帝塚山大学居住空間デザイン学科卒業制作展 感想メモ(2017.02.20)
友人のオカダハルコ氏が指導するゼミの卒業制作展を見てきた。なかなかおもしろかった。思っていた以上に真摯に建築と取り組んでいることがよく分かった。設計や模型作りに苦心していることもよく分かった。この苦心や苦労は必ず明日の糧となる。卒業おめでとう。
<全体として>
空想系なのか現実路線なのか判然としないものが散見されたので、そこのところははっきりさせておいたほうがよいと思う。
それから円形プランには注意したほうが良い。これはユング風にいうと、混迷したときに心の奥から現れる自己の象徴みたいなもので、それに飲み込まれてしまうと設計が止まってしまうからだ。
あとは、模型は無くてよいと思う。その分設計を進めたほうがよいのではないか。模型を見ても分からないし、そのところの図面もないというのが見ていて一番困る。平立断が揃うことは模型よりも優先されるだろう。まあ、図面が揃っていないというのは他大学でも同じような状況なのだが。
<個別に>
廃校コンヴァージョン
廃校となった山村の学校を体験型学習施設として再生する計画だ。大きな模型でインテリア計画がよく分かる。昔の教室を一部再現し「癒しの場」としたのがおもしろい。記憶が癒しに繋がることをよく見ている。それは廃校をたまたま空いているから使ったのではなく、そこに地域住民の記憶の集積体であることに気づいている証しだ。
ティアハウス
捨て犬やネコの殺処分がドイツではゼロなのだそうだ。拾われた犬やネコなどの新しい飼い主をコーディネートする施設をティアハウスというらしい。人と犬と猫の領域を設定し、それらがお互いに交わったり繋がったりする設計がよく練られていておもしろかった。インターナショナルスタイルなのは流行りなのだろうか。それもよく自分のものとして表現している。
ペット共生団地再生
五百分の一の模型が分かりやすくて良かった。既存団地の一部を残して残りは建て替えて、新旧の住棟を空想的な空中歩廊で結んだ楽し気な計画だ。残した既存住棟まわりを広場化して、新たな人とペットの動線を生み出したのはうまいと思う。
STAY-TION
兵庫県の芦屋駅の新築計画。STAYをキーワードに図書館や空中庭園などを配した計画だ。線路の上なので敷地が細長くなる。それをうまく分節してつなげていく確かな設計力がある。吹き抜けや歩廊などで視線の交流があり、それをうまく繋いでいくのがおもしろかった。
(捕捉)
空想系なのか現実路線なのか分かりづらいので講評しづらかった。現実路線であれば、駅は他交通手段との乗り換え場所なのだから、徒歩、自転車、バスなどとの連携をもう少し明確にしたほうがよいだろう。空想系なら大型飛行艇の係留所など加えてもよいかも知れない。
水際への招き
大坂中之島の回遊型水上バスによる水上都市復権計画。空想系かと思うと大間違いで、れっきとした現実路線である。水質浄化を考えた水際緑地の併設などよく考えられている。デザインも曲線を使った自由な形態だが、その実中身はしっかり設計されている。なにより水上都市の復権という視点がよい。
響
松江市の湖畔の音楽ホール計画。まじめで実直な設計でよくまとまっている。エントランスホールの曲面ガラスウォールが見せ場だが、中の階段の位置と傾斜、そして天井高さなど破たんなくまとめている。
(捕捉)
他にも散見したが、円形プランはあまりおすすめできない。設計していて円が出た時点で自分は煮詰まっていないか確かめたほうがよかろう。
図面で分かりにくかったのは敷地状況と建物との関連だ。とくに湖との関係が分かりにくかった。水上からのアクセスも考えてよいかも知れない。
マチの巣
大阪阿倍野を敷地とした、新旧の街を繋ぐ分散型の施設配置計画。集中型ではない新しい再開発手法の提案と言ってもよい。図面が無いのでどんな施設をどこに分散するのかよく分からなかった。中心的な少し大きな施設は、周辺の細々した町のスケールに合わせて低層でうまく納めている。安藤忠雄による帝塚山タワープラザを思い出した。
湊
神戸港に面した美術館計画。円形プランに真っ向から取り組んだ野心作だ。プランが外構の造園にまで及んでいておもしろい。バロック主義再来というところか。吹き抜けをうまく使って上下を視覚的に結ぶところ、円形プランにそぐわない部分が見当たらないところ、円形プランがそのまま立ち上がって外観を構成するところなどかなり設計ができる人だ。カフェの机やいすまで丸いのもおもしろい。
モバイルハウス
車のついた二畳ほどの小屋の実物大モデル。現代生活の余剰への反発がこの作品の動機らしい。これはなかなかおもしろい作品でふたつの意味にとれる。
ひとつは最小限のプロテクターとしての建築ととらえるもの。それは突き詰めていくと衣服になるのだが、衣服と建築の境目にありうる形態は何かということを考えさせてくれる。
もうひとつは被災時の緊急シェルターのモデルとも考えられることだ。余剰を廃した最小限のシェルターが成立するなら、生命の危機をも管理することができるだろう。おそらくそれはすでに形態だけの話ではなくなると思うが。
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