2016年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ
今年もなかなか楽しかった。試行錯誤や逡巡するようすが図面の隙間からよく見える。その迷いや苦労が今後の糧となるのは間違いない。よいものを見せてもらった。ありがとう。そしてご卒業おめでとう。
<全体として>
今年は田園都市風が陰を潜めてインターナショナルスタイルが散見された。どっちにしてもモダニズムの呪縛がら解き放されないのがもどかしい。わたしはその呪縛を伝統木構造の考え方が突き破ってくれると思っている。
昨年の講評で卆計を要領よくやるコツを披歴した。それを読んでくれたわけでもなかろうが、今回は全体によくまとまって昨年よりも図面が揃っていた。よくがんばったということだろう。
建築科2年の作品に関しては一存で恒例となっている円満字賞を出した(★のもの)。講評会に参加してくれた受賞者には賞品を贈った。
<個別に>
(建築科2年)
湖の学校
現在琵琶湖を周航している湖上学習船の母港の計画。桟橋に配した諸施設と停泊する船を覆う大屋根を架けた大胆な構成をしている。宿泊、食堂、展示室、展望台など諸室の選定が的確で大きな施設を具体的に計画する力がある。ロシア構成主義のように大屋根に諸室を吊り下げるスーパーストラクチャーを連想したが、わたしはこまごまとした諸施設を大屋根をかぶせて統一感を出すこの作品の手法もおもしろいと思う。
団栗橋の床★
鴨川に架かるどんぐり橋を2階建てに改造する計画。2階は図書館となっている。骨組みを見せる姿が美しい。橋は好きで自分でも考えることがあるが、他施設との合成は考えたことがなかった。着眼点がおもしろい。街並みのスケールに合わせて切妻屋根をふたつを並べたデザインが出色だ。そのおかげで木屋町筋と宮川筋とが違和感なくつながった。橋は水上の都市門でもある。鴨川をさかのぼって入洛するなら、これはなかなか楽しい門となるだろう。
つむぐ★
京都市伏見区の母子生活支援施設。閉鎖的な居住施設とオープンな広場を中間的な支援施設でつないだもの。居住施設には屋根を載せず目立たないよう配慮されている。支援施設は中庭を囲んだ形で修道院的な互助のイメージがある。その前の広場はある種の祝祭広場ではないか。社会的な課題を突き詰めると、中世的な都市の元型に行きつく結論がおもしろかった。
学びの村
京都市内にある木造小学校。中庭を囲んだプランをよくまとめている。フリースペースを設けたオープンスクール形式を一部取り入れている。風車型の窓が印象的で楽しい。図書館の吹き抜けの閲覧室も木造らしくて気持ちがよい。
NIGHT LIBRARY★
四条通りの阪急地下道にある夜間営業の図書館。終電に乗り遅れてもここで時間を過ごすことができる。この敷地は阪急が地下街を計画したが地元の反対でとん挫し、地下道だけが残ったものだ。なにより驚いたのは地下道の横に幅5メートルくらいの余地があったこと。街の隙間をよく見つけたものだ。終電に乗り遅れものたちの世界というものが確かにあるが実態を持っていなかった。それを建築化した作品とも言える。おもしろい。
ルカップ★
京都周辺の山上にある天体観測施設。斜面に宇宙船が着陸したような形をしている。星形をイメージした平面を吹き抜けで上下をうまくつないでいる。斜面に対応したような斜めのガラスウォールも利いている。なかなか楽しい設計である。
旧市街地の街の活性場★
福井県武生駅前の空き地を利用したコミュニティ施設。単純な格子状フレームを平面的にも断面的にも「抜け」を作って的確に「場」を作っていくのがおもしろい。1階の吹き抜けピロティは朝市も開けるフリースペースだが、そこに暖炉がわりの大きなキャンプファイヤーを設けているのも楽しい発想だ。そこは吹き抜けの外部となっており、吹き上がる火の粉と舞い落ちる雪の交差する風景が目に浮かんだ。よい計画を見せもらった。
Field House
農地のある介護施設。農作業と収穫物の調理を介護の主軸に据えた視点が中世修道院的でとてもよい。プランは諸室を単純な2階建てラーメンに手堅くまとめた。回廊などの内と外との中間的な場所を付け加えてはいかがか。
シニアカレッジ★
奈良県にある溜池公園の老人大学。スーパーストラクチャーが美しい。インターナショナルスタイル風の構成もうまい。水上の展望台もおもしろい。全体が土手の下に入っており地底都市のような、もしくはエジプトのアブシンベル神殿のような風景が抜群におもしろい作品だ。
ゆ、地域のお年寄りのために
京都豊国神社前のコミュニティ銭湯。景観に配慮して和風の外観だ。風呂場とコミュニティスペースを中庭でつないで手堅くまとめている。施設を街へ開く冒険もしてみてはいかがだろうか。
向日町広場
京都府下の小さな町の大型スーパー跡地に建つ高齢者サービス付きマンションと市場。高齢者向けの施設と市場とを組み合わせた発想がよい。コンパクトにまとめられた居住棟とそれに向き合うアーケード付きの広場のシンプルな構成もよくできている。
美人の湯★
