同志社 ジェームズ館(2)
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それなりに自分の線になっておれば、少々パースが狂っていても、わざとそう描いているように見える。まあ、わざとじゃないんだが、そんなに気にしなくてもよくなるということだ。
日銀のなかで唯一赤レンガなのは町衆に配慮した結果だろうと思っている。よく見ると1階と2階でデザインが全然違う。この建物は辰野金吾と長野宇平治の共作だが、1階の「ピクチャレスクな」というか扁平のっぺり感は長野なりのセセッションなのだろう。葛西にしても片岡にしても伊東にしても辰野の弟子たちの新しいデザインへの意欲は共通しているようだ。そんな若手の先走りを辰野は笑って許したのだろう。そこが宮内省や文部省などの官庁系営繕と大きく違うところだった。
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旧街道沿いに突然列柱建築が現れてびっくりした。結構しっかりと様式を踏まえている。相当できる人の設計だろう。ホーム―ページによれば(参照)昭和10年、京都の川端組の施工で竣工したという。内部もほぼ残っていたそうだが耐震改修の結果失われてしまった。
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王険城の南大門跡でオリとサンスはコムサや東市司とともに百済使を見送っていた。
「このことを晋国にどう知らせればよいのやら」
そう律令官は苦笑いした。コムサは晋国、百済、高句麗のあいだで一度は盟約がなったことを話した。密使の最期も聞かせてやった。
「そうでしたか。いや、そうだろうと思っていました。ありがとう」
百済使はどこかさばさばしたようすで帰路についた。員数も半減し馬も荷も輿もなかったが、それでも燃え残った旗を颯爽とかかげて去っていった。
「さて市場を再開するぞ!皆を集めろ!」
コムサが東市司を連れ出した。
「市場と言ったって何も残ってないじゃないか」
「いいんだよ何もなくても、市場が開けば人も荷も集まってくるんだ」
「ああ分かったよ、引っ張るなよ、分かったから」
東市司はコムサに引かれながらオリとサンスに手を振った。
「三巫女によろしくな!」
市場はすでに復旧が始まっていた。市場は不思議だ。何も残っていなかったはずなのに、簡易な小屋が立ち並び始めるともう元のままのような活気が生まれる。そのようすを見てオリも心強く思った。
「さて、私も書庫の片づけを始めましょうか」
「何言ってんの?陰陽寮はもう無いのよ」
「サンスこそ何を言っているのです?陰陽寮は無くなったかも知れませんが陰陽道は残っていますよ」
「どこに?」
「だから私がいるところが陰陽道の道場です」
サンスはあきれてオリを見た。オリはニコニコしながらサンスを見返した。
「それで、あなたはどうするのですか?」
「へ?わたし?」
「そうです。天湖へ行くのでしょう?」
「え?行ってもいいの?」
「良いも悪いも、もう役所は無いのですから、あなたはどこへ行っても良いのですよ」
「あっそうか!」
「ほら、迎えが来ましたよ」
宮城のほうから倭人の巫女たちとポランらワイ族のものたちが戻ってきた。残った馬を引き渡してきたのだ。三巫女たちが走り寄ってきた。
「姉さまー!」
「一緒にワイまで行きましょう!」
「一緒に天湖へ行きましょう!」
サンスは両手を広げて巫女たちを抱きとめた。
「ありがとう。一緒にフセを探しに行こうね」
「はい!(3人同時)」
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「おまえたちは、この国の楽を知っておるか」
巫女の問いに男たちは首をひねった。コムサが答えた。
「残念ながら今はもう失われ、知るものは誰もおりません」
「知らなくても構わん。聞こえるであろう。これがこの国の楽だ」
「へっ?」
コムサは牢の中で楽が聞えたことを思い出した。
「耳を澄ましてみよ。おまえたちにも聞こえるであろう」
それぞれが思い思いに聞き耳をたてた。龍のウロコの音がする。光条の攻撃が続いているのが遠くから響いてくる。そして真っ暗な空のかなたからふりそそぐように鳴る天鼓の音が聞こえた。
「聞こえたぞ!」
「俺にも聞こえる」
男たちがパッと顔を輝かせてうなずきあった。
「おまえたちは、あれをなぞって楽をなせ。わらわは舞によって龍をなぐさめよう。そしてフセとやらを夢から呼び覚ましてやろう」
男たちは龍の柱を取り囲むように座ると軍鼓の皮を張りなおして舞の始まるのを待った。3巫女たちは巫女のそばに控えて座った。
「さあ、始めるぞ、よいな」
巫女は懐から節刀を水平に構えて両手を添えた。それだけで節刀はまばゆく輝いた。巫女が龍に呼びかけた。
「いにしえの龍よ、大地の眷属よ、今からお前を縛めより解き放つ、天鼓の楽を楽しむがよい」
巫女が節刀をタテに持ち替えると龍の柱にそっと押し当てた。当てられた部分がひとかかえほどある綿毛の玉のようにふわりと輝き始めた。巫女は節刀を納めその場にうずくまった。まるで大地の鼓動を聞いているようだ。そしてそっと舞い始めた。それはテグや新羅のものとは違い、どちらかと言えばワイ族の舞に近い軽やかでテンポの速いものだった。
ほぼ同時に3巫女も舞い始めた。4人はくるくると入り混じるながら舞った。それぞれが回転しながらお互いを回りあった。そうやってもつれるように回転しながら龍の柱のまわりを回った。太鼓はばらばらに始まったが、巫女たちが龍の柱を1周するあいだには音が揃い、ひとつの太鼓が響くようだった。
龍は天鼓に反応するように体を伸縮させた。そのたびにシャランとウロコが鳴った。綿毛のような光の玉は次第に数を増していった。そして柱の表が光の玉で覆いつくされたとき龍が一声ミャーと鳴いた。龍を閉じ込めていた柱はばらばらになり小さな光の粒子となって天へ吸い上げられていった。龍は外へ出たとたん漆黒から白銀へ色が変わった。龍は二重らせんを解くと軍司令部の上空をとぐろを巻くようにゆるやかに回転した。
巫女たちは少しずつ宙に浮かび始めていた。それでも舞は止まることなく続いた。旋回する手足の先に光の残像が生まれた。白いひれを持って舞っているように、それはくるくると空中に軌跡を残した。舞が進むにつれ大きな螺旋階段のようにその軌跡は中庭から中空へと立ち昇っていった。それを慈しむように龍が体を寄せてきた。
異変が起こっていた。王険城中に広がった小龍が動きを止めた。そして次第に柱のようにまっすぐ立ち上がり始めた。西王母がそれに気づき歯ぎしりをした。
「我ヲ解キ放ツハ誰ゾ!我ガ王道ヲ阻ムハ誰ゾ!」
軍司令めがけて光条の攻撃が集中した。周辺の建物が吹きとんだが中庭は無事だった。中にいたものは攻撃を受けたことさえ気づかなかったろう。それは上空の龍が護っているようにも見えた。巫女たちは龍とともに舞った。ミャーとまた龍が長く鳴いた。龍が喜んでいる。
龍の声に応じて都の各所に立つ小龍たちも同じ声で鳴き、天に向かってまっすぐ昇り始めた。数百の小龍たちが黒い空へゆっくりと吸い上げられていった。光条の攻撃は止んでいた。大極殿に立つ龍の柱の本体もやはり綿毛のような光の玉で覆われ始めていた。もう西王母の姿も消えていた。
中庭の龍は次第に小さくなっていった。巫女たちは龍とともに舞いながら次第に中庭へ下りてきた。そして最後に龍は肩に乗るほどの大きさとなり巫女たちの旋舞と戯れ遊んだ。天鼓の音が遠ざかり始めた。それに合わせて太鼓の音も小さくなっていく。そしてまったく聞こえなくなったとき巫女たちの舞も終わり龍も消えた。
大極殿の龍の柱は光の玉に覆われ、龍を閉じ込めていた筒は蒸発するように天へ昇っていった。支えを失った龍はしばらく揺らめいていたが、ものすごい勢いで地面のなかへ引きずり込まれて消えた。あとには最初から何もなかったような地面が広がっていた。その場所ににフセ姫は倒れていた。そこへ駆け寄って抱き上げたものがあった。フセ姫が長い夢から覚めたようにうっすらと目を開けた。
「とと様・・・わらわの龍はどこじゃ?」
するとフセ姫の肩にさきほど軍司令の中庭で消えた龍が現れた。
「なんじゃ、ここにおったのか」
フセ姫の差し出した腕を龍はくるくると回った。フセ姫はにっこり笑うと再び眠りに落ちた。民部卿はしばらくフセ姫を抱きしめて泣いていたが、ゆっくりと立ち上がるとフセ姫を抱いたままいずこへかと立ち去った。
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門前には小龍の胴体が入り組みあいながらズルズルと高速で動いていた。シャラシャラと鳴るウロコが炎に照らされて鈍く光った。すでに門前に人影はなく、運び出そうとした大型の文書箱がいくつも転倒して中身をぶちまけていた。巫女らの騎馬は速度をゆるめることなく、トントンと跳ねて小龍を避けて走り抜けた。胴体のあいだからいくつかの頭部が垂直に立ち上がり馬を喰おうとしたが、速さについていけず宙を噛んで倒れていった。
東門から一直線に北へ駆ける。左右は高い築地塀が続く。道にはもう誰もおらず巫女たちは速力をあげた。築地塀は防火壁なのだが、火の粉が空を舞い道路を渡って隣の区画へ燃え移り始めていた。巫女たちは炎の熱さを感じながら馬を走らせた。空は黒煙に覆われ夕暮れ時のように暗かった。
突然築地塀の一部がくずれ真横から小龍が襲ってきた。小龍は飛び出した勢いのまま地を這い騎兵を馬ごと喰らうと反対側の築地塀にぶち当たって止まった。
「また来るぞ!たずなを緩めよ!馬を自由に走らせよ!」
巫女が指示をすると同時に数カ所から攻撃された。避けきれず何人かが犠牲となったが小龍はそれ以上追ってこなかった。
巫女たちは横街へ出た。横街とは宮城の南端を東西に走る大路だ。それを左へ旋回する。騎馬が高速で旋回できるほどの道幅があるのだ。隊列を組みなおしたとき、それを狙い撃ちするかのように細かい光条が降り注いだ。馬は軽やかにステップを踏むと光条をかいくぐった。
「さすがワイ族の馬じゃ。戦い慣れておるわ」
それでも数名が直撃を受けて蒸発した。目標の龍の柱は目前だ。少なくなった騎馬隊は横街から朱雀大街へ旋回した。そのとき一際大きな光条が宮城の南門を貫いた。日干しレンガで作られたアーチの上部が吹き飛ばされた。その破片が騎馬隊に降り注ぐ。馬は泡を吹きながら必死にそれを避けた。アーチ上に建っていた緑釉瓦の木造建物は衝撃によって一瞬宙に浮くと騎馬隊の頭上に倒れ込んできた。最後部の騎馬が何騎か巻き込まれた。それでも残った騎馬は舞い上がる土煙の中から駆けだしてきた。南門の大屋根が回転して垂直な壁のように立ち上がった。そしてゆっくりとひっくりかえっていった。その光景を背に巫女らは軍司令部跡へ飛び込んだ。
騎馬隊は中庭まで走り込むと柱をぐるっと回りながら馬を止めた。龍の柱は立ったときと同じ姿でそこにあった。あたりは静まりかえっていた。龍のウロコの鳴る音だけが響いている。今まさに滅びようとする王険城のなかでここだけは護られているようだった。
「ここへまた戻ってくるとはな」
コムサが馬を下りながらつぶやいた。騎馬は半数に減っていた。中庭に大きな井戸があった。コムサらは馬に水を飲ませてやった。
「これが現れたときのことを教えてくれ」
巫女のまわりに男たちが集まってきた。ポランが問いに答えた。
「これは積算士サンスが立てました。さきほど短刀を大巫様に差し出した者です。フセ姫の助力を得たと申しておりました」
「フセとはタエドンの大巫の娘だったな。それとサンスと言うものとがふたりがかりで立てたというのか」
「はい。フセ姫はその場にはおりませんでした。サンスが夢の中で会ったようです」
「なるほど、夢か。・・・フセとやらはまだ夢に囚われているのやもしれん」
巫女の後ろで龍の尾が上昇していった。数百の目がまばたきもせずぎらぎらと巫女たちを眺めまわした。
「俺たちはどうすればいい?」
コムサが尋ねた。
「鳴り物がほしい。太鼓のようなものなら何でもよい」
「それなら牢の横に軍鼓があったな」
「わたしたちはどうするの?」
ワイ族の巫女たちがわらわらと集まってきて尋ねた。
「お前たち、舞はできるか」
「こう?」
「こうかな?」
「こうだよ」
3人は市場で舞ったときのようにくるくると巫女の周りを旋舞した。巫女はにっこり笑ってうなずいた。
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「よいか。我が目標はあの龍の柱では無い」
南大門前に勢ぞろいした30騎を前に巫女が言い放った。
「目標は宮城前に立っておるもう1本の柱のほうじゃ」
巫女が指さしたのは軍司令部に立った龍の柱の幻影のほうだった。それは高さも本物の半分ほどしか無く影も薄かった。
「あれがなぜあそこにあるのかは分からん。しかしあれが龍の柱の写しであることは明らかじゃ。光条を発するたびにあれも鳴動しておるのがここからでも分かるじゃろ」
龍の柱は今はもっぱら北側の倉庫群を焼き尽くしているらしく、盛んに光条を放っている。確かにほぼ同時に幻影のほうもパッと明るくなっている。
