摂南大学住環境デザイン学科卒業設計展 感想メモ
1期生の卒業設計展を見てきた。設計は14名ほどで、ひとりづつ見ていたら1時間半ほどかかった。どれも興味深かったので感想をメモしておく。
< 個別に >
「オワリカタのススメ」
うまいと思う。建て込んだ町中における小規模低層再開発の事例で、構造フレームから独立した間取りにより家族構成の変化に対応する。共有庭を中心にした住居計画は80年代コーポラティブハウスを思わせて興味深かった。建物の建っていない庭や細い通路こそ建築の魅力だし、それがつながって町になる。小さな計画だが町への広がりを感じさせてくれる作品だ。
「近所づきあいを取り戻す都市集住のかたち」
細長い敷地選定がおもしろい。人口地盤の上の集合住宅計画で、構成はコルビュジェのユニテダビタシオンに似ている。1階の大アーチとその上の小さなブロックの組み合わせはデザイン処理が難しいが、大アーチで風を通すという考えが魅力的だ。夏の暑い日も風の通り道、たとえば町中の小河川沿いには自然と人が集まる。風の道がコミュニティ形成に一役買うことに着目した作品だと思う。
「新世代オフィスの集合知」
模型がうまい。最近定着してきたコワーキングスペースの作例だ。コンクリートのフレームを使ったドミノ方式を採用している。これは指導側の問題だが、卒業設計で構造的な制約はあまり気にしなくて良いだろう。壁式のCプランのデザインが一番おもしろかった。それは構造的な制約から離れているからだろう。形態操作に手慣れていてデザイン力があると感じた作品だ。
「人と川のつながり」
歴史を押さえているところがポイントが高い。防災上は海洋型地震のとき川沿いは決して避難に使わない。むしろ被災後の救助復旧拠点として、この計画は役立つだろう。しかし、この作品の見どころ防災ではなく、川を町の一部として使うという発想にある。元来大阪はベネツィアと同じ川に開いた町だった。中村鎮の水上公園計画(長谷川堯「都市廻廊」)を思い出してワクワクした。川沿いのコマコマした水上建物群がおもしろかった。
「時とともに歩む住居の一生」
よく考えられている。中山間部再生をテーマとした集落計画だ。古民家には下屋を付けたりはずしたりして、家族構成の変化に対応できるシステムが備わっている。木造の良さは、社会的変化にもある程度追随できることだ。部屋をパネル化することで、間取りの変更や移築に対応する計画になっている。住民とともに住居の一部を移築できればすばらしいだろう。現代のパネル工法は量産使い捨てを前提にしているが、それを古民家システムに応用した逆転の発想がおもしろい。
「農業遊学」
集落全体を学校にするという着想がおもしろい。ケンブリッジにせよオクスフォードにせよ、大学は修道院建築の延長であり、中庭と廻廊とでつながり合いながら広がって小さな都市となる。この作品の敷地に選ばれたような環濠集落は真宗寺院を中心とした宗教小都市だから、そのまま学校になることも可能だ。新しく作るというよりあるものを活かす、もしくは無くなっているものを再現するというちょっと難しいテーマだが、わたしはおもしろかった。
「人の流れを変えるLRT」
最近注目されている都市交通、ライトレールの駅舎計画だ。市電の復活みたいなもので、実際にこうした取り組みが地方で始まっている。駅舎はわたしも大好きでいろいろ考えたり描いたりしているが、この作品は広場的なにぎわいと駅舎との複合を考えているように見える。湾曲したプラットフォームが素敵だ。そこから広場が見えればまるで宮沢賢治の銀河ステーションを思わせる。大阪の廃線駅を敷地に選んだほうが考えやすかったかも知れない。
「Stay Alive With」
医療施設と高齢者用住宅との複合施設計画だと思う。円形プランはショーの製塩工場以来の古典主義的な形態で結構むつかしい。なぜ難しいのかと言えば、動線がたくさん作れないからだが、大型の病棟の動線は患者、看護、サービス、避難、汚物処理の5つになる。難しいけれどうまくまとまればとても美しい。病棟の花のようなプランがよくできていて美しいと思った。
「こどもと一緒にまちを考える」
だんじり祭りをテーマにした施設計画。実際に祭りのある地域を選び、その歴史的な風景を調べている。町は祭りのときだけ別の顔になる。そのことをきちんと押さえていることのポイントは高い。さらに祭りはコミュニティー計画の要ともなる今後さらに重要となるテーマだ。原広司の一連の集落研究に通じるようにも思う。地域の歴史的な現状にきちんと向き合おうとする真摯な気持ちの伝わる作品だ。
