2015年3月30日 (月)

ワークワークファンタジア(61)

 オリたち一行は宮城の門前までやってきた。門の左側には軍司令部が廃墟となっていた。宮城と同様の見上げるばかりの城壁に囲まれ、メインストリートに面して3連アーチの門があった。城門は打ち砕かれ司令部内部は火災で燃えぬけていた。楽浪郡落城から数十年たった今でも誰も手をつけられず、落城その日のまま時間が止まったような廃墟となっている。民部省はその向かいに、まったく同じデザインで建っていた。こちらは往時のままだ。

 アーチ門の上は鼓楼となっており、2時間おきに太皷が鳴らされれる。律令制は1時間きざみで遂行されるのだ。かつては向かいの軍司令の門上に鐘があり、民部省の鼓と交互に1時間おきに時を告げていたのだった。

 オリたちは門衛に取次ぎを頼んだ。中庭に面した回廊に通されてそこで担当官の迎えを待つことになった。東市司は門を入ってからどこかオドオドしている。オリが尋ねた。

「どうしたんですか? 話しは通してあるのでしょう?」
「いやなに別に大したことではないんだが、俺はここへ来るとどうも落ち着かない。」
「・・・どうしてですか?」
「どうしてだろう? 自分でもよく分からないのだが、なんというか俺たちは市場育ちだろ。市場だったら何が起こっても何とかできる自信があるけど、ここは何が起こるか分からない不安というか居心地の悪さがあってな。まあ、別に何も起こるわけは無いんだけどな」
「・・・そんなものですかね」
「すまん! ここから先はお前に頼む! 連れてきておきながらこう言うのもなんだが、どうもここは性に合わない。頼む!」
「・・・別に構いませんけど、市場と民部省の関係ってそれほど悪いんですか」

 中庭には紅白のツバキの木があった。さきほど見た道観の梅の木と同じほど大きい。こちらは満開を過ぎそろそろ散り始めているところだった。それぞれの木の下に花びらがうずたかく降り積もっている。さきほどから巫女たちはその花びらの中で転げまわって遊んでいた。そのうち掻き集めた花びらを一斉に空高く放り投げて笑っていた。

 しばらくすると伴を連れた主計官がやってきた。小太りの中年男で衣冠は正しいが、とりあえずあわてて出てきたという風だった。

「おまたせしました。なにぶん正午前で取り込んでおりまして、さしてお相手もできないかと思いますがお許しください」

 主計官は最初から東市司を無視していた。東市司の代わりにオリが応えた。
 
「いえ、わたくしたちのほうが無理をお願いしております。城下で不審な事件が続いております。その正体を喫緊に調べる必要があることをご理解ください」
「いや存じております。陰陽寮が動くとなると相当のことでありましょう。民部卿からもオリ様をたすけるようにと言付かっております。なんなりとお尋ねください」

 主計官は東市司をうさん臭そうににらんでいた。民部省は晋朝由来の正統な役所だった。一方市場は晋朝に支配される側の辺境の民であった。市場は役職上は大蔵省の下部機関で、東市司はそれなりに身分もあったが、民部省役人から見れば下等な非文明人だったのだ。と、主計官は東市司の後ろに族長を認めて驚いた。

「これはポラン殿ではないですか。お久しぶりです」
「・・・ん、世話になる」
「いや、これは行き違いでした。民部卿はさきほど城外のワイ族宿舎へ向かわれたところです」
「・・・そうか。帳を出したいのだが」
「分かりました。担当を呼びますのでしばらくお待ちください」

 帳とは貢納品の目録である。主計官に指図されたとものものは回廊を走りさった。

「それじゃあ、まあ参りましょうか。お預かりしているものもあります」

 主計官はオリを伴って回廊を歩き出した。歩きながらオリが振り返ると東市司はほっとした表情で笑っていた。オリは面倒を押し付けられただけなのではないかと少し不機嫌になった。

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