「龍の柱はな、夢の反撃なのじゃ。放置され忘れられていたものが自らを思い出させるために暴れ出したのがあれじゃ。夢自体が凶暴なわけではない。正しく読み取ってやれば我らの糧(かて)ともなる」
ポランは龍の柱を見て新羅の巫女姉妹が涙したのを思い出した。あのときの柱は誰の夢だったのだろう。
「そして夢はな、何度でも繰り返し現れるものじゃ。あの写しにはまだ敵意が少ないようだ。フセとやらの心残りがあそこにはあるのじゃろ。我らは今からそれを解き放ちに参る。よいか!討伐するのではない!解放するのじゃ!」
ポランらは巫女の言葉の全てが理解できたわけではなかったが、この圧倒的に不利な状況を挽回できるチャンスがあることだけは分かった。
「付いて参れ!遅れるな!」
巫女が飛び出した。おうと応えてその後を30騎が追った。倭人の巫女は素晴らしく早かった。それに普通についていけたのはワイ族の巫女達だけだった。残りのものたちはそれに追いすがるのが精いっぱいだった。しかし実際は馬たちが3巫女たちに追随しているので、しがみついているだけで良かった。
しばらく行くと朱雀大街が罹災民でいっぱいになっていた。先頭の巫女が右に曲がった。王険城の右側は比較的官庁が多かったので大路が空いていたからだ。それでも逃げてくるものたちは多く、それを軽やかに飛んで避けながら騎馬は進んだ。
しばらく進み人気の少なくなったころ北へ進路を変えた。ちょうど左手に民部省の東門が見えてきた。民部省は手の付けられないほど炎上し、まさに楽浪郡陥落を思わせた。門前には文書を運び出そうとしている律令官たちが大勢おり、それを小龍が喰い散らしていた。それは大極殿の柱から生まれた小龍たちだった。
「よいか!駆け抜けるぞ!」
東門は数匹の小龍に巻きつかれて半壊しており、門前の大路には胴回りひとかかえもある小龍の体が折り重なっていた。まるで火災現場の消防隊の放水ホースのようだが、それは人を救わず人を喰っていた。律令官たちは文書を抱えたまま逃げ惑い小龍に喰われていた。
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「おお息子か!」
「へっ?父上?」
新羅から倭人たちを連れてきたキャラバン商人がコムサの息子だった。偵察のために新羅へ送られていたのだった。門から出てきた砂で真っ白になった人間たちのうちのひとりが駆け寄り手を握ったので、ようやくこれが自分の父親だと分かった。その足元を何度目かの小さな波が洗った。
「お、お主、なぜここへ」
「倭人の護衛だ」
律令官がタケ将軍を見つけて驚いた。
「それよりこれはどうっなっているんだ」
「謀叛だ。我々は高句麗王をお護りしてここまで逃げのびたところだ。敵は龍の柱を使っておる」
「麦原の戦いの再現か」
また直近に光条が落ちた。全員が伏せて爆風をよけた。巫女だけは騎乗のまま門の向こうの燃え広がる王険城を見つめていた。光条の攻撃は城内を無差別に襲い黒い煙が各所から上がっていた。朱雀大街を多くの罹災民が南大門めざして逃げてくるのが見えた。そこへも容赦なく攻撃は行われた。フセ姫の皆殺しにするという言葉通りだった。
「これが倭人の大巫か」
「はい、この巫女がテグで龍の柱のまぼろしを立てました。今は地脈をたどって天湖へ向かう旅の途中です」
高句麗王の問いにコムサの息子が答えた。サンスが巫女に駆け寄った。
「天湖、フセもそこで天父を見つけると言っていたわ」
「フセとは誰じゃ」
「タエドン族の大巫の娘よ。あの柱もあの子の力を使って再現したらしいわ。助けてあげて、フセを」
「なんと!巫女を犠牲にして方術を使ったというのか。なんともひどいことを。お前が高句麗王か」
巫女が王をにらんで問うた。
「このままでは皆殺しになるぞ。この国では大巫無きあと、誰が天神を祀っておったのじゃ。おまえか」
高句麗王はフセ姫の審判を思い出して言葉が出なかった。この30年間、誰もそんなことを考えもしなかった。
「それが罠だったということに、ようやく気付いたというわけか」
巫女が天を見上げて嘆息した。黒煙が太陽を隠し薄暗くきな臭い戦場の空だった。
「罠ってのはどういう意味だ」
「天神をわざと祀らないことで地脈を閉ざし国力を疲弊させるということですよ」
東市司の疑問にオリが答えた。
「それほど大切なことだったのか」
「あなたがたタエドン族が今も大神殿をお護りしているではありませんか」
「ああ、そうだな、再興するつもりはあったんだよな、忘れてた」
コムサが巫女に尋ねた。
「麦原の戦いでは新羅の大巫が龍の柱を倒したと聞きます。あなたにもそのような力があるのですか?」
巫女は内大臣を見下ろして皮肉に笑った。
「お前たちは自分らの作り出した厄災の後始末を名も知らぬ辺境の巫女に託すというのか」
コムサは返す言葉も無かった。これは確かに高句麗のしでかした不始末なのだ。
「まあ良い。だが残念ながらわらわには大巫の力は無い。まぼろしを作り出すのが精一杯なのじゃ。だから問うておる。なにか天神を祀る依代(よりしろ)は無いのかと。もしや、それがあれに打ち勝つ何者かに変じるかも知れぬからの」
「巫女様、これをお使いください」
サンスが節刀を差しだした。それはもうサヤも柄も失われ刀身だけになっていた。反りの無いまっすぐな短剣で、戦塵をくぐり抜けた今も曇りひとつ無かった。
「これでフセを自由にしてやってください」
巫女が節刀を受け取った。その瞬間、刀身はまばゆく発光した。節刀が巫女に呼びかけた。
「そうか。名を白虎と申すか。わらわたちを護っておくれ」
夢が始まっていた。巫女は麦原の戦いのときの新羅大巫の姿に変化し始めていた。それを見てポランは驚いた。新羅の姉巫女が当時の姿のまま現れたからだ。
「おお!大巫様、お会いしとうございました」
「・・・ポランか、久しぶりじゃの、息災か」
「はっ、ありがたきお言葉にございます」
ポランは涙をこらえて歯を食いしばった。
「すまんな。また馬がいる。これを使うにはここでは遠すぎるのじゃ。今は妹もおらぬ。この剣の力を借りて戦うしか術がないのじゃ」
「おそれながら、われらは今30騎を擁しております」
「よかろう、それで十分じゃ」
騎馬に自信のあるもの30名が選抜された。高句麗王は自ら騎乗を申し出たが巫女が断った。
「おまえは残って天神の祀りを復興するのが役目じゃ」
コムサやポラン、他に辺境諸族の族長らが騎乗した。
「おまえたちも行くの」
「はい姉さま」
「この中では一番の乗り手です」
「ヘビなんか蹴散らせてくれます」
