2017年2月13日 (月)

摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ(2017.02.13)

< 全体として >

 最初に断っておくが、わたしはこれを下級生と常任の先生方に向けて書いている。ぜひ参考にしてほしい。

 過去分はこちら
2015年度 http://www.tukitanu.net/2016/02/20160213-3acd.html
2014年度 http://www.tukitanu.net/2015/02/post-ce7b.html
2013年度 http://www.tukitanu.net/2014/02/post-ce7b.html

 さて、私たちは1年担当なので3年ぶりの再会だ。この学年は1年のころから仲良しだった。講評会はほぼ飲み会なのだが、これほどワイワイ騒いだ学年は今までなかった。ノリの良いことは大事なことだ。とても楽しかった。ありがとう、そして卒業おめでとう。

 昨年に引き続き今回も完成度は高かった。昨年から実施している提出日を前倒しにして展覧会までに密度を上げる本多方式がうまくいっているのだろう。図面や模型がほぼ仕上がっているので見やすかった。いくつか感じたことがあるのでメモしておく。

 空想系が多いのが目立つ。わたしは空想系は増えてほしくない。なぜなら空想系はとかくプレゼンのテクニックが取りざたされて、その建築の中身を問うことがおろそかになりがちだからだ。かつて武田五一が学生にゴシック様式を禁じたのに似ている。ゴシックが悪いと言っているわけではない。当世流行もののコピーは、学生当人の建築の本筋から逸れやすいきらいがあるのを厭うのだ。

 夢のなかで建築を語るのが空想建築だとすれば、現実のなかで夢を語る現実設計の手法も悪くないと思っている。これまでの空想率は次のとおり。こうしてみると最近増えたわけではなく、最初からそれなりに多かったのが分かる。

[ 空想系率 ]
2016年度卆 33の内7 21%
2015年度卆 27の内8 29%
2014年度卆 17の内7 41%
2013年度卆 14の内4 28%

 今年は田園都市系が見当たらなかった。あれだけ流行っていたのにどこへ行ったのだろう。そのかわりインターナショナルスタイルが目立った。田園都市にしろインターナショナルスタイルにしろ、そこにどんな政治的メッセージが込められていたかを知って使っているのだろうか。

 フィリピンワークショップの白鳥研が良かった。現地での交流と苦労と笑いがよく伝わった。やっていることがおもしろいし、なにより楽しそうだ。言葉が通じなくても建築を通して心を通わせることができる。これは建築教育の本流ではないかと見ている途中で気がついた。遠いのでわたしは参加できないが応援したい。

 今年は円満字賞を8本も出した(去年は4本)。なお、賞に選んでいたが他の賞をもらった人や講評会に来れなかった人には商品を出していない。だから本当は13本ある。これくらいがちょうどいいかも知れない。

 展示はデザインも手際も格段に良くなっていて、吉川さんの考えた展示スタイルの種が稲地さんや川上さんの力添えで育っていると感じた。しかもこの学年は仲良しで知られているわけだから、さぞ楽しくやりとげたのだろうと推察する。講評会という名の打ち上げ宴会は途中から学生が進行してくれた。こういうのは初めてだったが良いものだ。友達は一生ものだ。大切にしてほしい。


< 個別に > 順番は見た順、★が円満字賞、二つ目の星は個人的な好み

帰りゆく場(空想系)
 東寺門前の街のなかに空海記念館を計画。ふたつの敷地を地下道でつなぐ。最初の敷地は散りばめられた光の破片がふりそそぐ密教的荘厳をよく表現していた。地下道という眠りを超えて次の敷地の瞑想場へ至る構成もよくできていた。繊細なイメージをまとめるねばり強い構想力がある。

東近江市新菜の花プロジェクト
 菜の花畑の循環型農業計画。こういうのはこの学科初めてではなかろうか。その地域の菜の花栽培のフィールドワークが緻密で楽しい。菜の花は連作障害のため3年に1度がよいそうだ。幕末に大坂の大和川付け替えで生まれた広大な農地がほとんど木綿と菜の花になったことを思い起こす。歴史的風景の再現が地場産業新興のレベルからコミュニティ再生につながる視点を内包していて楽しい計画だ。

返り咲くSacay(空想系)
旧堺港を取り巻く芸術と工芸のための施設。茶、刃物、和さらし、三味線など堺の歴史的特性がテーマだ。既存高速道路にまとわりつくような不定形なガラス張りのギャラリーが出色だった。杉山先生はここを敷地に選んだ慧眼を褒めていた。

