ワークワークファンタジア(105)
「よいか。我が目標はあの龍の柱では無い」
南大門前に勢ぞろいした30騎を前に巫女が言い放った。
「目標は宮城前に立っておるもう1本の柱のほうじゃ」
巫女が指さしたのは軍司令部に立った龍の柱の幻影のほうだった。それは高さも本物の半分ほどしか無く影も薄かった。
「あれがなぜあそこにあるのかは分からん。しかしあれが龍の柱の写しであることは明らかじゃ。光条を発するたびにあれも鳴動しておるのがここからでも分かるじゃろ」
龍の柱は今はもっぱら北側の倉庫群を焼き尽くしているらしく、盛んに光条を放っている。確かにほぼ同時に幻影のほうもパッと明るくなっている。
「龍の柱はな、夢の反撃なのじゃ。放置され忘れられていたものが自らを思い出させるために暴れ出したのがあれじゃ。夢自体が凶暴なわけではない。正しく読み取ってやれば我らの糧(かて)ともなる」
ポランは龍の柱を見て新羅の巫女姉妹が涙したのを思い出した。あのときの柱は誰の夢だったのだろう。
「そして夢はな、何度でも繰り返し現れるものじゃ。あの写しにはまだ敵意が少ないようだ。フセとやらの心残りがあそこにはあるのじゃろ。我らは今からそれを解き放ちに参る。よいか!討伐するのではない!解放するのじゃ!」
ポランらは巫女の言葉の全てが理解できたわけではなかったが、この圧倒的に不利な状況を挽回できるチャンスがあることだけは分かった。
「付いて参れ!遅れるな!」
巫女が飛び出した。おうと応えてその後を30騎が追った。倭人の巫女は素晴らしく早かった。それに普通についていけたのはワイ族の巫女達だけだった。残りのものたちはそれに追いすがるのが精いっぱいだった。しかし実際は馬たちが3巫女たちに追随しているので、しがみついているだけで良かった。
しばらく行くと朱雀大街が罹災民でいっぱいになっていた。先頭の巫女が右に曲がった。王険城の右側は比較的官庁が多かったので大路が空いていたからだ。それでも逃げてくるものたちは多く、それを軽やかに飛んで避けながら騎馬は進んだ。
しばらく進み人気の少なくなったころ北へ進路を変えた。ちょうど左手に民部省の東門が見えてきた。民部省は手の付けられないほど炎上し、まさに楽浪郡陥落を思わせた。門前には文書を運び出そうとしている律令官たちが大勢おり、それを小龍が喰い散らしていた。それは大極殿の柱から生まれた小龍たちだった。
「よいか!駆け抜けるぞ!」
東門は数匹の小龍に巻きつかれて半壊しており、門前の大路には胴回りひとかかえもある小龍の体が折り重なっていた。まるで火災現場の消防隊の放水ホースのようだが、それは人を救わず人を喰っていた。律令官たちは文書を抱えたまま逃げ惑い小龍に喰われていた。
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