2015年2月 1日 (日)

ワークワークファンタジア(54)

 庭園から出た民部卿は門前で輿(こし)に乗った。4人でかつぐ神輿(みこし)のような乗り物だ。王険城の豪族たちは華美な輿を使ったが、民部卿のものは濃いグレーに金色という配色だった。伴のものたちも黒装束だったから、見ようによっては原色使いよりも派手かも知れない。

「東市へ行きます。話をしながらなのでゆっくり行ってください」

 民部卿はそう言って御簾を下げた。左右に側近たちが随行する。それぞれ薄墨色の烏帽子をかぶっている。そのうちのひとりが輿に寄り添って報告した。


「燕へ送った使者はまだ帰りません。王宮に留め置かれているようです。随伴の監視役によれば首尾は良いようですがこちらの真意を疑うものが多いとのこと。こちらの決起を待つとの報告です」
「まあそうでしょう。わたしが王でもそう言いますよ。分かりました」

 次の側近が報告を始める。

「百済使はまだ街道の途中です。周辺部族の饗宴を受けているようですが、数日後には王険城へ到着する見込みです」
「まだ時間が足りません。後何日か時間稼ぎしてください。百済使の入城は5~6日後にしましょう」
 
 高句麗王は百済使と会うのを嫌がっていたから遅れる分には構わないだろう。その前にやらなくてはならないことが多すぎた。次の側近が報告した。

「百済密使はすでに東市に到着しており東市の内大臣と会見した模様です」

 民部卿はふふっと含み笑いをした。

「おもしろくなってきましたね。内大臣が百済と通じていることを王の耳に入れてください」
 
 輿は朱雀大街へ出た。幅60メートルほどの大通りだ。まっすぐ南へ続いており、南大門の先にテドン川がある。東市はそのほとりだ。4人目の側近が報告を始めた。

「伽耶への使いはまだ帰りません。監視役も不明です。露見して処分されたのかと」
「・・・失敗しましたか。使いと監視役それぞれの部族に弔意を。・・・丁重にお願いします」
 
 民部卿の深いため息を側近たちは聞いた。外交は命がけだ。使いに出るものはそれなりの部族の若いものたちだった。戦時であるから失敗すれば命が無いこともある。そのこと自体大きな損失だが、それ以上に部族間の信頼関係を損なうわけにはいかなかった。民部卿は高句麗王よりも部族間の信望はあつかったのだ。

「倭国の巫女の居所はいまだ不明です。新羅軍に随行したのかも知れません」

 5人目が報告した。

「金城へですか。大巫に会いにいくというのは筋が通ります。金城は内大臣が調べていますからいずれ分かるでしょう。・・・あれだけの怪異を引き起こす魔物ですからどこにいてもいずれ分かるでしょう。」

 輿は南大門の前に至った。民部卿の一行と察した門衛たちが勢ぞろいして出迎えた。輿は止まり御簾を上げた民部卿は衛兵たちを見渡してうなずいた。王都の正門である南大門を守るのは辺境の民・ワイ族であった。ワイ族に限らず律令官は地方の弱小豪族出身者が多かった。中央豪族からは一段低く見られる彼らにとって民部卿の存在は心強かった。中央豪族たちが自分の部族のことしか気に掛けなかったが、民部卿はワイ族以外の辺境諸部族をも重用した。今の高句麗王が王位継承できたのも辺境諸部族の支持をとりつけたことが大きい。もちろんそれは民部卿の功績だ。

 門は城壁の一部にうがたれた穴で日干しレンガの大きなアーチになっている、その上に2層屋根の楼閣が載っていた。民部卿を乗せた輿がその門をくぐるとき6人目の側近が報告を始めた。

「陰陽寮のオリ博士はすでに我が国のキャラバンと接触しました」

 民部卿は輿の上から門衛たちを笑顔で閲兵しながらしばらく返事をしなかった。南大門が背後に遠ざかるころようやく民部卿はためらいがちに言った。

「ちょっと不思議です。オリの監視は続けてください」
 
 

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