誠の外に建築なし(空想系)
 俳人・上島鬼貫の記念館を生地である兵庫県伊丹市に作る計画。現敷地にある銀行支店も含めるなど小規模再開発の手法をとっている。大枠のカゴのなかに別構造の床や空中歩廊を内包するポンピドゥーセンター風の外観だ。格子状の壁面やガタガタしたガラスウォールなどさまざまなデザインが集まっている。そのひとつひとつが鬼貫の俳句が元になっている。今風の小規模再開発かと思っていたがそうではなく、文学の建築化という空想系の王道だった。おもしろいしよくできている。

学びの街
近鉄奈良駅から奈良町への観光客を誘導する回廊をデザインした。町の空地に藤棚が散在し、旅行者のための施設となっている。それをたどることでタウンツーリズムを楽しむことができるという仕掛けだ。分散と回遊を通して地域特性を明らかにしていくという考え方がおもしろい。

三木総合防災公園の利用促進
 宿泊、防災教育、運動の複合施設の計画。溜池に面した細長い傾斜地が敷地だ。バリバリのインターナショナルスタイルだった。それがそこそこよくできていて設計力が高いことがよく分かる。

家物語(空想系)
 1975年築の民家を今後60年にわたり使い続けるシミュレーションモデル。2世帯で考えており、使わない部分はストラクチャーをむき出しにしておいて世帯をわける干渉地とする。この作品は現実的なシミュレーションではなく、都市をスクラップアンドビルドすることなく更新していくとどうなるかというイメージモデルだ。都市更新のイメージのひとつとして意義がある。

未来につながる建築(空想系?)
 生駒山上の美術館構想。仮面のようなシェル構造のなかに空中歩廊が内臓されている。空想建築なのかどうかわからないので評価に困った。もう少し「言葉」で説明してもらえると分かったかも知れない。現実設計として見るなら、柔らかいシェルと時計細工のような空中歩廊のとりあわせはうまい。尖りつつもデリケートな作品であり間違いなく設計力は高い。でもやっぱり空想系のような気がする。

パーキングエリアでの休息の在り方(空想系?)
 レストラン、物販、トイレ、情報などの既存PA機能に、大浴場や仮眠スペースを大胆に取り入れた計画。内容が現実的でありながら人工地盤で覆うという空想建築の手法を使ったのはなぜだろう。この計画の秀逸なところは地域特性を「星空」「自然の音環境」「霧」と的確に選び出したところにある。現実路線でいくなら、たとえば森林のなかの空中歩廊のような軽やかなものになるのではないか。

※ 注意点 以前から言っているが、草案段階で地に潜ったり円形プランが出たりするのは行き詰っている証拠だ。ユングを読めば地下と円プランは考え過ぎた時に出てくる図像なのだということがよく分かる。重々注意したほうがよい。

★★長田区の近未来
 衰退する地域の再生を旧参道を軸として考えたところがポイントが高い。街路と水路はその地域の骨格であり、町のアイデンティティを残したまま再生するなら街路と水路の復活が妥当で手っ取り早い。旧参道のまわりに諸施設を散在させる。その施設が「穴場の駄菓子屋」「交流の風呂場」など「ああ分かるそれ」というしかないほど的確だ。既存の町中に物語を仕込む才能がある。こういう人が町づくりをすれば住民も楽しいと思うし成果も上がるだろう。今年度でもっとも楽しい計画案ふたつのうちのひとつだ。

国際交流を促進できる宿泊型シェアハウスの設計提案
 タイトルが長い上にあまりうまくない。インターナショナルスタイルなのが気になるが、変則三角形敷地に宿泊棟を二棟並べてそのあいだに共用部分を配置する平面計画から手堅い設計力が備わっていることが分かる。フリーな青物市場が中央にあって、そこで国際と地域との二重の交流が行われる食文化コミュニティマーケットが本来の構想ではなかったか。

山の中の建築(空想建築)
 地底美術館計画。バリバリのインターナショナルスタイルでよくできている。このまま外観を与えて湖上に浮かべても違和感ない。せっかく設計力があるのになぜ地にもぐるのか。わざわざ空想建築にする必要はなかったのではないかと思う。

《寝る》をつくり出す
 タイトルが悪い。これは難民救難もしくは被災地支援のための装備開発の計画だ。建築は究極的にこうした人体のプロテクターに還元されるというのは、環境工学とデザインの融合をうたう住環境学科ならではの発想だと言える。ワークショップアーチストの吉川さんがこれに賞を出したのもおもしろい。分かる人には分かるのだ。