「必ず帰ってくるのよ」
「はい!(3人同時)」
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送信チェックボックスをチェックしないとフェイスブックには流れない。それでもツイッターには届いているのはなぜか分からない。もう一度チェックを入れて送ってみる。
部屋が散らかっている原因は、4月から始まった新しい授業の教材の置き場所が無いのが原因だ。年度や発砲スチロールが幅を利かせている。それまでに部屋の棚は満杯で、入りきれないPC機械類や大型本などが通路をふさいでいる。3畳ほどの小さな部屋なので足の踏み場も無い。何かを思いっきり捨てなければいけないわけだが、何がどこにあるのかもう分からない状態で、そうした古い地層を発掘する気がさらさら起きないので放置している。先送り人生まっしぐらである。
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ココログの場合、書き込み欄の下に「通知」チェックボックスがある。ツイッターとフェイスブックを「コントロールパネル>プロフィール>アカウントの追加」で登録したので、そのふたつのチェックボックスができている。なにこれ毎回これにチェックを入れるのか? チェックを入れなかったらどうなるのか実験してみる。
最近、読むマンガも観るアニメもない。ラノベもこれと言うものもない。だからストックを見直している。マンガなら「姫のためなら死ねる」、アニメなら「ガールズアンドパンツァー」、ラノベなら「神様のメモ帳」。こうして並べてみても何の共通点もないな。
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ココログからフェースブックへの自動転送の再設定を朝からしている。5月6日以降自動転送が停止していたからだ。さきほどの実験は失敗したので再実験する。これで大丈夫だと思う。とりあえず近況も添えて。
先日から博多ラーメンが食べたくてしかたがない。あの白く甘い豚骨スープ、味のよくからむ細麺、色がスープに滲む紅ショウガの酸味、高菜漬けも足しておきたい。三条木屋町の長浜ラーメンはうまかった。10年ほど前から少し味が濃くなったように感じて足が遠のいたが、やはり京都だとあそこしか無いかも知れない。おいしい博多ラーメンが食べたい。
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フェイスブックの設定が変ったようで、5月6日以降ココログから自動転送できなくなった。設定しなおしたので届くかどうか実験してみる。ついでに近況報告など。
連休中はほぼ家にいてオンラインゲーム「艦これ」などして遊んでいた。4月が滅法忙しかったのでその反動かと思われる向きがあるかも知れないが、このだらけた感じが私のデフォである。パソコンの前にずっと座っていたので腰が痛い。きょうは台風の影響でだんだん天気が悪くなるそうなので、今のうちに自転車に乗ってこようか。
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巫女たちは東市司と高句麗王の頭上を高々と超えた。そんに続いて30頭ほどの馬が続いた。馬具は備えているが無人だった。
「うわー何あれ!」
「ヘビ!ヘビ!」
「止まれないー!」
巫女たちは疾走し小龍の先頭を飛び越えた。それに反応した小龍が頭をもたげて思い思いの方向に食いついた。急に進行を止めた小龍に後続の龍たちがぶつかり混乱した。もつれあう小龍の胴体を巫女と馬たちは一糸乱れぬ統制で流れるようにくぐり抜けた。
「うわー!」
「なにこれ!」
「ヘビの柱だー!」
大回廊から大極殿の広場へ飛び出した巫女たちは、そのまま龍の柱を左まわりにまわった。黒い影となったフセ姫が手を上げるのが見えた。柱の先端が赤く発光して光条が五月雨のように巫女たちに降り注いだ。
「うわ!」
「あぶね!」
「逃げろー!」
光条を軽く避けながら馬たちのスピードは全く落ちない。砂煙を上げながら再び大回廊に突入した。それをまた小龍が襲う。しかし動きが早すぎて馬1匹たりとも喰われなかった。たちまち小龍の先頭を飛び越えてサンスたちの前に飛び出してきた。
「姉さま早く!」
「みんな連れてきました!」
「30頭全部です!」
「ぎゃははは」
「おっとあぶね」
態勢を立て直した小龍が再び襲い掛かってきた。生き残ったものたちは馬に分乗して駆けだした。小龍はそれに追いつき、最後尾のサンスを乗せた馬に食いつこうとした。口が馬を飲み込むほど巨大に膨れ上がり、剣のような歯がジャラジャラうなる音が聞こえた。それがサンスらを一飲みにしようとしたとき、いきなり小龍の前進が止まった。噛みつこうとした小龍の口が盛大に空振って大きな音を立てた。大極殿の柱から尾が抜けきっていないので、小龍の長さがちょうどいっぱいになって前進できなくなったのだ。サンスは馬を駆る巫女を後ろから抱きしめた。
「ふう、助かったわ、あんたたちよく来てくれた、ありがと」
「ぎゃはは、くすぐったいですじゃ」
馬は宮城門を駆け抜け、燃え盛る民部省の前を通り過ぎた。中は火の海となっており、文書を持ち出そうとする官僚たちで混乱していた。道観の塔はくずれ落ち、まわりの建物に火が回っていた。そこはすでに無人で、中庭の梅の木が火災の風にこずえを揺らしていた。
南大門が見えてきた。門は固く閉ざされていた。
「待て待て待て!」
「止まって止まって!」
「うわー!」
全騎が手綱を引いて止まった。砂煙が納まると門の前にワイ族の門衛たちが剣を構えているのが見えた。門上からは弓兵がこちらをねらっていた。
最初にポランが進み出た。衛兵の隊長はそれを見て驚いた。あわてて衛兵たちに武器を納めさせるとポランに駆け寄ってきた。
「ポラン様!いったい何が起こっているのですか」
「門を開けてくれ」
「今、宮城で異変が起こっているとの伝令が参りました。門は勅封されております」
「それじゃあ、門を開けることを俺が許してやろう」
「こ、これは国王様!ただちに開門いたします!」
「ここに小うるさい律令官がいなくてよかったよ」
隣で百済の律令官が苦笑いしていた。王はコムサに尋ねた。
「コムサよ、さっきの短剣はなんだ」
「はい、東晋使の節刀です。どうやら使い手の力を引き出すもののようです」
「ほんと?さっき私使えたよ」
「サンス、お前にはその手の力が隠れているのだよ」
「まるで妖刀だな。それではお前が息子に探させている倭人の大巫でもなけりゃ使えないわけだ」
