして室名などの書き込みも増やせばもっとよくなると思う。
今回、わたしが感じたポイントはふたつある。
ひとつは構想力についてだ。卆計は構想ー調査ー設計ープレゼンの4つの部分からなる。これらがスムーズにつながるのが理想だ。もっとも難しいのは調査から設計への移動である。この移動こそ構想力とかイメージ化とか呼ばれるものだ。
今回学校賞となった陶芸家博物館では調査で得た陶芸家の4つの作風の変遷をもとに4つの建物のイメージを構想した。調査から設計の移動がきっちりつながっている。
この移動部分はもっとも個性が出るところだ。こうでなければならないというものはない。思うとおりにすればいいのだがそれがかえって難しいところだ。人がなんと言おうと自分はこれでいいんだという勇気がほしい。
もうひとつは設計のテクニカルなこと。設計は分節された各機能を繋ぎ合わせることだ。その手法は千万とあるがもっとも簡単なのは廊下を個性化させることだ。
たとえば廊下が中庭に面しているとか廊下がトップライトのある吹き抜けに面しているとかがそうだ。そうした機能とは関係のないものを動線に付け加えることでプランは見違えるほど活きる。建築とはそうした無駄な部分こそ楽しい。みんなも一度試してほしい。
過去のメモは次のとおり。
2016年度卒計展メモ http://www.tukitanu.net/2017/03/2016-0dce.html
2015年度卒計展メモ http://www.tukitanu.net/2016/03/2015-f857.html
2014年度卒計展メモ http://www.tukitanu.net/2015/03/post-6841.html
2013年度卒計展メモ http://www.tukitanu.net/2014/03/2013-8a55.html
2009年度卒計展メモ http://www.tukitanu.net/2010/03/post-a58f.html
< 個別に >
【 建築科 】
祭りを継承する場 ★
甲賀町に祭りの継承を支援する祝祭場の計画。桟敷のほかに広間、調理場、こどもの遊び場などが設けられている。コミュニティキッチンのような日常的な使いかたを想定しており、祝祭日には祝祭支援施設となるという二重計画が優れている。また木組みを見せた長屋根の途中に大屋根を組み合わせたセンスも高い。
美山のサイクリングロッジ
廃校となった小学校はいまは音楽祭などに活用されている。その隣接敷地に宿所を計画して廃校再生を強化した計画。音楽祭以外ではサイクリングに訪れる観光客の利用を想定したのがおもしろい。
繋がる銭湯
東本願寺の宿坊に隣接して銭湯を計画した。宿坊宿泊者専用ではないところに本計画の特徴がある。湯治場に見られたような連泊者同士や地域とのコミュニケーションの場となることをめざしている。手描きの図面がよかった。
路地奥の空洞 ★
東山区の密集地にある路地奥の空き家群を改修してシングルマザー向けのシェアハウスを計画した。減築を主体として住環境の改善と防災機能を向上させた手法がよくできている。
陶芸家の美術館
陶芸家加茂田章二の生地岸和田に美術館を計画した。溜池と川とのあいだに広がる公園を敷地とし、彼の作風を4期に分けそれぞれの特徴をヒントに4つの建物を設計した。建築イメージを作風の変遷という非建築的なものから引き出したところがおもしろい。
商店街にある図書館
岡山県新見市の敷地に川に面した大きな開口のある図書館を計画した。天井の高い内部に自習室や会議室など小部屋のボックスが散在する計画がおもしろい。
アーティストの集い ★
駐車場となっている京都二条城前の街区に路地を復活させて芸術家長屋を計画した。失われた路地を再度復活させたのが本作品の特徴だ。その発想がおもしろい。1階は工房と展示、2階は宿所と明確にゾーニングされているのもよい。分かりやすい軸組もよくできている。
集いの場 ~近江鉄道高宮駅の設計~
ライブハウス、カフェ、ライブラリー、こどもの遊び場を駅舎に複合させた。そうしたものが組み合わさって駅に新たな機能が与えようとする発想がよい。
亀岡の農村ホテル ★
緩やかな傾斜地の棚田に高床式のロッジを点在させた。模型が楽しい。高床の農村風景はアジア各地に見られ、日本の舟屋などもその系統であろう。そうした風景を都市近郊の農村を敷地として再現するという構想力がおもしろいし優れている。
歴史を学ぶ資料館 坂本郷土資料館
比叡山のおひざ元、坂本ケーブル駅前の郷土資料館。RCながら屋根をかけて景観へ配慮した。玄関ホールの吹き抜けを中心とした手堅いプランをまとめた。現場をよく観察しているのが計画からよく分かる。
南陵町の大きな庇 ~地域の人が立ち寄る場所~
新興住宅地の小公園にコミュニティキッチンを作る計画。新興木構造風の木組みがおもしろい。野菜を売ることと、それをその場で料理することを繋げた発想が秀逸である。
自然を感じる施設 ~子どもの発達と安全を見守る~
別府湾に面した海を見下ろす斜面に児童用の合宿所を作った。津波時の避難所としても使える仕様となっている。4つの建物を斜面に点在させ、建物間の空地を遊び場として設計しているのがおもしろい。
まちの駅 ~城下町にある衰退した港の新しいスタイル~
滋賀県高島港に面した観光案内所の計画。中庭がありそのまわりに回廊とベンチを巡らせた構成がよくできている。
喜多川の記憶を残す博物館