遍路の道
 善通寺門前の巡礼者のための施設計画。お接待文化に温泉を融合させている。3階建の施設に多用途をまとめる確かな設計力をもっている。この計画に関しては二棟を大屋根でひとつにまとめるよりも、ふたつを5つくらいに細分化して街の既存建物のスケールになじませる方法もあったと思う。全体に部分を組み込む力があるので、今度は部分をつなげて全体を構成する設計にも挑戦してみてはいかがか。

五感で感じる商店街(空想建築)
 大坂の文の里商店街が敷地。肉屋だけを残して他を更地とし、そこに牧場や屠殺場を再現する。流通の向こうで見えない現実を可視化する計画だ。なにげない現実のなかに突如現れた非現実のなかにこそ本当の現実が見えるというアイロニーだ。おもしろい着眼を持っている。アイロニーに終わらせるのは惜しい作品だ。たとえば商店街は今のままあって、肉屋だけが肉屋劇場になっていて、そこで夜な夜な肉屋劇が行われるとか。それが宮沢賢治の熊祭りのようなものであるとか。そんな文学的な何かが加わればもっとよくなったと思う。

団地×美術(空想建築)
 これは賞を出すかどうか迷った。地底美術館さえなければ間違いなく賞を出した。出色なのは既存団地を増築してエレベータを新設する手法だ。ああなるほど、この手があったかと眼からウロコだった。既存団地は上に足すとか横に足すとか、まだまだいろんな手法を試すことができる。その増築した部分に美術館だろうがケアハスだろうがなんでも付加できたのではないか。

未来への道しるべ
 津波の避難所を兼ねた宿泊施設の計画。宿泊者がいるなら地域住民の避難所に使えないだろうと思ったが、実際は被災地域の民間宿泊施設はすべて避難施設として設定されているので問題はない。棚田を活かした集落計画となっていておもしろい。調理場と浴場が中心になっているのは被災地や難民キャンプをよく見ている。

注意点 自然なかたちの等高線上にいきなり四角い施設を配置するのは違和感がある。そのギャップを見せたいのなら構わないが、そうでなければ等高線を多少造成するか施設を浮かせて等高線との縁を切れるなどひと手間ほしい。

観光の帯
 市民ガイドとタウンツーリズムの融合した地域再生計画。運河沿いのカフェ、工芸体験所などを配す。敷地が広すぎた感あり。おもしろいのは縁側やウッドデッキといった中間領域の設計力があること。学生でこれだけできれば立派だ。空想建築とは別の夢のある設計だと思う。

★★
 最初から賞を出そうと思っていた。この学年でもっとも構想力があると思う。おそらく非常勤の先生がたがもっと出席していれば私が賞を出すまでもなかったろう。玄人受けする実力がある。自信をもってほしい。
 広島の既存の豪華客船桟橋のリデザインで広島観光の拠点として路面電車の停留所や小規模観光船の発着場などを取り込んだ計画だ。伸びやかな大屋根の下に空中歩廊とデッキを納めたものだが、コアの置き方、吹き抜けの取り方などがよく考えられていて見ていて楽しい。総ガラス張りの壁面から見える日常的な風景や、そこへガラガラと入ってくる路面電車など、建築的な楽しさにあふれている。建築を「内側」から構想できる力はただものではない。

★★知識の伝承
 まちのなかのインスタレーション6連作。京都府の宇治田原を敷地に選ぶ。茶どころの農村を6つの地域に分け、それぞれのキーワードに基づいた小スペースを考えた。地域特性をキーワードに変換するのがうまい。さらに、それを難なく形に再変換する力が尋常ではない。見た目のほんわかした雰囲気に騙されそうだが、これはけっこう危ないほど切れる設計者だ。今回楽しかった計画ふたつの内のひとつである。

人を繋ぐ土間
 これはぜひ私が評価したかったので円満字賞発表のラストに選んでおいた。今後、木造が再評価される時代が来るだろう。それに応えてくれる作品は少ない。作品は京都府亀岡に学童保育と地域カフェを組み合わせたもので、細長い城下町敷地にほぼ町家プランを踏襲した平面を計画した。吹き抜け土間が気持ちよい。見ただけで軸組図がわたしには描けるし、地元の棟梁なら意気に感じて土間に見事な架構を組んでくれるだろう。そんな現場が想像できる楽しさがこの作品にある。本多先生も褒めていた。