「仰せのとおりです」
そのとき爆音が鳴り響き巨大な光条が南大門を襲った。2階の木造建物の中ほどが打ち抜かれ、ぽっかりと丸い穴が開いた。次の瞬間に大屋根が崩れ落ち、建物の大きな塊が門前に落下した。砂塵で視界が奪われたが、はるか遠くの宮城にそびえ立つ巨大な龍の柱の頂上が明滅しているのは分かった。
「早く門を開けろ!」
コムサたちが大きな閂を外した。全員が重い扉に取りついて門を開け始めた。至近距離に第2弾が着弾し、ようやく開きかけた大扉を爆風がまた閉めてしまった。
「もう一度開けるぞ!次弾までに間がある!みんな片側だけに集まれ!」
高句麗王もワイ族も周辺諸族の族長たちも、さらに百済の律令官たちも生き残ったものたち全員が、砂まみれで真っ白になりながら門を引っ張り開けた。門は重かったが、ある程度動きだすと勢いがついて動き始めた。水びたしになった市場が見える。東晋船が燃えているのも見える。そして門が開ききったとき、その向こう側に見慣れぬ一行が立っているのが見えた。それは到着したばかりの倭人の大巫たちだった。
「お前たちはいったい何をしておるのじゃ?」
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一瞬訪れた静寂のなかで柱を上下する龍のウロコの鳴る鈴の音のような金属音だけが響いていた。
「今のうちだ!王を収容しろ!」
コムサらが基壇上に展開して生き残りのものたちに手を貸した。フセ姫の姿にまた雑音が混じった。顔がバラバラと変化し再び西王母のものになった。
「マタ、オ前カ!ヨクモ我ガ龍ノ子ヲ殺シテクレタナ」
大極殿の柱にまだ尾をつながれたままの小龍がまっすぐ立ち上がってゆらめいていた。それらは柱とほぼ同じ太さなのでひとかかえほどもあった。やはり目鼻はなくゾワゾワと細かい歯をいそぎんちゃくのように蠢かせる口だけがあった。それが彼らの直上から襲い掛かった。何人かが上から袋を被せられるようにして喰われた。床にべとっと口をつけて人を丸飲みした小龍がゆっくりと上昇すると、そこには人の足だけが残っていた。あちこちにぼたぼたと小龍が降り、そのたびに味方が喰われた。
「よいか、あいつらは目がない。よく見て避けろ!」
コムサが指示を出した。同時にポランが喰われる寸前ですっと小龍を避けた。そして床に食いついてもがく龍の首を鉾を一回転させて断ち切った。それを見て族長たちも小龍を斬り始めた。それは旋舞のようにぴったり息があっていた。たちまち基壇の上は首を失い黒い血を吹き出しながらのたうち回る龍であふれた。小龍が攻撃をためらった。
「今のうちに撤収する!」
「スンヨ王、大丈夫ですか」
「すまん、助かった」
東市司が高句麗王に肩を貸した。オリは律令官を助け起こした。
「さあ行きましょう」
フセ姫は死んでいく小龍たちを眼下に見下ろしながら無言だった。龍の柱もときおりバチバチと電光を発するだけで、あいかわらず中の龍がウロコの音を響かせながら螺旋状に上下しているだけだった。
「ドウヤラ、オ前ハ、アノ剣ヲ持ッテイナイヨウダナ」
突然、コムサの頭上から勝ち誇った声が降りてきた。
「フハハハハ、虫ケラメ、溶ケ去ルガヨイ」
龍の柱が俄に振動を始めた。頂上が赤々と輝きはじめた。
「良いか!敵はわしがひきつける。お前たちは脱出しろ!」
龍の柱の各所でバチバチと電光が弾けた。低いうなるような音が響き柱の頂上がスパークした。ほぼ真下の基壇めがけて光条がほとばしった。そのときコムサの前に飛び出した影があった。
「フセ!やめて!」
サンスがかざした節刀は柔らかな光を帯びて輝いていた。巨大な光条はその先数メートルのところでふたつに切り裂かれた。コムサらの左右に落下した光条は基壇を深くえぐりあたりを溶かした。
「フセ!目を覚まして!」
三度、フセ姫の動作が止まった。輪郭が激しくぼやけ表情がまったく見えなくなった。しかし今度はフセ姫は現れなかった。黒い影のようなものに変じたフセ姫から幼い子供の無邪気な笑声が聞えた。
「キャハハハハ」
龍の柱が再び振動し頂上から八方へ細かい光条が降り注ぎ族長たちの行く手をはばんだ。
「フセ!」
「やめろ、もう狂っておる」
フセ姫のもとへ駆け寄ろうとしたサンスをコムサが止めた。
「それに、あれはフセ姫のまぼろしだ。ここを脱した後で本当のフセ姫を探せばよかろう」
「・・・天湖なの?」
サンスがうるんだ目でコムサを見上げた。コムサはあいまいにうなづいた。そうしている間にも小さな光条がふたりの上にふりそそいだ。それはまるで見えない膜にぶつかるようにコムサらの頭上で水滴のように四散し、まわりの石畳を溶かした。
「わたしを天湖へ連れていって!」
「よし、分かった、ともかく今は走るぞ!」
「はい!」
ふたりは基壇から中庭へ飛び降りた。呆然と立ち尽くす民部卿を横目に見ながらふたりは懸命に走った。族長たちも左右の回廊を走っていた。光条の攻撃は次弾が来るまでに間があった。広場を過ぎ、元は門のあった場所を駆け抜けたとき、大極殿の柱から生えた小龍が再び襲い掛かってきた。飛ぶような速さで地上を這い、最後部のものを喰った。それが何本も次々と追ってきた。走りながらサンスが叫んだ。
「わたしがもう一度この剣で!」
「だめだ!それは使い手の能力に応じて力を出すらしい。わしらが使っても小さな盾にしかならん。今は王の身柄を落ち延びさせることが先決だ!」
門のあった場所から大回廊へ入った。そこはまだ原型をとどめていた。朱塗りの列柱が続き、床は瓦製の平板が敷き詰めてあった。小龍は敷板を巻き上げながら赤く丸い口を開けながら数匹がそろって追ってくる。目が見えないので端を這うものがときおり列柱に激突して止まった。柱が折れて天井がばらばらと崩れた。砂煙の中から再び赤い口が現れたとき、欠けた端には後ろから1匹が踊り出て、再び数匹揃って追ってきた。逃げ遅れたものから次々と龍に食われていった。
「くそっ!逃げ場がないな!」
「ともかく前へ走れ!」
先頭は東市司と高句麗王が走っていた。もうすぐ大回廊を抜ける。外の光が満ちている。その光の中から何かが砂煙をあげて近づいてくるのが見えた。
「なんだあれは。新手の敵か」
そう思ったとき聞きなれた声が聞こえた。
「姉さま~!」
「遅くなりました~!」
「助けに参りました~!」
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コムサらは宮城の門をくぐった。そこはまだ酒宴のさなかで平和なパレードの余韻が残っていた。辺境部族の族長らがコムサを見つけて集まってきた。口々に無事を祝ってくれる。辺境諸族は時により敵味方に分かれて戦うときはあっても、楽浪郡落城以来の友人たちだった。
