2016年8月30日 (火)

折り入った話

 電話が鳴った。受話器をあげるのは50歳半ばになってもまだ苦手だ。20代後半で社会に出たとき先輩の「ハイ、○○建築事務所でございます」とスラスラ言うのに憧れた。「ございます」と言うのは思っているよりも難しい。言いなれないようすがすぐ表に出てしまう。だから今はたいてい「ハイ、エンマンジです」で済ましている。最近では電話の相手はたいがい年下なので謙譲語は使わなくてすむのが便利だ。

「ハイ、エンマンジです」
「あ、建築学校でお世話になっております」

 相手は、建築学校の苦労人事務長だった。年上だが、今さら謙譲語でもあるまいと思っていると、相手は謙譲語で畳みかけてきた。

「先生に折り入ってお話しがあります」

 うわ、なにこれ! 長くもない人生だが、人から折り入ったお話しをうかがった経験がない。わたしはとっさに授業を増やしてもらえるのかと身構えた。でもその折り入った話は同総会誌にエッセーを書いてほしいということだった。期限が短いので低姿勢のお願いになったようだ。わたしはがっかりして答えた。

「いいですよ。で、字数はどれくらいですか?」

 結局原稿用紙4枚ほどの原稿依頼で、それなら毎日書いているブログ程度じゃないか! どこが「折り入って」だ! 脅かすんじゃねぇよ!

 あとでかみさんにこの話をした。

「建築学校から折り入ってお話しがあると電話があったよ」
「!……なにそれ、悪い話じゃないでしょうね!」
「いや、あの、ただの原稿依頼だった」
「脅かさないよ、もう」

 かみさんは、講師をクビにでもなったと思ったらしい。ああ、なるほど「折り入った」話ならそっちのほうがありそうだ。クビになるより給料が増えることをとっさに思った自分が恥ずかしい。それにしても「折り入った」話はたいがい悪い話なのだろうか。次からは注意しよう。

|

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/210270/64133716

この記事へのトラックバック一覧です: 折り入った話: