2015年9月17日 (木)

金沢めぐり(8)旧石川県庁舎

 今回は家族旅行だったので建築めぐりをするつもりは無かった。でもこの建物を20年ぶりにもう一度じっくり眺めたいという希望はあった。そこで家族が21世紀美術館へ行っているあいだ私は別行動をとり、この建物を堪能することができた。本当に金沢まで来て良かった。

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 元はロの字プランだったと思うのだが、今は前面だけが残っている。貼り付け保存ではなく構造保存とした慧眼をほめたい。ただしファサードはだいぶ変わっている。私が見ていたころは当初のおもかげがもっと強かったはずだ。修復としてはとりあえずの形であり、今後の復元を望みたい。

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 こういうドイツ表現主義的な装飾がふんだんにあり見ていて飽きない。設計した建築家矢橋賢吉は国会議事堂の設計チーフとして知られているが、このふわっとした装飾を私は萌えデコと名付けてみた。矢橋の萌えデコは議事堂細部と通じる。この建築が竣工したとき議事堂の実施設計中だったから共通するのは当然だろう。私は見ていないが同時期に竣工した岐阜県庁もこれとそっくりのようだ。

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 これなどは明らかにライトの影響を受けている。県庁の竣工が1922年でライトの帝国ホテルが1923年だ。同時代だったわけだ。ライトこそ和風の装飾分解と再構成をデザインテーマとしていたから、矢橋たちが鋭く反応するのは当たり前だと言ってよい。当時の建築界は若手の新古典主義者たちがわんさか出てきたころだから、こうした装飾分解をこつこつと行うのは決して主流ではない。彼らが和風をテーマにしたのは、議事堂を設計せねばならないという責務だけではなく、もう少し自由で遠大な志があったのだろうと私は想像している。傍流こそおもしろい。

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 玄関ホールの柱頭部。萌えデコの典型としてふさわしいだろう。ある種の装飾の分解と再構成を同時に行うところに特徴がある。少し早い例として山口県庁の柱頭デザインをあげてもよい。あれは矢橋の3年後輩で国会議事堂のデザイナーのひとり武田五一の設計だった。矢橋のチームは議事堂設計の小手調べとして各地の県庁を手掛けていたとされるが、こういう実例を見ているとやっぱりそうだったのだと私も思う。

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 玄関扉に乳金物がついていて驚いた。このデザインは社寺建築のものだ。矢橋たちは議事堂のデザインを探るキーワードに和風の再構成があったことが分かる。詳しく見ていけばもっと和風の装飾分解を見つけることができるだろう。ちなみにこれは閂金物の裏留めの隠し金物だった。

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 左は外壁の萌えデコ。多分これは熨斗をイメージしていると思う。こうした江戸趣味的な洒落っ気がこの世代の特徴でもある。右は扉の萌えデコ。たしか熨斗型もあったと思ったのだが見つからなかった。無くなっちゃったのかなぁ。

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 みんな大好きなモザイクタイル。構造保存するとこうした細部がまるごと残るからありがたい。よく見ると9枚1組のシート貼りであることが分かる。けっこうずれているのはなぜだろう? このタイルは九谷焼なのだろうか。くすんでしまっているが、それはそれで良い味を出している。

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 見事な階段室だ。青いステンドグラスが鮮やかだ。装飾の分解と再構成を行いながら全体は表現主義的な混沌とは別次元の均整のとれた骨格と禁欲的で清楚な美しさを保っている。誤解されていることが多いが、国会議事堂も同様のデザインであり、全体は質素簡潔ながら部分は幻想的な萌えデコに覆われ、そして素材技法デザインの基調に和風があるという建築なのだ。それはここで展開されているデザインと全く同じだ。

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 階段室の萌えデコ。立ち上がる雲をモチーフとしているのだろう。なにか地元の神話のいわれがあるのかも知れない。これなどまったくの和風モチーフの解体再構成だ。左右の大判タイルが九谷焼の布目タイルで窯変のようすなどすばらしい。してやったりという陶工の自慢顔が目に浮かぶ。

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 正面最上階の貴賓室。照明器具は復元に見えるが、おそらく忠実な再現なのだろう。器具の吊元の左官模様がやはり萌えデコになっている。おもしろ過ぎるじゃないか。 

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 この部屋の廊下側の窓のステンドグラス、青を多用するというのはやはり九谷焼のイメージだろうか。青は青竜の青、つまり春を言祝ぐ色だ。そこへ土気の黄色を注したのは風水を解したものが臨時議院建築局にいたということか? わたしは国会議事堂は風水にのっとっていると考えている。設計チームとは別にそうした判断をする部署があり、そことの交流を通して禁色などの知識を得たのだろうと思う。

 20年前、雪のなか県庁に通ったころは分からなかったり気づかなかったことが随分あった。でも、この建築のおもしろさは当時十分感じ取っていたことも追体験できた。とんだセンチメンタルジャーニーである。また行きたい。

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