学びの商店街
 大阪府の花園のコミュニティ再生がテーマだ。空想建築風の形に目が行きがちだが、それはこの作品においてさほど意味はない。この作品の評価すべき点は地域コミュニティ再生のために商店街と小学校を融合させたところにある。60年代のアメリカでは都市荒廃のなかで孤立する言葉の不自由な移民を救うプログラムが教育と医療の分野で始まった。この作品は当時のアメリカの教育NPOの活動と重なる。地域を読み込みそこへ必要な施設なり施策を重ね合わせる確かな構想力がある。

観光地を結ぶ宿泊施設
 近江八幡のロープ―ウエイ下に露天風呂と美術館を併設した宿泊施設の計画。斜面なので斜行エレベータが上下する。上施設が円形プランを用いながら破たんなくまとめていることから設計力があるのは間違いない。本人から説明してもらえればもっとよく分かったかも知れない。

★★「まち」の共有
 大阪府茨木市のコミュニティ再生計画。ひとつの輪になる4つの商店街に空中歩廊を巡らせて空き家2階の再利用を促進するというアイデア。4つの地域特性に応じた広場と高楼を計画する。地域特性の抽出が「保育」「学び」「森」「住居」とバラエティに富む。30年後、60年後には地域特性に応じた個性的な町に変化するだろうという長期的な見通しを持つのがこの作品のもっとも大きな特徴だ。そのために建築家の仕事はあくまで控えめで地域住民の創意工夫の余地を最大限に確保している。その潔さが好ましい。
 本多先生が塔は我が町を俯瞰する第2の視座を住民に与えるものだと仰っていた。なるほど。

割竹による構造体の研究開発(フィリピンワークショップ)
 被災者のシェルターを現地の素材で作ろうというもの。竹を饅頭型に組んでビニルシートを被せるもの。おもしろいのは、シートと工具を揃えて袋に入れたセット。これを現地へ送れば被災者自身が組み立てることができる。その考え方そのものが作品である。

バンタヤン島におけるEarth Ovenの開発研究(フィリピンワークショップ)
 現地の素材でピザ窯のような薪オーブンを作るもの。ココナツヤシの外皮繊維を粘土の補強ネットに使っている。これも現地住民自らが作ることを前提にしている。地元の素材を使うのは建築の王道だと思った。

漁村グイワノンコミュニティの生業活性化提案(フィリピンワークショップ)
 移動用フロ。ドラム缶が手に入らないので、木材とビニルシートで作っている。観光用でもあるし被災時用でもある。お湯は別に沸かす。調理や入浴といった暮らしの一部分を実際に作ってみるというのがおもしろい。

竹を使った新たな打楽器「BANBO」の開発研究(フィリピンワークショップ)
 なかなかよい音が出る。トリニダードトバコのドラム缶楽器スティールパンを思い出した。スティールパンは今では多くの観光客を集める一大音楽祭に発展している。フィリピンワークショップが暮らしの一部として音楽にまで触手を伸ばしているのがすごい。

持続可能な生業に向けての改善提案(フィリピンワークショップ)
 地域フェスティバルに参加する子供たちの頭飾りを貝殻で作る。もともと土産物として地元で作り始めていたものを、製作工程の安全化や合理化を進めた。貝殻をビーズのように使って編むのだが、海洋民族の漁網文化の片鱗がうかがえて興味深い。なによりそれをかぶった子供たちの誇らしげな笑顔がまぶしい。

自然素材を用いた室内温度上昇を軽減する屋根塗布材の開発(フィリピンワークショップ)
 石灰にホタテ貝を粉末を混ぜてトタン屋根に塗り込んでいる。下地としてシュロのような縄をトタンの波型に這わせている。波型が埋まるほどの塗り厚で5度は温度が下がると言うから驚きだ。これはわたしも使いたい。

発電機能を備えた建具のデザイン開発(フィリピンワークショップ)
 被災時の仮設住宅の窓に取り付ける雨戸なのだが、風車になっていて日中はクルクル回して発電する。電球ひとつが十分に点くほどの発電量がある。風の谷のナウシカを思い出した。発電機は扇風機のモーターを再利用している。このモーターなら現地で比較的安価に手に入るそうだ。そういうことを現地で調べているというところもおもしろい。

持続可能なコミュニティシェルター(フィリピンワークショップ)
 木材を組んだ被災時の仮設住宅。その2分の1モデルが会場に据えられていた。壁は割り竹を並べている。東アジアには竹やシュロで編む壁の文化があるが、それをイメージしているそうだ。昨年もこれに似たシェルターは出ていたが、年を追うごとに民家風になっていくのがおもしろい。

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