2015年1月27日 (火)

ワークワークファンタジア(52)

 今回成立した商談は東市全体を見てもかなり大きなものだった。ワイ族のもたらしたものは北方海獣の皮革類だけではない。どういうルートがあるのかシルクロード経由の青銅製品や黄金の貴金属類もかなりあった。シルクロードを閉ざされた東晋はこうした金属製品を大量に買い付けるために王険城の市場をめざした。しかし東市の中心的な交易品目だったと言える。

 大商談成立を聞きつけて市場中のものが集まってきた。交易の決済は必ず神前で行われた。臨時の祭壇が設けられ交換品目を記帳した木簡がささげられた。交換は神の立ち合いでなければ行えなかったわけだ。その後で大酒宴となった。交易当事者が市場に居合わせた全員にふるまうのだ。

 ワイ族がやってきたのは数年ぶりだった。北方のワイはどんな地域なのかあまり知られていない。古式を残した習俗を守りながらも最新鋭の製鉄技術を有するという不思議な文明の持ち主だった。過去には強大な帝国だったとも言われるが、いまは辺境の部族連合でしかない。ただ馬の産地であり馬術に秀でているため騎兵戦は強かった。

 神事と酒宴はワイ族の宿舎で行われた。宿舎はこうした不定期な交易や毎年の朝貢のためのキャラバンの宿舎に当てられる。東市には各地の部族国家の宿舎が建ち並んでいたが、なかでもワイ族のものはひときわ大きかった。ここは晋帝国が楽浪郡を置く以前からワイ族の出張所があった。ワイ族とダエトン族との交流はそれほど古いのである。

 宿舎は竪穴式の巨大なもので幅が10メートル長さが40メートルほどあった。柱が3列並んで三角形の茅葺き屋根を支えている。一番奥に設けられた祭壇の前でワイ族の巫女たちが奉納の舞を舞っていた。王険城では巫女の伝統が絶えていたのでダエトン族たちはもの珍しそうに見ている。

 巫女たちは黒衣であった。黒は大地の色であった。彼らの神は大地の女神だったのだ。黒と言っても漆黒ではなく濃いグレーで、そこへ五色の色糸で渦巻き模様が刺繍されていた。髪は結いあげてやはり同じような色の布で巻き締められていた。くつは編上げのブーツで、それで器用にくるくると回った。琵琶に似た弦楽器が鳴り響き、どことなくシルクロード風に見えた。祭場には薬草が炊かれていた。奉納舞が進むにつれて祭壇の炉に薬草がくべられる。それはオリの知っているオオヌサだった。オリはそれを眺めながら亡くなったひとりはやはりワイ族の巫女だったのだろうと思った。

 ワイ族もダエトン族も案外酒に弱かった。夜も更けたころ、祭場に集まった者たちはほとんど眠りに落ちだらしなくいびきをたてていた。東市司も祭壇前の主賓席で眠りこけている。消えかけた松明の熾火に照らされ族長とオリの顔が浮かび上がる。オリは東市司と追っている事件の話をした。族長は寡黙で話が通じているのか不安だったが、話し終わって協力を依頼したとき続投はオリの顔を初めて見て深くうなずいてくれた。

 

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