京都市の夜景の見える山腹にある女性専用の入浴施設。さまざまな機能を分節して、それを渡り廊下でつないでいく構成が出色だ。難しい構成をうまく取りまとめる確かな設計力がある。ここが夜専用なのは、眠りが人を再生させることを連想させる。湯治が命を再生させた湯の峰温泉の神話を思い出した。
京都和束ホテル
茶畑のなかのグリーンツーリズム宿泊施設。ローマの近代合理主義建築EURを思わせる連続アーチが印象的だ。ヴォールト天井がそのまま外壁のアーチとなっているのがおもしろい。茶畑のなかに埋設して、ヴォールトそのものを構造体にしてはいかがだろうか。
田舎の映画村★
名画座のまわりに散開するシアタールーム。まちのなかに潜みながら界隈をつくる発想がおもしろい。ひとつひとつは目立たぬよう手堅くまとめたセンスもよい。設計力がある。
生水荘(しょうずそう)★
琵琶湖西岸のグリーンツーリズムコテージ。農地と村との境に立地。街並みのスケールに合わせて諸機能を分割配置する確かな設計力がある。野菜を洗ったりするような川端(かわば)と呼ばれる水場を各居住棟に再現しているのがおもしろい。風呂場からの眺めを考えるなど、細部にまで楽しさがあふれている作品だ。
(建築2部2年)
湖畔の図書館
琵琶湖畔の図書館。吹き抜けの閲覧室を中心とした手堅い設計。機能と機能をつなぐ中間的な「間」の部分をもっと取り入れてはいかがだろうか。
高齢者住宅と保育所の世代間交流施設
高齢者用住棟は大屋根の下に2階建て住宅がはまりこむドミノ式となっている。中庭を中心として保育所と向き合っており、その中間に印象的な円錐形屋根のコミュニティキッチンを据える。中庭は農地となっており、耕作と調理とをテーマに世代間交流をはかるという発想がおもしろい。
発禁本歴史図書館
アスプロンドのストックホルム図書館を思わせる円形閲覧室が出色だ。天井ドームのトラスがよくできていて美しい。発禁本というテーマと建物、京都市岡崎公園という敷地と
建物との関係をもう少し押し出してはいかがか。かつで岡崎公園で黒田清輝の裸婦画問題もあったことだし。
Happi Richi園舎
明石海峡を望む兵庫県須磨の幼稚園舎。斜面をうまく使った計画で、どこからでも海が望めるようになっている。手塚の「ふじようちえん」を思い出したが、デザインはむしろインターナショナルスタイル風でうまいと思う。
自然科学博物館
霧島山を望む場所に建つ霧島をテーマとした物館。複数動線の処理にてこずったようだがよくまとめた。霧島の見せ方を工夫していておもしろい。筒状の展望台のデザインが出色だ。この展望台を中心に据えて考えてみてはいかがか。
故郷に再建する小学校
山間部の小学校跡地に再建する小学校計画。川の屈曲部というおもしろい地形に合わせて円形プランを使った野心作。斜面もうまく利用している。設計力ありと見た。もう少し造成を細分化してはいかがか。
地域力を育む市庁舎
泡状平面でイタリアのアルベロベッロを思い出した。アフリカサバンナ地方にも同様の泡状プランがあるね。ここでは組積造の代わりにガラスの曲面ガラスを使って軽やかに仕上げた。なかなか楽しい作品である。円形プランは難しいのだが、それをうまく使いこなすだけの設計力がある。
美術公園
エッシャーの作品を建築にしたらどうなるのかがテーマの地下美術館。絵にあるとおりの連続アーチのフレームのなかを縦横無尽に階段が交差する。エッシャーらしいだまし絵的な地下迷宮を創り出すことに成功している。うまいと思う。
鎌倉歴史文化館
鶴岡八幡宮前の展示施設。サンクガーデンを囲んだ展示室を中心に主要施設を地下として地上のボリュームをしぼり、周辺景観との調和をはかった。中庭プランとしたおかげで各棟の幅が狭くなり、結果として屋根も小さくてすむという効果をもたらしている。したたかな設計だ。池の上の茶室や水の下の石庭など遊び心のあふれる楽しい作品だ。どことなく吉田五十八や大江宏を思わせる大人びたデザインなのもおもしろい。
宝ヶ池フットボールスタジアム
手堅くまとめている。もう少し構造を自由に考えてはいかがか。そうすれば構造から風景への展開が始まると思う。
森の図書館、水の美術館
大坂天王寺の文化系コンプレックス。高さを押さえた渋いデザインで、日本の1960年代構造主義建築を思い出した。平面は吹き抜けを使ってうまくまとめており手堅い設計力があるのが分かる。
(建築科1年)
宝ヶ池に浮かぶ美術館
八つ橋のような桟橋上に点在する展示室。湖面に逆さになって映り込む姿と合わせて見れば不思議なおもしろさがあるだろう。全体は木質系の仕上げになるのではなかろうか。
三条の美術館
京都三条小橋畔の小美術館。水面からの反射光をうまく取り入れた作品。一部を斜めにしたプランも嫌味なくうまくまとめている。現在ここに建つタイムズビルはベネチア的な迷宮都市の楽しさがあるが、それはこの作品からも感じる。施設をいくつかの部分に分け、それらの隙間をうまく利用すれば楽しい迷宮となるのだろう。
池の森の美術館
北海道の牛舎建築を思い出した。雪深いため1階の牛舎はコンクリートブロック造で、その上に新興木構造のトラス屋根の干し草置き場があった。あのような美しい建築に対するリスペクトを感じさせる楽しい作品である。
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