旧西陣小学校跡地に2階建ての博物館施設を設けた。ピロティ上に細長いボックスの載るインターナショナルスタイル。屋根が水平ではなく中央から両端へ伸びやかに上がっていく形がよい。外構を石畳としたのも白井晟一を思わせておもしろい。
平城京図書館
平城京跡を青空図書館として使う計画。添えられたスケッチが楽しい。
大野市の伝統と歴史を知るための施設
福井県大野市の博物館計画。1階がレストランと物販、2階に展示施設をまとめた。中央に吹き抜けを設けて動線を集約する設計が手堅い。全体がガラス張りとなっており2階展示室へは外周回廊から入るプランもおもしろい。
堀川団地リノベーション
歴史調査が行き届いていて楽しい。既存に増築して現代的な集合住宅を計画した。もともと3間×3間という小さな住戸だったことに驚く。二畳分のミニマムキッチンはコルのユニテのまねだと思う。
外部ー個室ー共有部 オ茶屋的共同体
遊郭の一部を取り込んだワンルームのシェアハウス計画。個室が奥にあるのではなく、個室の向こう側に共用部分を配した計画が秀逸だ。その着想を新しい共同体の提案につなげようとした。暗い大きなボックスのなかにタコ部屋のような最小限2層のボックスが林立する風景もSF的でおもしろい。
木工チーム
町家の改修実習。調査、一部解体、基礎補強、木工事と全ての手順を学んだ。ジャッキアップの軽量化のために瓦を降ろした。ジャッキアップして根継ぎをするというフルコースである。わたしも一生に一度はジャッキアップを経験したかった。うらやましい。
【 建築科2部 】
繋がる学び舎
岐阜県瑞浪市の斜面に計画された中学校。階段広場を校舎の内外に設けてコミュニティスペースとしたのがおもしろい。
CROSS 交差・交流・記憶するコミュニティスペース
寺町通りと新京極通りにまたがる三角広場ひ新たに立体ポケットパークを設けた。螺旋状に登っていく人工地盤でちょっと不思議で楽しげな公園になっている。
次の風景
植物工場の修景計画。何種類かの鉄パイプ部材を用意し、それを組み合わせることで大小さまざまな形態を作ることができる。風や雪によって形態に地域差が出るなど芸がこまかい。農業と風景の関係を考えさせてくれるおもしろい計画だ。
地域活性化と京都YOSAKOI 学生とともに育てる地域
堀川七条の敷地にステージ、練習場、展示施設など多様な機能を手堅く納めている。舞踏や演劇などもそうだが練習場不足は深刻である。そこに焦点を当てたところがよい。
コミュニティセンターを併設した南丹市立美山小学校
3つの教室を合わせたT型平面建物を回廊でつないで中庭を設けた。ランチルームがコミュニティキッチンの役割を果たしている。各機能を分節したうえで、中庭、回廊、ランチルームなどの中間的領域で再度繋ぎ合わせようと腐心しているところがよい。
MoMAiK Museum of MAGRITTE Art in KYOTO
マグリットの4つの絵画をテーマとした仮想空間の設計。八瀬遊園跡を敷地として広場に4つの球体を転がした。各絵の特徴をもとに内部を迷路化や透明化で差別化している。球体と幾何学的なプランがルドゥを思わせておもしろい。
京都外大西高校
スポーツの盛んな高校の設計。アリーナ、武道場、部室棟が中央のホールでつながるプランがよい。先の美山小計画もそうだが、機能を繋ぐあいまいな領域こそ建築が生きる場所だとわたしは思う。
URBAN COMPLEX TOWN HOUSE
葭屋町校舎のリノベーション。南教室を風呂屋にして地域に開放したのがおもしろい。
本阿弥光悦記念館
展示室を計画するだけではなく展示計画まで作り込んだ力作。こういう卆計は見たことがない。エントランスホールから中央吹き抜けトップライトの階段を降りていくドラマチックな構成もよい。
京都文化劇場
北山の府立総合資料館跡地に劇場を計画した。500席の大ホールと50席ほどの小ホールを組み合わせている。動線の多い難しい設計をよくまとめている。こういうプランは真ん中に中庭を作りそこへホワイエを向ければすっきりまとまる。
Klimtの世界
新潟県阿賀野市にクリムトの美術館を計画した。配置図や断面図をクリムト風の油彩で描いた力作。こんな卆計も初めて見た。とてもおもしろい。平面の多角形プランはクリムトの絵の背景にある幾何学文様から着想を得たのだろう。そこもよくできている。
崇仁地区芸術の街計画 ~負の遺産に新しい風を~
300席の大劇場と4つの小劇場のコンプレックス。高瀬川をまたいた大劇場のアプローチがおもしろい。流れに面したカーテンウォールのホワイエがよくできている。
| 固定リンク
「講評」カテゴリの記事
- 2018年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ(2019.03.11)
- 摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2019.02.16)(2019.02.16)
- 2017年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ(2018.03.04)
- 摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2018.02.25)(2018.02.25)
- 摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2017.02.13)(2017.02.13)
コメント