2015年3月25日 (水)

ワークワークファンタジア(60)

 当時の役所は8省に分かれていた。それはあたかも軍隊のような構成で命令系統が明確にされていた。しかし、各省庁は執政官のいる宮城の外にまちまちに置かれていた。それは役務ごとに有力豪族が請け負っていたからだろう。当時の軍制が王の元に統一されていたわけではなく、豪族の連合軍のような形式をとっていたことと同じだ。もちろん王は軍隊や役所の司令部であるが、それは限定的な権力でしかなかったのだ。

 民部省は王険城の役所の心臓のような部署であった。元はここは中国本土から派遣された官僚が支配していた。民部省と楽浪郡の軍司令はこの都の根幹であり、宮城正門の左右に役所を構えていた。楽浪郡落城後は軍司令は無くなったが民部省は高句麗の豪族たちの共同管理となった。中国出身の律令官たちをまるごと温存させたのは民部卿と高句麗王だった。それ以来、民部卿は辺境出身の後ろ盾のない身でありながら高句麗の豪族たちと対等に渡り合ってきたのだ。

 オリたちは都の門から宮城めざして歩き始めた。柳が芽吹きはじめ春らしい日和だった。ここは都のメインストリートであるにもかかわらず閑散としている。この道は宮城で行き止まるので、ダエトン川で陸揚げされた大量の貢納品はサブのストリートを通って北側へ抜けていた。この道は主に軍隊パレードのためのものだったから、前線が膠着している今はほとんど出入りがなかった。柳並木の幅50メートルはある道路だったが、楽浪郡陥落後はほとんど整備もされず、排水不良により池のような水たまりがあちこちにできていた。さらに道路を不法占拠した建物や農地が広がりつつあった。民部卿ならこの状況を苦々しく感じたろうが、オリたちは街中の田園風景を楽しんでいた。

 前のほうを舞姫たちが楽しそうにあちこち走りながら行く。その後をオリと東市司が続き、最後を族長が歩いていた。族長は民部省に貢納品の手続きを教えてもらうと言い、舞姫たちはそれに便乗して役所を見るとついてきたのだ。

「なんでこの件はワイ族がらみなんだよ」

 東市司がぼやいた。本当にワイ族が苦手らしい。

「でもな、俺はワイの馬は好きだな。ああいう馬を乗りこなしたいと思うよ」
「ワイは馬の産地なんですか」
「なんだ知らないのかよ。ワイの馬は晋を滅ぼした騎馬の主力だぜ。まあ、あんな馬を自由にあやつれるのはワイ族くらいなもんだ。今は東晋の連中がみんな持っていってしまうがな。東晋であれを使える武将が本当にいるのかね」

 半分ほど進んだところに大きな道観の廃墟があった。道観とは道教の寺院のことで、道教とは陰陽道や風水思想を背景とした宗教だ。その門前に紅白の巨大な梅の木があった。それが見事に花を咲かせており、舞子たちは呆然とそれを見上げていた。

「ここは方士の本拠地だったところだろ。おまえの本拠地みたいなところじゃないのか」
「わたしは方士ではありません。陰陽師生です。でも確かに道観が今も続いておれば良かったとは思います。陰陽寮にはほとんど文献が残っておりませんでした。ここの書庫が健在であればどれほど世の中の役に立つことでしょう」
「・・・本がそんなに大切かねぇ」

 東市司も立ち止まって梅の木を見上げてそう言った。一陣の風が吹き紅白の花びらが青空に巻き上げられた。舞子たちはわぁーと言いながら空に両手を差し伸べた。東市司はのどかな春を満喫した。オリは散逸する文献を連想して感傷にふけった。族長はこれから起こる波乱を予感した。

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