2015年5月 6日 (水)

ワークワークファンタジア(99)

 フセ姫は律令官めがけて腕を振り下ろした。小龍は一直線に飛び込んできた。律令官が身じろぎしたとき、その懐から節刀が床に落ちた。巻いていた赤い布がほどけて節刀が転がった。サヤが抜け刀身がひとりでに床の上に立ちあがった。そして一瞬チカッと光ると急速に膨張して大きな半透明な盾となった。小龍は避けきれずそれに激突するとミャーというネコのような悲鳴を上げてフセ姫の足元まで跳ね返された。小龍はずたずたになって死んでいた。フセ姫は驚きに目をみはっていたが気を失ったように全身から力が抜けた。まるで宙に吊るされているような姿となって沈黙した。

 律令官は何が起こったのか、しばらく理解できなかった。目の前には相変わらず半透明の盾が立っている。節刀を数百倍大きくしたような形で、頂上は天井を打ち抜いていた。盾からはかすかな振動音が聞え微光を放ちながら生きているように脈動していた。百済使の節刀は楽浪郡ができたころ晋国から遣わされたものだった。代々百済使はこの節刀を百済王の身代わりとして携えていた。その短刀にこれほどの力があったとは。律令官は一瞬旧敵であるタケ将軍を思い出した。あいつならこれをどう思うだろう。

 高句麗王はホッとした。どうやら裁定は中断したようだ。大極殿は火がまわり始めていた。周囲の回廊にも火柱が立っており猛烈に黒煙を吹き上げている。今の内にここから逃げ出さねば。大極殿の後ろに後宮の跡がある。そこから隣接する庭園へ抜ける小門があった。あそこなら外へ抜けることはたやすかろう。

 そう思い抜け目なくあたりを見渡した。百済使の連中は半透明の盾の後ろで縮こまっている。民部卿は呆けたようにフセ姫を見上げている。こいつは龍の柱を復活させたとか言っていたな。隠し事があるとは思っていたがとんでもないやつだ。ひょっとするとこいつは高句麗を滅ぼしてワイ帝国の復興をもくろんでいるのではないか。フセ姫は宙ぶらりんのなったままピクリとも動かない。黒焦げの亡霊兵団も硬直したように動かない。逃げるなら今しかなかろう。

 高句麗王がそっと後ずさったときフセ姫が顔を伏せたまま笑だした。高句麗王は見透かされたように感じて悪寒が走った。フセ姫の笑いは人のものではなかった。男のような野太い声で、それは地獄の底から聞こえてくるようだった。

「フハハハハ、ワレハ西王母ナルゾ、聴ケ!虫ケラドモ、ワガ裁定ハ偽リニ満チタ現世(うつしよ)ヲ打チ砕キ真正デ永久(とこしえ)ナル命ノ源泉ヲ再ビ大地ニ甦ラセルデアロウ」

 民部卿はここで起こっている一連の事件がフセ姫の夢と連動していること直感した。思えば、あれがトキ姫を超える巫力を得たのも道観に遊ばせたからであろう。あの場所は確かに道教の至高神・西王母を祀る道場だ。いつか娘は西王母の魅入られていたのだ。トキ姫の怨念がそうさせたのかも知れない。民部卿は庭に飛び出てフセ姫の元に駆け寄ろうとした。しかし彼は近づくことはできなかった。そこに龍の柱が立ち始めていたからだ。

 

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