「よいか。城内で怪異が起こっておる。あれを見よ」
「あれは何だ?」
「龍の柱ではないのか」
コムサの指さした中門の向こうに龍の柱が立ち電光を放っていた。コムサはこれから起こることを話した。族長らの対応は早かった。酒宴に集まった王険城のものたちを退城させ、自分たちは再び武装した。たちまち中門の前に一個小隊の軍隊が勢ぞろいした。しかし中門は固く閉ざされこちらからの呼びかけに応じない。すでに敵に手に落ちたと考えるべきだろう。
「ここはだめだ。庭園側から回り込もう」
コムサは反転して宮城と隣り合わせの王宮庭園側から侵入することを提案した。一同が同意し反転しはじめたとき頭上を幾筋もの光条が走った。目もくらむほどまばゆいそれは耳をつんざくような金属音を発し広場の空気を震わせた。王険城のいずれへか落ち、遠い地響きとともに黒煙が各所から上がるの見えた。人の手で押しとどめることのできない巨大なエネルギーをコムサは感じた。それは他の族長らもそう思ったようだ。
「コムサ殿、これは麦原の戦いの再来ではありませぬか」
「もう黒娘が現れたか。手遅れかもしれん」
地鳴りとともに地面がはげしく揺れた。振り返ると中門のむこう側で新たな火の手があがり黒いキノコ雲が立ち昇った。
「いかん、来るぞ!みな伏せろ!」
コムサが叫んだのと中門の大きな扉が吹き飛ばされるのが同時だった。全員がわっと伏せた。その頭上を火球が飛び抜け宮城の表門に当たって炎上した。彼らの上にばらばらになった中門の扉が降り注いだ。ゴーという爆音が少し遅れて広場全体を震わせた。
ようやくコムサが立ち上がったとき中門の大扉が無くなり大極殿まで一直線に見通すことができた。すでに東市司らが走っており他のものが続いた。
「ああもう、いきなり突撃かよ!索敵も何もあったもんじゃねぇ。でもまあ今はそれしかないか」
コムサや族長らが後に続いて走った。大極殿前の広場にはさきほど軍司令部で見たのと同じ龍の柱が立っていた。大極殿は基壇だけを残して無くなっており、小龍が生き残った人間を食い荒らしているところだった。基壇の上に扁平なテントのような膜があり、その中に生存者がいるようだった。そこへ電光が落ち炎の中で膜の表面が薄い紙片のように浮き上がり剥がれていった。炎が消えたとき膜は消えており中の幾人かが焼け死んでいた。
「フハハハハ、ソノ程度ノ剣デ我ガ行ク手ヲ遮ルコトナドデキマイ」
「フセ!もう良い!止めてくれ!」
宙に浮いた黒少女が西王母の顔のまま民部卿を見下ろした。そこに人がいたことに初めて気づいたように少し驚いたようすだったが最初それが誰だか分からなかったようだ。それでも何かが通じたようで相手を検索するようにじっと見つめていた。そのうち黒少女の姿の輪郭が雑音が入ったように揺れ、ものすごい勢いで顔がさまざまな人間のものに変化した。そして元のフセ姫の顔に戻った。
「・・・とと様」
「もう良い。これで十分だ。私が間違っていた。私は審判(さにわ)を望んだわけではなかった。もうこれで良い。やめてくれ」
「・・・かか様が言うのじゃ、天湖へ行けと。別のいろんなものたちの声が聞こえる。わらわのなかにいろんな者が棲んでおる。・・・わらわは・・・ずっと龍の子と遊んでいたかった」
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面をあげたフセ姫はすでに人のものではなかった。髪は逆立ち耳元まで避けた口に牙をむき長い舌を遊ばせていた。眼帯の隙間からのぞく片目は丸く大きく爛々と赤く輝いていた。その後ろに半透明の巨大な筒が電光を発しながら急速に立ち上がっていった。
「出デヨ、ワガ大地ノ眷属(けんぞく)ヨ、咎人(とがびと)ドモヲ食ライ尽スガヨイ」
フセ姫の恐ろし気な声が死の宣告をした。同時に大量の小龍が現れた。勾欄の手すりの先、ひっくりかえった玉座の脚の先、そんな大極殿のあらゆる尖った先から押し出されるように小龍が生えてきた。黒い小龍で目も耳も無く、先端は八重に牙の生えた大きな口だけだった。体をくねくねと揺らせて外と出ようともがく。殿内にいたものたちは恐怖に目をみはった。
「いかん、目を喰われるぞ!目をつぶれ!」
高句麗王が部下たちに叫んだ。しかし、誰も目を閉じることはできなかった。軒先の垂木の先からザアッと小龍たちが滝のように垂れ下がった。外へ出た小龍は喜びに体を震わせて一斉にミャーと鳴いた。
「フハハハ、サスガ、ココハ晋ノ選ンダ龍穴ダ。龍ガ良ク育ツワ」
フセ姫は龍に怯える人間どもを見下して笑った。地響きとともに中天高くそびえた柱のなかに龍が現れた。気持ちの悪い黒い半透明な触手がぐねぐねと何本も現れ宙をまさぐりながら伸びた。そして何度も地面が大きく揺れ龍の巨大な口が現れた。柱の根本で死体の塊となっていた晋国兵の亡霊たちの目が音をたてて弾けた。飛び跳ねた眼球が大極殿の床にいくつも転がった。それを生まれたばかりの小龍たちが群がって食べた。
「コノ城ゴト皆殺シニシテクレヨウ」
小龍たちが人間を襲い始めた。見る間に殿内は血の海となった。そこに居合わせた貴族や役人、巫女や従者にいたるまで見境いなく小龍は襲った。民部卿は龍の柱の前に立ち尽くしながらそれを呆然と見ていた。
小龍たちは民部卿の配下のものも無差別に食い荒らしていたが、民部卿だけは無事だった。空中のフセ姫にも足下の民部卿は見えていなようだった。彼だけがこの凄惨な殺戮の現場とは異世界にいるようだった。これはいったい何なのだ。自分たちは道教の復興のために龍の柱を再現したが、それが完成したとたん人間全てが罰を受けることになるとは。頭上でフセ姫が笑い続けていた。
柱のなかの龍はシャラシャラとウロコを鳴らしながら上昇していたがようやく尾を現した。それはいくつにも枝分かれしており、それが触手のようにお互いからみあって蠢いていた。尾の先端にはなぜか数百の目があった。尾のウロコに間に開かれた丸い目は赤々と輝き初めてみる地上を舐めまわすように見つめていた。
百済使の使節団は節刀のタテに守られていた。その半透明のタテは今は水滴のような丸い膜に変じて使節団を守っている。端坐している律令官が高句麗王に手招きした。王はまさか律令官に助けられるとは思っていなかったので驚いたが、生き残った部下たちを集めて膜のなかへ逃げ込んだ。追ってきた小龍は膜にはじきかえされた。
