そこに居合わせたものたちは同時に夢から覚めた。長い時間がたったように思ったが、実際にはほんの数秒のことだったらしい。全員が驚いた表情で目を見張り口をだらしなく開けていた。土ぼこりに奪われていた視界は、明るい場所へ急に出たときのように次第に取り戻された。そこは夢を見る前と同じ祭殿だった。
「ようやく思い出したか」
巫女が沈黙を破った。
「あれ以外に方法は無かったであろう」
巫女だけがまだ新羅女王の姿のままだった。まだ部分的に夢は続いているようだ。まわりのものたちは呆然とそのやりとりを聞いた。
「あの時もうわしには天神の声は聞こえなくなっておったのじゃ。戦のさなかであったからの、言い出せずにいた。でもな、おぬしがおるからわしは安心しておったのじゃ」
「・・・姉さん!」
大巫は老婆の姿に戻っていたが声は若いときのままだった。そして姉に駆け寄ろうとして姿勢をくずし倒れ込んだ。巫女にはそれが見えていないようだった。同じ調子で言葉をついだ。
「おぬしは今でも気付いておらんようじゃが、お前こそ天神を司る神話時代の大巫なのじゃよ。そのことでおぬしは大層なものを背負い込むことになる。そこでわしは調べ回ったのじゃ。そのためにワイ族とは戦の前から通じておった。そのことはここにいる族長どもの父祖たちも知っておったはずじゃ」
巫女はそう言って族長たちを眺め回した。族長たちは驚いた表情のまま気圧されるように身を引いた。
「ワイ族だけではないぞ。百済とも交誼を結んでおった」
そう言って巫女は将軍を振り返って見た。将軍はそのことを全く知らなかったので驚いた。
「ワークワークともな。神話の巫女が復活したとなれば古式を伝えるお前たちの助けを仰がねばならんからな」
女官も初耳だった。そんな昔に新羅国と交渉があったとは。
「神話時代の大巫が復活したことは秘密にしておったのじゃがの。次第にうわさは広まってな。しかしな、大伽耶の一部のものたちともわしは通じておったのじゃよ」
そう言って巫女は太鼓叩きの少年を見てほほえんだ。少年は神話上の大巫の物語を父親から聞かされていたので真顔でうなづいた。巫女は再び大巫に向き直った。
「すまなかったの。戦の前におぬしに話しておけば良かったかも知れぬ。でもな、わしはどうしてもおぬしにそれを告げることができなかった。小さいお前に世界の全てを司れとはどうしてもな」
「・・・姉さん!」
大巫は手をついて顔をあげ、うるんだ目で巫女をみつめた。
「あれ以外に方法は無かったであろう。わしはな、大伽耶のよこしまな技がついえたことを喜んでおる。礼を言うぞ、ありがとう」
「・・・はい!」
大巫はほかに言葉が出なかった。忘れていた自分の行いを思い出しただけでも大変な衝撃だったが、なにより姉の本当の心を知ることができたのがうれしかった。老婆は涙で顔をくしゃくしゃにしながらまだ誰もみたことの無いような顔でにっこりと笑った。
最近のコメント