「Omotenashi House」
すきま建築の試みだ。神戸の南京町の路地や空き地に宇宙船のような建築がはさまっていておもしろい。この町には年中お祭りのような雰囲気がある。お祭りは非日常な幻覚が町に立ち現れる状況だが、それをうまく使った作品だ。見終わった後も頭から離れず、思い出しながらジワジワとおもしろくなってくる不思議な作品だ。円満字賞を贈る。
「日本とコリアのあいまいな境界」
文字の建築化の試みでおもしろかった。たとえば「門」という象形文字はもともと建築の門を文字にしたものだし、神社の鳥居やしめ縄も文字の建築化なのではないかと思う。だから文字の建築化は十分可能だ。多少正確に言えば、建築には象形文字と同じような象徴機能があるということだろう。文字の建築化を通して、建築の象徴性の一端を明らかにしようとする結構大きなテーマだったと思う。
「景色をめぐり、命がめぐる森」
森のなかの村の計画だが、集落計画よりもスケールの大きな地域環境と関わりが深いと感じた。それは取り扱っている森の風景が都市のバックヤードである里山に見えるからだ。里山のうるわしい風景は現在荒れ放題だ。その再生のための計画と考えても良いだろう。再生されるのは、地域の風景であり、都市であり、集落であり、そしてそこに住まう人間だというわけだ。集落計画と地域環境学の中間の未知の領域をテーマにしたもので住環境学科にふさわしい作品だと思う。
「枚方駅前集合住宅リノベーション計画」
パースがうまい。パース担当教官としてはうれしい。作品はドミノ方式による集合住宅で、駅前の修景をテーマにしている。小単位のユニットが群れる形態で、木造密集地区のなかに溶け込むことをねらったように見えるし、そのもくろみは成功している。小単位のものが群れて、なおかつ全体で別の形態を表現するのは結構難しいが、それを上手にコントロールしている。他に別テーマを加えなかったいさぎよさも作品の質を高めることに役立っている。
「劇場 PICTURES AT AN EXHIBITION」
クラシック音楽の「展覧会の絵」の建築化だ。アリの巣のような精密な模型が迫力があっておもしろい。ほとんど全部が地下であることが興味深い。空間は中からしか見えないという意味なのだろう。文学や音楽を建築化した作品はこれまでしばしば作られてきたが、地味で根気のいる作業で完成させるのは大変だ。この作品はそれをきっちりとやり遂げているのがすばらしいと思う。
< 全体として >
以上、当日のメモをもとに書いたので、思い違いも多々あると思うが許してほしい。全体的にいくつか気になることがあるので、それを箇条書きにしておく。
1.図面枚数が少ない人が多い。何枚を適当としているのか知らないが、もう少し作図に時間をさくべきだろう。これは指導側の責任でもある。
2.円形プランは、よほど手慣れていないとまとまらないので避けた方がよい。考えすぎると無意識の底から自己の象徴として円のイメージが浮かび上がることがある。ライトが晩年、円形プランに取り付かれるのもそのせいだと私は思っている。円そのものの持つ象徴性が各自の個別テーマを押しのけて作品を印象づけてしまうおそれもある。円は扱いづらい形だ。
3.高齢化や少子化などの社会問題へ視点は大切なことだが、そこから建築への展開がうまく行ったり行かなかったりしているように見える。提出に間に合うことが課題の最低条件なのだから、問題意識と作図とをつなぐアイデアが浮かばなければ早々にあきらめて、個別の建築、たとえば美術館や劇場などにテーマを絞ったほうが良いと思う。これも指導側の問題でもある。
< 最後に >
卒業設計の場合、完成へ向けてかけのぼっていく過程は論文よりも時間の管理が難しい。それでも全員間に合ったことは特筆してよいだろう。全体として作品が明るいのは、この学年のカラーが影響しているのだろう。このクラスは1年のときから情熱的で純粋だった。そのカラーに支えられて全員がゴールできたのだろうと思う。このクラスが1期生で良かった。全員でやりとげたという前例は後輩たちに勇気を与えるだろう。展覧会はとても楽しかった。ありがとう。そして卒業おめでとう。
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