龍が柱の最上部で反転した。柱のなかは上昇する部分と下降する部分とが二重らせんとなってずるずると動いた。目が上昇する横を巨大な口が降りてきた。触手が地面に触れると地下へは潜らず、そこで反転して再度上昇していった。
真っ赤な口のなかが光を帯び龍は火を吐いた。それは西側の回廊を直撃した。回廊の一部が霧散し、そのまわりで燃え盛っていた火が爆風によって消えた。再び地底から地響きがとどろいた。第2撃は大極殿を直撃した。基壇の一部が人間や小龍とともに消失し、爆風で大極殿が浮き上がり後ろ向きに転倒した。建物は柱の根本を天に向けてまっさかさまに基壇から落た。小龍の発動はまだ止んでいなかったようで、その数十本の柱の先から新たな小龍たちが噴き出した。
龍の柱から続けざまに雷撃が発した。ひとつは民部省を直撃し、中央大回廊とそのまわりにいた数百名の官僚が蒸発した。もうひとつは道観の大塔の中ほどを吹き飛ばした。一瞬宙に浮いた塔の上部は静かに落下し、塔の下部を押しつぶしながら下がっていった。最後のひとつは南大門も上空をうなりながら通過して、港の東晋使の船のうち残っていた1隻を打ち抜いた。ばらばらになった船の破片が対岸まで吹き飛んだ。その衝撃はテドン川に津波を巻き起こし上昇した水面が東西の市場を飲みつくした。
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フセ姫は律令官めがけて腕を振り下ろした。小龍は一直線に飛び込んできた。律令官が身じろぎしたとき、その懐から節刀が床に落ちた。巻いていた赤い布がほどけて節刀が転がった。サヤが抜け刀身がひとりでに床の上に立ちあがった。そして一瞬チカッと光ると急速に膨張して大きな半透明な盾となった。小龍は避けきれずそれに激突するとミャーというネコのような悲鳴を上げてフセ姫の足元まで跳ね返された。小龍はずたずたになって死んでいた。フセ姫は驚きに目をみはっていたが気を失ったように全身から力が抜けた。まるで宙に吊るされているような姿となって沈黙した。
律令官は何が起こったのか、しばらく理解できなかった。目の前には相変わらず半透明の盾が立っている。節刀を数百倍大きくしたような形で、頂上は天井を打ち抜いていた。盾からはかすかな振動音が聞え微光を放ちながら生きているように脈動していた。百済使の節刀は楽浪郡ができたころ晋国から遣わされたものだった。代々百済使はこの節刀を百済王の身代わりとして携えていた。その短刀にこれほどの力があったとは。律令官は一瞬旧敵であるタケ将軍を思い出した。あいつならこれをどう思うだろう。
高句麗王はホッとした。どうやら裁定は中断したようだ。大極殿は火がまわり始めていた。周囲の回廊にも火柱が立っており猛烈に黒煙を吹き上げている。今の内にここから逃げ出さねば。大極殿の後ろに後宮の跡がある。そこから隣接する庭園へ抜ける小門があった。あそこなら外へ抜けることはたやすかろう。
そう思い抜け目なくあたりを見渡した。百済使の連中は半透明の盾の後ろで縮こまっている。民部卿は呆けたようにフセ姫を見上げている。こいつは龍の柱を復活させたとか言っていたな。隠し事があるとは思っていたがとんでもないやつだ。ひょっとするとこいつは高句麗を滅ぼしてワイ帝国の復興をもくろんでいるのではないか。フセ姫は宙ぶらりんのなったままピクリとも動かない。黒焦げの亡霊兵団も硬直したように動かない。逃げるなら今しかなかろう。
高句麗王がそっと後ずさったときフセ姫が顔を伏せたまま笑だした。高句麗王は見透かされたように感じて悪寒が走った。フセ姫の笑いは人のものではなかった。男のような野太い声で、それは地獄の底から聞こえてくるようだった。
「フハハハハ、ワレハ西王母ナルゾ、聴ケ!虫ケラドモ、ワガ裁定ハ偽リニ満チタ現世(うつしよ)ヲ打チ砕キ真正デ永久(とこしえ)ナル命ノ源泉ヲ再ビ大地ニ甦ラセルデアロウ」
民部卿はここで起こっている一連の事件がフセ姫の夢と連動していること直感した。思えば、あれがトキ姫を超える巫力を得たのも道観に遊ばせたからであろう。あの場所は確かに道教の至高神・西王母を祀る道場だ。いつか娘は西王母の魅入られていたのだ。トキ姫の怨念がそうさせたのかも知れない。民部卿は庭に飛び出てフセ姫の元に駆け寄ろうとした。しかし彼は近づくことはできなかった。そこに龍の柱が立ち始めていたからだ。
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「われはトキ姫。いにしえより伝えられし審神者(さにわ)の扉が今ここに開かれよう」
フセ姫は母トキ姫の名を名乗った。それは彼女が薬効によりトキ姫の幻想に捉われてしまったのか。それとも
口寄せにより死者がひとときよみがえったのか。いずれにせよフセ姫は屋敷で倒れたのだから、今ここで宙に浮いている少女は生霊とも呼ぶべき幻影なのだ。不穏な気配を察して高句麗王が腰を浮かせた。
「あれはおまえの娘ではないのか」
「はい・・・いえ、娘は屋敷でやすんでおります。あれは娘の姿をしたほかの何者かです」
「トキ姫とはおまえの妻のことではないのか」
「はい・・・それもよく分かりません」
「作戦は中止だ。いますぐここへ近衛兵を入れよ」
「いえ、それはできません。今、宮城内に兵はおりません。門は勅令によりすべて閉じられました。しばらくは出ることも入ることもできません」
高句麗王は眉根を寄せたが、とりあえず座りなおした。勅令により封じられたものを開くためには途方もない手順が必要なのだ。特に門の開閉は国家の存立にかかわる事項なのでなおさらだった。こうなったら、どこか警備の手薄な門を襲って突破するしかなかろう。それにしても手勢が少なかった。
フセ姫は不敵な笑みを浮かべた。体が光に包まれ黒い燐光がまわりを飛んだ。彼女は両手を広げて旋舞するように回転した。再び落雷し、あたりは閃光に包まれた。砂煙のなかから兵士の影が浮かび上がった。それは楽浪郡落城のおりに命を落とした将兵たちの亡霊だった。甲冑を身を固めているが、それも焦げたように真っ黒で表情も分からない。天鼓が響いていた。それに合わせて黒い兵士たちは足を踏み鳴らした。その上でフセ姫は舞を止めると、左手を高くかかげた。その腕にまきつくように小さな黒い龍が現れた。
「それでサニワとはいったいなんだ?」
「神告による裁きの庭のことでございます」
「やはりきさまの仕業だったか!」
百済の律令官が民部卿に喰ってかかった。
「龍の柱とは封じられたはずの古代ワイ国の技だったのであろう」
民部卿は無表情に見返した。
