平成の京町家で京都建築専門学校の卒業設計展が開かれた。見せてもらってから半月たっているが来年のためにも感想をメモしておく。6日の午前中に3時間ほどかけて見せてもらった。午後の講評会でその場にいた方たちには感想を伝えた。円満字賞は講評会に参加してくれた方のなかから3つ出した。
次々と作品が搬入されていたが、6日の午前中に無かった作品のコメントはないのであしからず。1年生の作品も混じっていたがそれもおもしろかったのでコメントに加えておいた(どれが1年生だったのか実はよく分かっていない)。
< 全体として >
建築学校の卒業設計も様変わりしたと思う。昔なら認められなかったような建築論的作品が増えていてわたしは楽しかった。建築論的作品は完成が難しいので推奨はできないが、なにか今までとは違うものを創ってみたいと思う心情はよく分かる。最終的なプレゼンの方法をいかに早くつかむかが大事だろう。
基本的な設計力が高いことにも驚いた。外観について全体イメージをもう少し明確にすればさらによくなったと思われる作品がいくつかあった全体イメージのつかみかたは人それぞれだが、わたしの場合は似た歴史的作品を参考にすることが多い。過去の作品をたくさん見ることが成長につながると思う。
円形プランをわたしは推奨しない。行き詰まったときに円形プランが浮かび上がる心理的現象がある。出展された円形プランのすべてがそうだとは言わないが、円形にする必然性がない場合は自戒する必要があるだろう。
ちなみに過去の感想は次のとおり。
2013年度卒業設計展(参照)
2009年度卒業設計展(参照)
< 個別に >
「景色メインのリゾートホテル」
琵琶湖を望む比良山頂に計画された小規模なホテルだ。赤い屋根が特徴的なヒュッテ(山小屋)と呼んだほうがよいだろう。琵琶湖に向かって弓なりに客室を並べたところや、レストラン用専用の入口を設けるなど工夫の跡が見られた。とくに敷地の段差を活かした設計には力がある。
「運動後の銭湯」
大阪城近辺に計画されたスポール支援施設だ。タイトルにあるように風呂場やロッカー室、大阪城の見えるテラスとレストランがある。テラスからランニングコースやテニスコートへ下りる大階段があってデザインを特徴づけている。風呂場を2層吹き抜けの大浴場として建物のなかへ組み込んだあたりよくできていると思った。
「Play space」
宝ヶ池のこども園に冒険のできる建物を計画した。プレイルームと図書館のふたつの円筒形の建物をホールでつなぎ、建物の周囲にはスロープ式の屋外通路がめぐらせていた。この作品は建築論的な試みだったとわたしは思う。こどもたちの秘密基地は日常風景をわくわくした魅力あるものに変えてくる。それは都市計画の原点でさえある。そんな不思議な魅力を再現しようとしたように見えた。
「一息プラネタリウム」
これも建築論的な作品だと思った。四条通に面してドーム型のプラネタリウムカフェを設ける。ドームのまわりには杉が植えられていた。ルドゥの「ショーの製塩工場」を思わせる。ルドゥ建築の持つ独特の象徴性に通じるものが感じられて興味深かった。床をガラス張りにして完全球体のプラネタリウムにしても良かったなと思った。
「The accommodation of the rest」
桂川河畔のバーベキュー広場と宿泊施設だ。馬蹄形の宿泊所プランはよくまとめられていた。おもしろかったのは、広場を囲んだ小さなロッジ群だ。わたしはこれはぜひ木造で作ってほしいと思った。円形古民家は四国のサトウキビの絞り小屋を見たが、とても魅力ある建物だった。小さな円形のものが円形に立ち並ぶ姿もおもしろい。サバンナの日干し煉瓦でできた集落にもこういうものがあるし、日本の竪穴式住居も円形に並んだ集落は多い。おそらく社会の形を建築化したときに円形集落になることが多いのだろう。そうしたことも考えさせてくれる楽しい設計だった。
「0-Dina cafe」
賀茂大橋西詰に計画された犬カフェだ。パースが上手だと思った。テラスからは鴨川越しに大文字山が見える絶好のロケーションだ。卒業設計は敷地選びに成功すれば作品の半分はできていると思う。鴨川には犬を散歩させる人たちのゆるいコミュニティが存在する。犬は猫と違って人間の社会性と深く関わっているのだろう。そんなことも考えさせてくれる楽しい作品だった。
「和菓子屋カフェ輪菓子」
宇治に建つカフェの計画だ。2階客席へあがる階段が露地風な造りになっていておもしろかった。木造であることも良かった。各室の展開図まで揃っていて驚いた。これだけ図面を描くのは大変だったろう。スケッチに独特の雰囲気があってとてもいいと思った。
「自分スタイルを見つけるカフェ」
このひとも絵がうまい。ペンと水彩だろうか。いくつかの性格の違うコーナーがつながっていくプランだが、それをスケッチでよく描き分けていた。
「学習図書館」
