2015年5月17日 (日)

ワークワークファンタジア(107)

「おまえたちは、この国の楽を知っておるか」

 巫女の問いに男たちは首をひねった。コムサが答えた。

「残念ながら今はもう失われ、知るものは誰もおりません」
「知らなくても構わん。聞こえるであろう。これがこの国の楽だ」
「へっ?」

 コムサは牢の中で楽が聞えたことを思い出した。

「耳を澄ましてみよ。おまえたちにも聞こえるであろう」

 それぞれが思い思いに聞き耳をたてた。龍のウロコの音がする。光条の攻撃が続いているのが遠くから響いてくる。そして真っ暗な空のかなたからふりそそぐように鳴る天鼓の音が聞こえた。

「聞こえたぞ!」
「俺にも聞こえる」

 男たちがパッと顔を輝かせてうなずきあった。

「おまえたちは、あれをなぞって楽をなせ。わらわは舞によって龍をなぐさめよう。そしてフセとやらを夢から呼び覚ましてやろう」

 男たちは龍の柱を取り囲むように座ると軍鼓の皮を張りなおして舞の始まるのを待った。3巫女たちは巫女のそばに控えて座った。

「さあ、始めるぞ、よいな」

 巫女は懐から節刀を水平に構えて両手を添えた。それだけで節刀はまばゆく輝いた。巫女が龍に呼びかけた。

「いにしえの龍よ、大地の眷属よ、今からお前を縛めより解き放つ、天鼓の楽を楽しむがよい」

 巫女が節刀をタテに持ち替えると龍の柱にそっと押し当てた。当てられた部分がひとかかえほどある綿毛の玉のようにふわりと輝き始めた。巫女は節刀を納めその場にうずくまった。まるで大地の鼓動を聞いているようだ。そしてそっと舞い始めた。それはテグや新羅のものとは違い、どちらかと言えばワイ族の舞に近い軽やかでテンポの速いものだった。

 ほぼ同時に3巫女も舞い始めた。4人はくるくると入り混じるながら舞った。それぞれが回転しながらお互いを回りあった。そうやってもつれるように回転しながら龍の柱のまわりを回った。太鼓はばらばらに始まったが、巫女たちが龍の柱を1周するあいだには音が揃い、ひとつの太鼓が響くようだった。

 龍は天鼓に反応するように体を伸縮させた。そのたびにシャランとウロコが鳴った。綿毛のような光の玉は次第に数を増していった。そして柱の表が光の玉で覆いつくされたとき龍が一声ミャーと鳴いた。龍を閉じ込めていた柱はばらばらになり小さな光の粒子となって天へ吸い上げられていった。龍は外へ出たとたん漆黒から白銀へ色が変わった。龍は二重らせんを解くと軍司令部の上空をとぐろを巻くようにゆるやかに回転した。

 巫女たちは少しずつ宙に浮かび始めていた。それでも舞は止まることなく続いた。旋回する手足の先に光の残像が生まれた。白いひれを持って舞っているように、それはくるくると空中に軌跡を残した。舞が進むにつれ大きな螺旋階段のようにその軌跡は中庭から中空へと立ち昇っていった。それを慈しむように龍が体を寄せてきた。

 異変が起こっていた。王険城中に広がった小龍が動きを止めた。そして次第に柱のようにまっすぐ立ち上がり始めた。西王母がそれに気づき歯ぎしりをした。

「我ヲ解キ放ツハ誰ゾ!我ガ王道ヲ阻ムハ誰ゾ!」

 軍司令めがけて光条の攻撃が集中した。周辺の建物が吹きとんだが中庭は無事だった。中にいたものは攻撃を受けたことさえ気づかなかったろう。それは上空の龍が護っているようにも見えた。巫女たちは龍とともに舞った。ミャーとまた龍が長く鳴いた。龍が喜んでいる。

 龍の声に応じて都の各所に立つ小龍たちも同じ声で鳴き、天に向かってまっすぐ昇り始めた。数百の小龍たちが黒い空へゆっくりと吸い上げられていった。光条の攻撃は止んでいた。大極殿に立つ龍の柱の本体もやはり綿毛のような光の玉で覆われ始めていた。もう西王母の姿も消えていた。

 中庭の龍は次第に小さくなっていった。巫女たちは龍とともに舞いながら次第に中庭へ下りてきた。そして最後に龍は肩に乗るほどの大きさとなり巫女たちの旋舞と戯れ遊んだ。天鼓の音が遠ざかり始めた。それに合わせて太鼓の音も小さくなっていく。そしてまったく聞こえなくなったとき巫女たちの舞も終わり龍も消えた。

 大極殿の龍の柱は光の玉に覆われ、龍を閉じ込めていた筒は蒸発するように天へ昇っていった。支えを失った龍はしばらく揺らめいていたが、ものすごい勢いで地面のなかへ引きずり込まれて消えた。あとには最初から何もなかったような地面が広がっていた。その場所ににフセ姫は倒れていた。そこへ駆け寄って抱き上げたものがあった。フセ姫が長い夢から覚めたようにうっすらと目を開けた。

「とと様・・・わらわの龍はどこじゃ?」

 するとフセ姫の肩にさきほど軍司令の中庭で消えた龍が現れた。

「なんじゃ、ここにおったのか」

 フセ姫の差し出した腕を龍はくるくると回った。フセ姫はにっこり笑うと再び眠りに落ちた。民部卿はしばらくフセ姫を抱きしめて泣いていたが、ゆっくりと立ち上がるとフセ姫を抱いたままいずこへかと立ち去った。

 

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