「龍の柱は未完成でした。足りなかったのは大巫の力です。昔ならいくらでもいた天父の声を聴くものが今ではもうほとんどおりません。それをわたしはダエトン族の大巫トキ姫で完成させました。あなたにも天鼓の音が聞こえましょう」
律令官ははっとして空を見上げた。天鼓の響きがたしかに聞こえてくる。天鼓は遠雷のようだ。太古の昔より雷は神鳴りとして恐れられてきた。落雷は天神の裁きのしるしでもあったのだ。
「このように大巫の力は、天父の声の聞こえないものたちにもそれを聞かせることができます。神告を行うものとは審判者というよりは仲介者と呼んだほうがよろしいでしょう」
「では、これは神の意思だとでも言うのか」
大極殿のまわりに同時に数か所落雷した。殿内にも落雷し何人もが感電死した。爆風が吹き抜け各所から火の手があがった。トキ姫の裁定が始まった。
「晋国王は王険城包囲の知らせを受けながら援軍を送らなかった。楽浪は滅び、いにしえより伝えられし天神の祀りは絶えた。気脈は詰まり大地は疲弊した。その罪少なからず。いまその贖(あがな)いを受けるがよい」
フセ姫の振り下ろした腕から小龍が飛び出した。それは大極殿の玉座めがけて飛び東晋使の目を射ぬいた。東晋使は悲鳴を上げる間もなかった。龍の一撃の勢いで玉座ごと後ろにひっくりかえり絶命した。まわりのものは、ようやく何が始まっているのか了解したらしく、てんでにその場から逃げ出した。フセ姫が2度3度と腕を振ると忠実な小龍は逃げ惑う東晋の使節団を襲いその目を食い破った。黒い亡霊たちが喜びにふるえ、ときの声をあげた。
「百済王もまた楽浪を見殺しにしたばかりか、今ではその略奪者とよしみを通じて恥じるところが無い。なかんずく天神をおろそかにする事はなはだしい」
民部卿の顔色がまっさおになった。けれどさすがに彼は居住まいをくずさなかった。さきほどと同じ位置に端坐して裁定者の言葉を静かに聞いていた。たしかに百済は王険城にまっさきに援軍を送る立場だった。それまで数百年にわたって文明の恩恵に浴しながら、その恩人である王険城を見殺しにしたのだ。それは確かに道義にはずれた行いだった。今さらではあるが、そのことをなじられても弁明の仕様がなかった。民部卿が後ろに控える書記官たちに言った。
「よいか皆、動くでないぞ。あの龍は目が見えないようだ。動くと狙われる。それから目をつぶっておけ。右目だけでよいようだが」
「命乞いをせぬのだな。裁きの前でよき心がけじゃ。しかしその贖いは晋国王と同じじゃ。さあ裁きの剣を受けるがよい」
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8ヵ月ぶりに釣りに行った。残念ながら1匹も釣れなかった。でもチェアーの上でビールを飲んで昼寝をして、まあ楽しかった。
釣り場全体に低調だったが、それでも大型のタイを釣っている常連さんもいたし、20センチ級のアジや15センチのガシラ、30センチのヒラメなどが釣れていた。だから魚がいないわけではなかろう。不思議なのはフグさえ釣れなかったこと。水温がまだ15-17度とちょっと低いせいかも知れない。
海面は真っ黒で透明度は1メートルもないだろう。大阪湾の水質はよくなったと聞くが、見た限りではひどいものだ。対岸の岬町あたりの透明度は3メートルくらいはあるので、大阪神戸沿岸の海底にたまったヘドロが巻き上がっているのではないか。高度成長期の20年で汚れた海が元にもどるのに100年以上かかるのかも知れない。
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前から気になっている地名に関する謎をメモしておく。謎は解けたわけではない。
関西以外の方のために多少地理的な説明をしておく。大阪湾の北側に神戸があるが、その後背地には六甲(ろっこう)山脈がそびえる。海岸からすぐ900メートル級の山脈が立ち上がっている。その東側で大阪湾に流れ込む大きな川に武庫川(むこがわ)と淀川がある。武庫川の源流は六甲山地の裏側であり、淀川は京都から流れている。
さて、気になっているというのは淀川水系の「神川」という地名だ。神川と書いて「かもがわ」と読ませる。ここは淀川(正確には桂川と名前が変っているが)と鴨川との合流点だ。鴨川は平安京の青龍とも言われる有名な川である。神川の神川神社が下賀茂神社と同じ雷神を祀っているなら話は早いが、ここには住吉神が祀られている。地名が「かも」なのでカモ氏の領域だったとされているが、どうも釈然としない。祀っているのが住吉神ならカモ族ではなくスミ族ではないか。
一方、神戸の六甲山は武庫川と同じ「むこ」地名だとされる。「むこ」の意味は不明だがアイヌ語で神を表す「かむい」と関係があるという説がある。でもどうすれば「かむい」が「むこ」に転じるのか釈然としない。今回のなぞは「釈然としない」ことばかりだ。
六甲山脈の東端に甲山(かぶとやま)がある。ここは真ん丸な山で本当に兜に見える。上昇した溶岩の塊が、その後の風化で露出した珍しい地形だと私は習ったが、その後それは間違いだったとされた。でも今はやはり火山活動がらみだろうということになっていて地質学的にも謎な山だ。
ここは神功皇后が兜を埋めたという伝説がある。神功皇后は応神天皇を身ごもりなら懐に石を入れて出産を遅らせて外征した。神功皇后は出産を自在にコントロールできたので安産の神として祀られることが多い。ここに目をつけた弘法大師が・神呪寺(かんのうじ)を開いた。如意輪観音を本尊とし雨乞いや子安をご利益とする尼寺だ。
真ん丸な山は妊婦のように見えるから、ここが安産の霊地となるのは分かる。さらに円と言う形は金気だから丸い山が水気を生むことは五行説通りだ。だから雨乞いの霊場となるのもうなづける。甲山は本来は「こうやま」と読み、その意味は神山だという説もある。神は「こう」とも読むからそれはありだろう。寺ができる前からそこは巫女の治める聖域で、その名残が尼寺になったようにも思う。
しかし神呪寺の本地は広田神社の瀬織津姫なのだ。これは瀬を織るのだから河神だ。鴨社が雷神で、神川社が海神で、広田社が河神だ。ばらばらで説明がつかない。
神川の西に向日(むこう)丘陵がある。そこに向日神社がある。これは元は向神社と書いたらしい。読みは向日も向も「むこ」だ。向日神社のご祭神は大歳神の御子神と雷神である。ようやく雷神がつながった。ムコ=雷神=カモが基本ではないかと思う。分からないのは瀬織津姫だ。雷神=河神とでも言いたいのだろうか。それはちょっと強引ではないか。
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