ハリストス正教会が中庭から見えるところがすばらしい。中2階にエントランスホールがあり広い階段をあがっていくのがおもしろい。円形の閲覧室があってアスプルンドのストックホルムの図書館を思わせる。円形プランはけっこう難しいのだが、うまく捌いて上質な設計となっていた。
「石炭記念館建て替え」
宇部炭田のたて坑のシャフト塔が保存されて展望台になっているそうだ。それを再度リニューアルするという計画だ。歴史的建築物の保存に関わる作品は今回はこれだけだったが、なかなかよくできていた。タワーの形がおもしろいので資料館は別棟で建てる考えもあったかと思ったが、設計そのものはよくまとまっていたので良かった。古いものを再生するという精神がよい。
「子育ての学校」
認定こども園の計画だ。木造でも良かったかと思ったがどうだろう。斜面に建てられており、段差の解消がたくみでなにげに設計がうまい人だと思った。設計をまとめるに当たって全体像を空想する力が加われば伸びる人だろう。
「○から△から□」
今回見たなかでは一番おもしろかった。金沢の21世紀美術館が丸いので三角と四角の施設を続けて並べている。この作品のおもしろいところは、既存の美術館や博物館などの展示施設を回遊するコースを設定し、その中間に三角や四角平面の休憩所を設計したこと。建物自体を設計したというよりは、既存建物の「間」を設計したわけだ。これは建築にとってとても大事なことだが忘れられていることが多い。そこへ着目したことをもっとも評価したい。デザインも水を使うなど工夫されていて見ていて楽しかった。ちなみに風水では○は世界の最初の混沌を、△は天地人の世界の誕生を、□は世界が十分開かれて4つの季節がめぐることを象徴している。
「都市に生きる火葬」
この作品もおおしろかった。船岡山に火葬場を作る計画で、木造の長い大屋根の下に参道をつくりその両脇に施設を並べた。建築論的な作品だがそれを見事に建築化しており、今回もっとも設計力を感じた作品だった。災害時に屋根を解体して火葬を続けるというダイナミックなアイデアもおもしろかった。わたしは木造の和小屋がとてもきれいなのでいいなと思った。
「歩み続ける意思」
これは完全に建築論的な作品で具体的な形の提示は無かった。成長を続けるストゥーパをイメージしたのだそうだ。わたしはサグラダファミリアやPL塔を連想した。ある種の宗教施設として考えれば、また違った展開があったかも知れない。
「京都科学博物館」
京都水族館に隣接して展示施設を設けるもの。円形ホールから各室へアプローチする計画になっている。バックヤードからの動線も確保されており、設計としてのレベルは高い。ホールのまんなかに大きな地球儀が回転しているのもおもしろいと思う。外観のイメージをもう少し明確にすればさらによくなる作品だと思った。
「社会復帰施設+道の駅」
大津プリンスホテルに隣接して、障害者の作業所を計画した。農園のある修道院のようなたたずまいでおもしろいと思った。シンメトリーに計画されておりルドゥの新古典主義を思わせる。わたしはロマネスク風に左右非対称の中庭プランとする方法もあったかと思った。やはり外観イメージを明確にすればさらによくなる作品だと思う。
「琵琶湖福祉施設」
堅田の湖畔の老人福祉施設だ。ホールを中心にロの字型の廊下をめぐらせ回遊型に居室を並べた。回遊型プランは痴呆症の徘徊にも対応し、また避難上も有効だ。なかなか難しいプランだがよくまとまっていたと思う。中央吹き抜けの食堂は天井からの採光なのだろうか。それもいいと思うが、半分中庭にしてテラスを設てもよかったかと思った。
「悪場所」
今はなき五条楽園の地下に悪場所を設ける建築論的作品だ。悪場所とは賭場や遊郭のようなところだ。巣穴のような不定形なアンダーグランドが広がっていて、その出入り口が地上のところどころに開いている。ほこらの陰であったり墓地の亀甲墓であったりと、綿密なロケハンに基づいて計画されていることが分かる。日常と隣合わせで非日常のアングラが広がっているという構想力がすごい。唐十郎の「犬狼都市」を思い出した。
「老人学校」
西陣大宮通りに敷地がある。図面がすべて揃っておりよく描いている。中庭がもう少し広がってそこへ縦動線をおく手もあったかと思った。やはり全体イメージがもう少し明確になればさらによくなる作品だと思う。
「海の中へようこそ」
水中公園の計画だ。海のなかへ降りていく通路が出色だ。とても不思議な感じがするだろう。海中施設の最下層に到達し、そこから海面まで登っていく計画もおもしろい。海上へ出て潮風にあたったときどんな気持ちがするだろう。帰りはそこから連絡ボートでもよいかも知れない。なかなか素敵な建築論的な作品だと思う。構造的な制約から離れて海中の城のようなものを自由に想像してもよいのではないかと思った。
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